【外の道】

「ズルしてもいいかな……」
 躊躇いがちにセルフィは言った。
「オッケーだと思うよ〜、帰りも中を通らなきゃだめって指示はなかったもん」
 そう言わればそうだ。卑怯な選択のような気がしていたが、アーヴァインの言葉にセルフィの小さな後ろめたさは消えた。

 外は相変わらず月明かりで夜にしては明るかった。
 ふと風に乗って庭園の花の香りが今いる場所まで漂って来た。まるで道しるべのように、こっちだよと誘っているように。今度はセルフィが、アーヴァインを引っ張って歩いた。もうすぐ花の庭園に着くという所で急に雨が降ってきた。本当は、ここの花々を暫く楽しみたかったが、そういうワケにも行かず、二人は急いで屋敷へと走った。
「おかえり〜」
「お疲れ様です。温かい飲み物と冷たい飲み物どっちがいいですか?」
 リノアの笑顔と三つ編みちゃんの温かい言葉に迎えられて、セルフィは心からホッとした。
「ヘタレ野郎にしては、意外と早かったな」
「サイファー、またそういうことを言う……」
 相変わらずのサイファーの口の悪さを窘めるように一瞥して、キスティスが二人にタオルを持って来てくれた。

「お、虹が出てるぜ」
「虹〜? 夜なのに!?」
 髪を拭く手を止め、セルフィは冗談でしょ〜というようにゼルの方を見た。
「見られるんだぜ〜 昼間の虹に比べると条件が厳しいけどな、ホレ」
 それでも半信半疑のまま、セルフィはゆっくりとゼルが指さした方へと首を巡らせた。
「うわっ、ホントだ〜。虹が出てる〜、スゴイ!」
「ムーンボゥとかルナレインボゥとか、ちゃんと名前があるんだぜ」
「さっすが、物知りゼル」
「信じてなかったくせに、セルフィはほんっとゲンキンだよな」
「気にしない、気にしない」
 知らない間に雨は止み、満月の下の方には確かに虹が出ていた。
 昼間のように鮮やかな色ではなく白っぽいが、きちんと色が幾つか並んだ半円の虹が見える。

 月虹を見る事が出来るのは本当に希なのだ。南の方でなければ見られない。また満月付近でなければ光量が足りず見られない。そして、雨。更にその場に居合わせなければならない。多分、オーロラや流れ星を見るより、確率は低いだろうとゼルは言った。
「そう言えばね〜、月虹を見ると『幸せが訪れる』って聞いた事があるわ」
「こんだけレアだと、なんか叶いそうだよね〜」
 いつの間にか、リノアとセルフィはまだ雨の匂いの残るテラスへ出て、月の虹を楽しんでいた。
「惜しいわね、あともう少し遅ければ絶好の誕生日プレゼントだったのに」
 キスティスがそう言った時には、もう虹はゆっくりと消えようとしていた。
 儚い一瞬の幻のように。
「だれのですか?」
「セフィのね」
 三つ編みちゃんの問いに答えたのは、本人ではなくアーヴァインだった。
「そうなんですか。明日はお祝いですね」
「お祝いしてくれるの、三つ編みちゃん。嬉しいな〜」
「はい、何か食べたいものがあったら言って下さい。頑張って腕をふるいます!」
 普段は大人しめの三つ編みちゃんがぐっと腕をあげて、笑っていた。
「ほんとに〜、ありがとう」
 真夏の夜は、夢のように穏やかに和やかに更けていった。





【グッドED】

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