【主寝室】
「どっちでも一緒だよね?」
「ん〜、ま、そうかな。じゃ右から行く?」
セルフィが静かに頷いたのを見て、アーヴァインは右側のドアを開けて、おそるおそる室内へ足を踏み入れる。
微かに空気が動いた気配がした。
窓に吊るされた古びたカーテン越しに零れ入る光が、僅かに室内を朧気に映している。けして大きくはない部屋だが、布が掛けられた小さなチェストらしい物が一つある他は家具は見当たらなかった。
床の痛み具合が違う部分が、大きな四角で二つある所を見ると、主の寝室だったのだろうか。
そんな事より、“紙”を探してさっさとこの部屋を出たい、幽霊の類は出ないと言われても、この家の雰囲気だけで、セルフィの恐怖心を煽るのには十分だった。
ロウソクの明かりを移動させて“紙”のありかを探す。だが、家具が殆どないにも関わらず、一通り室内をぐるりと見回ったが、紙は見当たらなかった。焦る気持ちが返って見える物も見えなくしているのか。セルフィはアーヴァインの腕を放すことなく、もう一度ゆっくりとロウソクを動かした。
「あ、あったよ。あそこ」
アーヴァインの声に手を止めると、床に“紙”が置いてあるのが見えた。アーヴァインは素早く紙を一枚手に取ると、努めて柔らかく「つぎ行こう」とセルフィに微笑んだ。
冷静になれないセルフィの分もアーヴァインは冷静なように思えた、傍目には。
きゅっと唇を噛み、アーヴァインを見上げてこくんと頷いた顔が、明らかに怯えていて、ちょっとこの顔を堪能したいなどという、イケナイ妄想をぐいっと振り切ってアーヴァインはセルフィを連れて廊下に出た。
「次は、右隣の部屋にする? それとも向かい側の部屋?」
【向かいの部屋へ入る】
【右の部屋へ入る】
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