絶対唯一 君独尊

8
「わざわざありがとうアーヴァイン、安心したわ」
 アーヴァインから詳しい状況説明を受けて、キスティスは心底ホッとした表情で礼を言った。
「あなたには迷惑かけちゃうけど、セルフィのことお願いね」
「メイワクどころか、僕にとってはタナボタだけどね〜」
 昨日とは別人のような顔をしておどけてみせたアーヴァインに、キスティスもいつものようにクスクスと笑った。
「で、そっちの方はどうかな?」
 丁度今キスティスが操作している、モニター画面をチラと見てアーヴァインは問いかけた。
「ああ、いいわよ。今までの取れていない分もあるし、問題ないわ」
「さんきゅ。あ、サイファーにはキスティから伝えといてくれるかな、心配してるよね?」
「ええ、そうね。私から言っておくわ、スコールにも」
「スコールも?」
「そうよ、心配してたわ。相変わらず口にも顔にも出さないけど」
「そっか〜 セフィは愛されてるな〜」
「妬ける?」
「ちょっとね〜 二人ともイイ男だからね〜」
「あら、あなたもイイ男よ」
「その笑顔に嘘偽りはないと思って、ありがたく受け取っておくよ」
 否定も肯定もせず、相変わらずの艶麗な笑みを湛えているキスティスに、アーヴァインは軽く手をふって彼女の職務室を後にした。
 寮に戻る途中の通路でサイファーとすれ違った。珍しく物言いたげな顔をしているように見え、すれ違い様に「セフィは大丈夫だから、ありがとう」と告げると「おめーに礼を言われる筋合いはねぇ」と可愛げのない言葉が返ってきた。それでも、少し離れた所で「やるよ」と投げてよこしたチョコレートはセルフィの好きなヤツで、それだけでサイファーの本心はよく分かった。
「やっぱ、ちょっと妬ける、かな」
 アーヴァインは手の中を見て自嘲してから、足を踏み出した。
 自室に戻り、途中食堂で調達してきた食料を冷蔵庫に入れ終えて、セルフィの様子を見に行くと、まだ気持ちよさそ〜に眠っていた。セルフィがベッドに入ってから、かれこれ六時間くらいになるが、起きそうな気配はない。さてどうやって時間を潰すか。夕食は食堂からテイクアウトしたものがあるので、作る必要はない。
 アーヴァインはベッド脇で膝を付いて、ぼ〜っとセルフィの寝顔を眺めながら考えた。気持ちよそうな寝顔を見ているうちになんだか自分も眠くなってしまった。外任務から帰って、自分もゆっくり休める状況ではなかったのを今更ながら思い出す。
「セフィと一緒に寝よ」
 大きく一つあくびをすると、アーヴァインはシャツとジーンズを脱いでセルフィの隣にもぐり込んだ。




『ん〜と、これは、アービン?』
 寝返りを打って何かに当たった感触が何だったか、セルフィはぼやけた頭で考えた。
『あ、やっぱりアービン』
 いつの間にかアーヴァインが隣で眠っていた。
 キスティスの所へ行くと言っていたのに、ここでこうして寝ているのはどうしてだろう。アーヴァインのことだから眠くなって止めた、というワケじゃないだろう。それに部屋の中が幾分薄暗くなっている。ということは、それだけの時間が過ぎているということだ。ほんの二、三時間休むつもりだったのに、まさかと首を巡らせて時計を見れば、もう夕方を指していた。
「寝過ぎ……これじゃ夜眠れへん」
 セルフィは時計を見るために上げていた頭を、またぼふっと枕に沈めた。ゆっくりと瞼を閉じて開けば、目の前にはアーヴァインの横顔が見えた。なだらかな額から伸びる鼻筋は、躊躇いのない綺麗なラインをしている。そこから続く柔らかな曲線の唇は少し開かれ、規則正しい寝息が聞こえた。
「よく寝てる」
 外任務で疲れて帰ってきたのに、帰ってくるなり、自分が抱きついて大泣きして、更に疲れたことだろう。だからゆっくり眠らせてあげたいと思う。反面、綺麗な菫色の瞳が見られなくて残念だとも思った。
 確かめるように唇近くに伸ばした指先には、くすぐったいような規則正しい寝息が触れ、残念ながらまだまだ深い眠りの中にいるのだと知らされる。
 セルフィはじっとアーヴァインの眠っている横顔を見つめた。
 整った睫とか、ちょっとだけ額にかかった柔らかい髪とか、とても好きで、いくら見ても見飽きない。もっとよく見たくなって、身体を起こして近づいた。上から見るとまた横顔とは違う魅力がある。清艶な神を模して創られた彫像のような。ほんの気持ち程度下がった目尻が与える柔和な印象が、セルフィは大好きだった。そこに菫色の瞳が加われば完璧なのに。
 けれど、セルフィの見たい菫色の瞳は未だ開きそうにない。きっと今ならキスをしても、少しくらいつねっても、気付かないんじゃないだろうか。そう思うと行動に移したくなり、セルフィはそっと唇を重ねた。触れた時と同じようにそっと離れようとした途端、何かに拘束される。
「アービン起きてたん!?」
 セルフィは慌てた、よく眠っていると思ったアーヴァインに抱きしめられているのだと分かって。
「眠れる皇子は姫のキスで目覚めるのが、お伽噺の常識でしょ〜?」
「そんなん初めて聞いた」
 あれほど見たいと思っていた菫色の瞳は、予想外の近さにあった。やっぱりそれは思っていた通りとても綺麗ではあるけれど、そこに映っている自分の姿はとても恥ずかしく、セルフィは思わず顔を逸らしてしまった。
「そう? ついでにさ、本当のお伽噺はこの後……」
 アーヴァインの声はそこで途切れたままだった。顔は逸らしても、甘やかな声はきっちり耳に届く。セルフィの心臓は自分にも分かる位、ドキドキと脈を打っている。だが、アーヴァインの言った続きも気になる。聞けばまたドキドキは激しくなるだろうと思いつつも、危険だと思いつつも、その向こうに今自分の求めているものがあるような気がして、訊かずにはいられなかった。
「この後……なに?」
「幸せに暮らしました」
 にこにこと言ったアーヴァインに、期待していたものとは全く違う答えだったことに肩すかしを喰らう。
「あれ、なんか不満?」
 期待していたものと違って、困惑しているのが顔に出てしまっていたのか、それとも勘なのか。いずれにせよ、セルフィにとっては図星だった。
「そんなことないけど……てっきり……」
「てっきり、なに〜? セフィの希望はどんな結末?」
「―――― どんなって……」
「僕はセフィの望む結末を叶えるよ」
「……って」
「言葉じゃなくてもいいから」
 セルフィは意を決してキスをした、さっきのとは違う“答えを載せた”キスを。
「いいの? 今日の僕は手加減しないよ」
「な、なんで!?」
 答えを伝えた途端攻勢に回った台詞に、セルフィは少しばかりたじろぐ。
「僕以外の男に――って話しを聞いて、平静でいられるような男だと思ってた?」
「でも、昨日からずっと冷静っていうか、ずっと落ち着いてたよね?」
「そう見えてたなら、ある意味それは成功だけど、心の中は大嵐だったんだな、これが」
「そ、そうなんだ……」
 嫌な予感がした。その前に本人が宣言してしまった。だから――――。
「逃げちゃダメ」
 行動に移す前に、アーヴァインの腕はきっちりセルフィの腕を捉え、くるんと仰向けにしていた。
「うわっ、ちょっ、アー……んんっ」
 更に余計なことを考える前に唇を塞ぐ。愛らしくて、柔らかで、時に憎らしい言葉を紡ぐ唇を、心ゆくまで堪能してからアーヴァインは解放した。
「イヤ?」
 大して長くもなければ、深くもしていないのに、その頬はすっかり赤く色づき、夕闇のせまるこの空間で一層深くなった翠の瞳は、少し潤んでいる。だから、敢えてそう問いかけた。その唇から再び答えが聞きたいがために。
 こうなってしまったら自分でも止めることは出来ない。次から次へと湧き上がる欲求をそのまま口にし、そのまま行動に移す。そして少しくらいの抵抗なんか無視して突き通す。可笑しいくらいに、即物的で動物的。けれど分かってほしい。こういう欲求を抱くのは、ひとりだけ。
 唯ひとり、今僕を見上げてくる、君だけ。
「アービンの方が……イヤなのかと思った」
「はい〜?」
 思っていた返事とは全く違うものが返ってきて、アーヴァインは面食らった。
 どうしてそこで、相手がイヤがっているなどという答えに行き着いたのか。やっぱりセルフィの考えることは、自分の予想を遙かに超えているとアーヴァインは思った。
「どうしてそんなこと思うの?」
「……だって……昨夜も今朝もスルーで…………イヤなのかな? って」
 真っ直ぐに見下ろすアーヴァインから少し視線を外し、セルフィは耳までも赤くしてちょっと不機嫌な顔をしているように見えた。
 ということは何か、昨夜も今朝もまるっとオッケーだったのか!? セルフィのためを思い、なけなしの理性に従って耐えたのは、全くの徒労だったと? それどころか、今の言い回しだと、セルフィは望んでいたということではないか。アーヴァインは後頭部をどでかいハンマーで思いっきり殴られたように、目の前がぐらんぐらんした。ついでに腕の力も抜けてしまい、セルフィに覆い被さるように伏せってしまった。

「――セフィのことを思って、ガマンしてただけだよ」
 いつまでもそうしているワケにもいかず、少し身体を浮かしてアーヴァインは都合良く唇の近くにあった耳に、囁くように告げた。
「んっ…」
 くすぐったそうに身じろぎして、聞こえたセルフィの声は、とても甘やかだった。そしてアーヴァインに決定打を与える。もう絶対手加減なんか出来ない、してやらない。自分で課していた枷は今セルフィによって、あっさり取っ払われてしまった。本人が気付いていようがいまいが知ったこっちゃない。
 男の純情、その身で受けて貰う。
 アーヴァインは、見上げてくる戸惑ったような瞳を無視して、さっきとは全く違う強さで口づけた。セルフィの全てを絡め取るように、貪欲に。まだ微かに残っていた木イチゴの香りが、一層激しくアーヴァインの心を急き立てた。
 口づけの合間を縫って聞こえるセルフィの声は、苦しげで、どこか刹那的で、それでいて甘やかだった。両腕は彷徨うように、探るようにアーヴァインの背中に触れている。その腕がしがみつくように強く肩を握ったりなんかしたら、今すぐセルフィを貫きたい衝動に駆られる。
「…ぁ」
 いつもなら離せと胸を叩かれるのに、今は名残を惜しむかのようにまだ腕が絡み付いている。アーヴァインは嬉しく思ったが、もっとその唇を味わいたいとも思った。だがそれは後まわしにする。「おわり?」と問うような瞳にアーヴァインは笑みを返して、今度は額に口づけた。

「は……」
 君を愛でるのは唇だけじゃないんだよ。
 ボタンを外す毎に、そのシャツの淡い色より尚薄い色素の肌が現れる。多分このシャツは持ち主よりも君の方がよく似合う。今度写真に撮りたいと言ったら、怒るだろうか。それよりも、指先に触れることを許された肌の方が、今は数倍魅力的だ。少し伸ばされた首筋から鎖骨、もっと下へと辿ると、セルフィが息を呑んだのが分かった。ボタンが外れたシャツの隙間から覗く白い肌は、とても扇情的だ。その奥にある場所へと柔らかな肌の上を指を滑らせれば、いとも簡単に丸い膨らみに触れることが出来た。少し上体を起こし、反対側のシャツもはだけると、対の双丘がこの眼に晒される。なんて愛らしいのだろう。それでいて先端の緋色は対照的に艶めかしい。口の中にじわりと唾液が広がるのを感じた。すぐにでも唇で撫で、舌で舐め取りたいと思うが、まだこの眼で見ていたいとも思う。
「――アービン?」
 名を呼ぶ声に視線を移動させれば、戸惑ったような瞳とぶつかった。あんまりじっとし過ぎていたね、ごめんね。
 片方の丸みを手でそっと包むと、セルフィはまた吐息と共に目を閉じた。アーヴァインが指先で、先端をくるりと一撫ですれば、「あ…」と甘い声が溢れた。
 それが合図だったかのように、アーヴァインは動いた。
 手と唇と舌で、思う存分乳房を愛でる。それに満足すれば、指先は新たなる場所を求めて様々な場所を彷徨い始めた。ゆるゆると指を移動させ、その合間に胸の先端には軽くを歯を立てることもする。そうすると、セルフィの肌身は小さく跳ね、好い声が聞こえた。胸への刺激にセルフィが翻弄されているうちに、アーヴァインは指をするりと内股へと滑り込ませた。
「…っ!」
 閉じられた脚を少し開き、下着の上から秘所に触れれば、しっとりとした感触を布越しに感じた。悲しいくらいに単純な身体は、すぐさま歓喜の熱を巡らせる。それに苦笑する余裕もなく、アーヴァインの指は下着の中へと侵入を試みていた。まるで自分の意志など関係ないとでも言うかのように、勝手に先へと進む。つぷりと源泉まで辿り着けば、殊更に甘い声が聞こえ、ぴくりとセルフィの脚が強張った。
 もっと深く君を味わいたい。
 そう思った途端、アーヴァインは最後に残っていた下着をはぎ取ると、セルフィが気付くよりも早く行動を起こした。
「ダメッ」
 いきなり襲った強い刺激に、堪らずセルフィが声をあげる。
 それを拒否ではないと知っているアーヴァインは、構わず秘所に唇を押し当て、溢れる蜜を掬うように舐め上げた。そうすると、制止の為に伸ばされたセルフィの腕は力なくパタンとシーツの上に落ち、代わりに花芯からは新たな蜜が溢れ出る。小さな蕾を舌で転がせば、ひときわ艶やかな声と共にセルフィの腰がうねった。絶えず唇と舌で花芯と蕾を愛でれば、セルフィの呼吸はどんどん荒くなり、秘めやかな場所がひくついた。
 もう限界だと告げるように熱と芳香を発する身体から、アーヴァインは痛突に離れた。達する直前で行為を止められ、戸惑った瞳がアーヴァインを見ていた。アーヴァインは、衣服を脱ぎ捨てると、自分を見上げているセルフィに腕を伸ばした。
「セフィ、きて」
 セルフィは訝かしそうにアーヴァインを見ながらも、伸ばされた腕におそるおそる手を差し伸べた。アーヴァインはセルフィの腕を取ると素早く引き寄せ、後ろから抱きしめるようにして腿の上に座らせた。
「え!? …やっ」
 セルフィが戸惑っているうちに、首の後ろに口づけ、「愛してるよ」と低い声で囁くと、いきなりで驚いている身体の緊張が少し解けたようだった。
「んっ……」
 身体を少しずらして今度はちゃんと唇にキスをする。深く、熱く。そうすると甘やかな声も聞こえ、セルフィからも舌を絡められたことにアーヴァインは安堵した。手は再び柔らかな肌を探索する。双丘を包むように揉みしだき先端を爪はじくと、頭をアーヴァインに押しつけるようにして、セルフィの背中が弓なりに反った。押しつけられた肌からはまた木イチゴの香りが漂い、アーヴァインの鼻腔をくすぐる。食欲をそそるその香りは、別の欲もそそった。それは既にセルフィの肌身に半ば酔いかけていたアーヴァインの、理性を手放す速度に拍車をかけた。
 乳房から手を離し、セルフィの膝の下に手を差し込みそのまま横に引く。片方の足も同じように。そうするとセルフィの脚は大きく開かれる形になった。セルフィは慌てて太腿に力を入れ閉じようとしたが、先に割り込まれたアーヴァインの脚に簡単に阻止されてしまう。
「やだっ」
 偽りの拒絶とは違う、はっきりとした拒絶の声音だった。
「誰も見てない」
 耳の輪郭をなぞるように触れたアーヴァインの唇から溢れた言葉は、まるで呪文のようにセルフィの心を惑わせ、羞恥の感覚を曖昧にぼかした。僅かに残っていた恥ずかしさも、太腿の内側を滑るように指が辿り着いた先で沸き起こった衝撃が、あっけなく吹き飛ばしてしまった。小さな蕾を指先でついと撫でれば、ひときわ艶を帯びた声があがり、腰がくねる。アーヴァインは、更にその向こう溢れると泉となっている場所へ指を沈めた。
「ぁあっ…」
 セルフィの肌身が跳ねると同時、アーヴァインの腕に絡められた指先に力が入った。身体はその快楽から逃れるかのように藻掻くのに、骨張った指を受け入れている場所は離したくないと言うように締め付けた。
「っ、ん……ぁ…」
 体内で蠢く指に堪らずセルフィが身を捩る度に、アーヴァインの肌と擦れ合い、汗の匂いと甘やかな匂いが混ざり合うように、互いの間をゆらゆらと立ち昇る。
「あぁっ」
 荒ぶる呼吸の中で、短い言葉が発せられると、セルフィの躯が大きくビクンと震えて力が抜けた。
「…セフィ」
 達したばかりの耳に届くかどうかは分からなかったが、アーヴァインは愛しい名前を呼んだ。ぐったりともたれかかった身体を支え、そっとシーツの上に横たわらせる。淡く色づき無防備に晒された肌に、アーヴァインは暫し魅入った。眠っているのか、気を失っているのか、その深翠の瞳はまだ開かない。頬に絡み付いた髪を払おうとアーヴァインは手を伸ばした。すると閉じられていた深翠の瞳がパチッと開き、アーヴァインの腕を掴んでぐいっと引っ張ったかと思うと、そのままくるんと転がし大きな身体を上から見下ろしていた。
「今度はあたしの番」
 アーヴァインの顔の横に腕をつき、セルフィは艶を帯びた笑顔を見せた。
「え!?」
「こうでもしないと、アービンは逃げるでしょ?」
 驚き顔のアーヴァインに、セルフィはちょっと勝ち誇った気分だった。
「甘いね」
 だが瞬時に驚きの表情は、掻き消えた。
「は? なん……わっ!」
 再びセルフィは簡単にアーヴァインに組み伏せられた。
「ずるい〜」
「それは次の回にして」
「へ? ツギ?」
「ダメ?」
 セルフィは暫く考えていたようだったが、小さく「わかった…」と呟いた。

「愛してるよ、セフィ」
「ん、ありがと」
 セルフィは腕を伸ばしてアーヴァインの頭を引き寄せ口づけをした。
「……ん、ふっ」
 腿を持ち上げアーヴァインがセルフィの中へと分け入ると、彼女の甘やかな声が重ねた唇の隙間から零れた。首に絡められた腕にはしがみつくように力が籠もる。アーヴァインはセルフィの唇を捉えたまま、彼女をも捉える。けれど絡み付くような彼女に、捕えられたのは自分の方かも知れないとも思う。こうして、深く、強く、貫きながら、この腕の中に抱きながら、彼女の心の中も自分で満たしたいと思う。
 縋ってくる腕をずっと解かないでほしいと思う。
「セ、フィ…」
 世界が白くフェードアウトする瞬間、セルフィがこっちを見て微笑んだ気がした。




 温かな指先が頬に触れ、髪をそっと後ろへ払ってくれた感触がした。
「セフィ」
 もっと温かさを求めて腕を伸ばし抱き寄せる。
 もう木イチゴの香りはしない。でもセルフィの匂いはする。それだけで満足だ。
「アービン、まだ眠い?」
 目を閉じているのを眠いと思っちゃったのか。ちょっと眠い気もするけれど、今眠ってしまうには勿体なさ過ぎる。まだ君の肌の感触を感じていたい。
「眠くはないよ」
 目を閉じたまま吐息混じりに告げると、君はもぞもぞと身体を動かした。
「お腹はすかない?」
 そう言えば君は朝食だけ食べて、さっきまで寝ていたんだっけ。
「ちょっとすいたかな」
 軽くお昼は摂ったけど、今運動もしたし。
「晩ご飯食べよっか」
「うん」
 やっと目を開けて言うと、嬉しそうな笑顔の君がいた。
「その後で着替えとか取ってきなよ」
「別にいいよ〜。明日の朝になれば自分の部屋に帰ってから職務に行くし」
 やっぱりそんな風に思っていたのか。先手を打っておいて良かった。
「セフィの分も一緒に休暇をもぎ取ったから。僕の休暇の間はずっとここでこうしていられるよ」
 僕の言葉でセルフィの驚いた顔が、さっきの行為のせいかまだ頬が色づいていて、キスしたいな〜と思うのを必死で押し止めた。夜は長いし、その後も暫く一緒に過ごして貰うには、ここは大人しくしておいた方が得策だということを、僕はイヤというほど経験した。
「セフィの好きなチョコレートもあるよ」
 そう言うと、深翠の瞳が綺羅と輝いたのを僕は見逃さなかった。


END

長い話にお付き合い頂きありがとうございました。SeeDやってりゃこんな状況もあるよね、という話でした。
襲われかける彼女を助けるのは、彼氏だよな〜とも思いますが、これがうちらしい『アービンとセフィ』みたいです。
エロの部分はもう殆どテンプレートですね。(^◇^;)
(2008.11.14)

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