Frozen pain

3
「セルフィちゃん、好き嫌いは?」
 夕食時、料理を皿に取り分けながらレックスはセルフィに訊いてきた。
「あんまりないです」
「そうなの、エライな〜」
「とうさんは?」
 まだオーブンの前に立っているアーヴァインの声がした。
「父さんは、いま仕事が佳境だから、仕事場に籠もってるの。多分明日のお昼くらいには、終わるんじゃないかなと思うわ」
「そっか。じゃ、食べようか」
 最後の一品を運んできたアーヴァインがテーブルに着くと、和やかな雰囲気で夕食の時が流れた。
「セルフィちゃんも、アーヴァインと同じ孤児院出身だっけ?」
「はい、よくご存じですね」
「やっぱり、そうなのね〜」
 レックスはセルフィの答えを聞くと、ふふと笑いチラッとアーヴァインの方を見た。けれど、笑みを送られた方のアーヴァインは、珍しくそれを無視して黙々と食事をしている。
 セルフィはアーヴァインから聞いたのだろうと思って、軽く答えたが、目の前の二人の物言わぬやり取りに、何かあるのだろうかと思った。が、やっぱり大して気にはしなかった。
「アーヴァインね、うちに来た頃なかなか馴染めなかったのか、よく泣いてたのよね。セルフィちゃんはそんなことなかった?」
「レックス、変なコト言わないでよ」
 小さい頃のことを言われて気恥ずかしいのか、アーヴァインはバツが悪そうに、レックスを見ていた。
「変なコトって、よく泣いてたってこと? 小さかったんだから、泣くのは当たり前だと思うけど? 学校に上がっても、心ない言葉を言われたりしたでしょ?」
「苛められたりとか、あったんですか?」
 セルフィは、レックスの言葉が聞き捨てならなかった。それは自分が育った環境とは、あまりにも違い過ぎて。
「そうなのよね。それがこの街の良くない所というか……」
 レックスの話によると、デリングシティでは養子縁組は珍しいことなのだそうだ。孤児はいるし、養護施設もあるが、戦災孤児は殆どいない。いても他国から逃れてきた子供だった。軍事力の強いガルバディア国内が戦場になることは極希で、近年首都であるデリングシティでは皆無だった。
 そして、当時キニアス家はアーヴァインと変わらぬ年頃の男の子を亡くして間もなかった。そういう事情下でアーヴァインが引き取られたということもあって、余計に人の口の端に昇ったらしい。
 アーヴァインを引き取る時レックスの母親は、そんな状況もあって反対した。けれど、父親の方が強く希望した。
「私も最初は複雑だったのよ。弟をが亡くなったばかりだったし、父さんは何考えてんだろうと思ったわ。――でも、結局、アーヴァインを引き取るのを決めたのは母さんなのよね」
 セルフィとレックスが、殆ど食べることを休んで、話をしているのに対してアーヴァインは、話を聞いてはいるようだったが、いつものような笑顔もなく、かと言って口を挟むこともせず、淡々と食事を進めていた。セルフィは、アーヴァインの様子にあまり聞かれたくない話ではないかと思いつつも、どうしてもこの続きが知りたかった。
「お母さん、反対されてたんですよね、どうして気が変わられたんでしょう」
「何が変えたのかは分からないけど、アーヴァインの顔を見た途端、引き取りたいって言ったのよね」
 レックスは、左手に持っていたままだったフォークを静かに皿に戻した。
「私は、放っとけなかったんだろうな〜と思ってるんだけど」
 一口料理を食べるとレックスは再び話を続けた。
「放っておけなかった、ですか」
「なんかね、見るからに大人しくて、気が弱そうで、放っておけなかった」
「あ、それあたしも分かります」
 セルフィもイデアの家にいた頃のアーヴァインは、レックスの言う通りだと思った。
「よね〜? けっこう可愛かったし」
 レックスに同意の笑顔を向けられて、セルフィはちょっと照れくさかったがちゃんと頷いた。
「でもやっぱり見た目通りに気が弱くて、学校で苛められてるのを見つけると、必ずその子たちを蹴散らしたわ」
「レックス、その辺のガキ大将より強かったよね」
 アーヴァインが思い出し笑いをしながら会話に入ってきた。
「私に言わせれば、男の子たちの方が弱かったのよ。でも、お陰で親友に出会えたのよね」
「レックスとその親友どのは、結局学校で一番強くなっちゃって、僕は喜んでいいのか、悲しんでいいのか複雑だったよ」
「あら、フツーに感謝してよ。あれから誰もアンタのこと苛めなくなったんだから」
 セルフィは二人の会話を聞いて、レックスのイメージがガラガラと崩れるのを感じた。あの物腰の優しい綺麗な店員さんが、実は熱〜い姉御肌気質の人だったとは……。イメージは崩れたが、嫌いだとは思わなかった。むしろ、あこがれる。そんなお義姉さんがいるアーヴァインがちょっと羨ましい。苛められていたという話を聞いた時には、この家に引き取られたことは良くなかったのかと思ったけれど、こんな温かいお義姉さんに出会えたのなら良かったのかなと思う。
 そして、本当に世界は広いと感じた。
 このデリングシティと、自分の育ったトラビアは、全く逆だった。トラビアは他国に比べて人口も少なく、自然が厳しいせいか、人の繋がりが濃密だ。村や集落が一つの家族という概念の地域が多い。セルフィの育った所もそうだった。だから、子供のいない夫婦の所へ子供の複数いる親が、養子に出すことはごく当たり前のことだ。家族なのだから、それが当たり前。そもそも“養子”という表現はふさわしくないかも知れない。血が繋がっていようといまいと、共に住み、暮らせば家族なのだ。
 そういう環境下で育ったこともあって、養子なんていう理由でイジメがあるということを知った時、酷く驚き、軽くカルチャーショックを受けた。まさかアーヴァインにもそんな過去があったことなど、露ほども思っていなくて、今も結構ショックだった。

「村や集落が一つの家族か〜、すごくいいわね、そういうの」
「僕もその話初めて聞いた。そっか〜、だからトラビアの人はみんな逞しくて、強くて、優しいんだ」
 セルフィは嬉しかった。自分にとってはごく当たり前のことだけれど、こうやって褒められるとトラビアの誇るべきものなんだなと思える。他国に比べて僻地の小国という印象だけれど、こうして自慢出来ることがあるんだと思うと、本当に嬉しい。
「てことは、セルフィちゃん、タコヤキ作れる?」
「タコヤキですか?」
 いきなり話が飛躍してセルフィは戸惑った。
「そう、タコヤキ。トラビアの家庭には専用の鉄板が必ずあるという、あのタコヤキ」
「作れますよ」
「わっ、ほんとに〜。作ってもらえないかな〜、鉄板もあるし、作り方も教えてもらったんだけど、どうしても上手く焼けないのよね」
「いいですよ〜」
 他の料理はイマイチ自信がないが、タコヤキだけは養父仕込みの腕には自信があった。なので、セルフィ は軽く了承した。
「ほんとに〜 嬉しい、ありがとう。材料は明日買ってくるわね」
 レックスは本当に嬉しそうに笑った後、料理が冷めてしまうと、慌てて食事を再開した。




 夜も更けた頃、しんと静まりかえったキッチンでアーヴァインは、ケトルをコンロにかけてぼ〜っとそれを見ていた。そして少し息を吐く。
 窓の外に視線を向けてみたが、薄いカーテンの向こうには闇があるばかりで何も見えなかった。
「――――とうさん」
 闇の向こうを見ながら、口の中で小さく呟く。
 ふいに後ろから足音がして、振り返ればレックスがこっちへ歩いて来ていた。
「どうしたのレックス、まだ寝ないの?」
「ちょっと、することがあって。セルフィちゃんは?」
「眠った。ベッドに入った途端瞬殺。せっかくだしお茶でも飲む?」
 やっと緊張が解けたんだろうなと、アーヴァインはこてんと糸が切れたように眠ったセルフィの姿を思い出し苦笑した。
「ありがとう、お願い」
 レックスが手に持っていた本を脇のテーブルに置き、椅子に腰を降ろした頃合いを見計らって、アーヴァインは茶を淹れたカップを、彼女の前に置いた。いつものように、他の人とは取っ手を逆向きになるように。
「前に話した翠玉茶、どうぞ」
 静かにカップを持ち上げると、レックスは軽く香りを吸い込んでから口をつけた。
「口当たりがさっぱりしてて、ちょっとだけする花の香りがいいね。よくこういうの見つけてくるわよね〜、ホント感心するわ。コレ、ウーロン茶?」
「そ、ウーロン茶。最近の新しいお茶だって」
 どうやら義姉に気に入られたらしいのが分かって、アーヴァインは自慢げににこにこと笑って答えた。
「遅くなったけど、レックス、結婚が決まったんだってね、おめでとう」
「ん、ありがとう」
「で、相手は、誰? 僕の知ってる人?」
「アーヴァインは知らないかな。アンタがガーデンに行った後、入ってきた父さんのお弟子さんだから」
「え!? そうなの、びっくり。レックス、職人はいやだって言ってなかったっけ?」
「――言ってた」
 気恥ずかしいのか、レックスにしては珍しく少し頬を染めて顔を逸らしていた。そういう顔をする義姉は酷く新鮮で、アーヴァインはとても微笑ましいと思った。
「そういうの越えちゃうくらい、魅力的な人だったんだね〜。とうさんも喜ぶだろうし良かったじゃない」
「そりゃ、まぁね……」
 相変わらず照れくさそうな笑顔で、翠玉茶を一口飲んでからレックスは答えた。
「アーヴァインはどうなのよ! いつから付き合ってたの!? しかも、あのセフィちゃんなんでしょ!? それなのに、全然言わないのってどうなの!? 何度もお店で顔会わしてたのに〜」
 レックスは不利な形勢を逆転とばかりに、急に早口になった。
「あ〜 ゴメン。話すと長いよ、聞く?」
 アーヴァインはレックスには話すべき内容のような気がした。
 この家に引き取られて間もない頃、寝言で言っていたけど誰? とレックスに聞かれた。余程泣きそうな顔をしていたのか、頭を撫でながら、辛いことを聞いてしまったのならゴメンとも言われた。ハキハキものを言う、気の強そうな人だと思っていたので、簡単にゴメンと言われたのは驚きだった。あの時は、小さいながらも誰にも、セルフィのことは触れられたくなかった。知られたくなかった。本当に大事な思い出だったのだ。そんな思いから、結局セルフィのことは言わなかった。そしてその後、レックスは一度もそのことを聞いてこなかった。
 聞かない優しさ、言わない優しさ、っていうものがあるんだと学んだのは、この義姉からだったような気がする。

「なんて言うか、その話で一本映画が撮れそうね」
 アーヴァインの話を聞き終えると、レックスは本当に感動的な映画でも観た後のように、くんと腕を伸ばして息を吐いた。
「ちょっと陳腐だけどね」
 からかわれるかなという思いもあったので、アーヴァインはそう言われたことが素直に嬉しかった。
「よかったね、ホントに。一歩間違えたらストーカーだけど、ほんと良かったね」
「それ褒めてんの? けなしてんの?」
 随分な言われようではあったが、そういうピリリとした発言をするのが、実にこの義姉らしいと妙な安堵も覚えた。感心されるばかりだと、却って背中がむず痒い。
 こうしたスパイスを利かせた部分がある義姉が、アーヴァインは好きだった。
「でも、不安も増えた。やっぱりSeeDって危険度高いわね。他にも危ない目に遭ってるんじゃないの? 卒業したらSeeDもそこで辞めるのよね?」
 アーヴァインは虚を突かれた。散々自分から男の子に向かって行ったレックスとは思えない言葉を聞いて、少なからず驚いた。
 そりゃ未知のウィルスに感染して死にかけた、って話を来て驚かない人間はいないと思うが。それでもレックスは今まで、SeeDであることに対してはっきりと、反対の意志を示したことはなかった。SeeDがどんなものかきちんと説明していたし、その道を選ぶつもりだと話した時にも、特に反対はされなかった。
「何で今さらそんなことを言うの?」
「だって危ないじゃない、ガーデンて20才で卒業でしょ? それまでなんでしょ?」
 アーヴァインは静かに首を横に振った。ひょっとしたら、20才までという期限があったから、何も言わなかったのだろうか。それとも――――。
「SeeDがどんなものかは知ってるわよ。でも知っていただけ。実際、死にかけたなんて話を聞いて、今すごく動揺してる……」
 アーヴァインはまたレックスの珍しい顔を見た。唇を噛みしめて、悲痛な顔をこちらに向けている。
「僕は承知で選んだんだよ。普通は卒業したら自動的にSeeDも辞めることになるんだけど、僕の場合ちょっと特殊で、このまま続けることになりそうなんだ」
「SeeDの重要度は分かるわよ。独裁者デリングの他国への侵攻をことごとく阻んだのはSeeDだって聞いてる。でも、何もアンタじゃなくてもいいじゃない。悪い魔女もいなくなったんでしょ? もういいんじゃないの? 銃を取るようなことなんて、その銃で誰かを……もっと最悪なのは……」
 レックスはその先の言葉はぐっと呑み込んだ。
 家族からすれば当然だろうとアーヴァインは思った。だからと言って、はいそうですか、と簡単に辞められるものではない。自分なりに考えて、考えて、考えた上で決めたことなのだ。
「レックス……」
 レックスはもう泣きそうな顔になっていた。そんな義姉の顔を見るのはアーヴァインも辛かった。既に弟を一人亡くしている。血の繋がらない自分をどんなに大切にしてくれているか、よく知っている。この上、自分にもしものことがあれば、その時の義姉の悲しみは想像に難くない。
 それと、もう一つ、レックスの言葉に微妙なニュアンスが含まれているような気がした。
「戦うことは悪だと思ってる?」
 レックスは躊躇いがちではあるが、首を縦に振った。本当に正直な義姉だ。
「何故?」
「戦うこと、闘争や戦争からは何も生まれないでしょ?」
 やはりそうなのかと、アーヴァインはレックスの言葉を静かに受け止めた。
「……そうだね。闘争や戦争は善ではない。でも、それって“この街みたいな治安の良い所に住んでいる、戦争や紛争に巻き込まれたことのない者”だからこその言葉でもあるんだよね」
「…………」
 レックスは何も言わず、ただ眉をひそめてアーヴァインをじっと見ていた。
「残念ながら、人はまだそこまで理性的生き物になれてないんだ。世界には『いけないことだから止めましょう』なんて悠長なこと言ってられない事態がゴロゴロしてるんだよね。そんなこと言っている間に殺される。僕はさ、そういうのたくさん見て来ちゃったんだよね。大抵の場合犠牲になるのは、女の人や子供やお年寄り。見ちゃったら放っておけないよ。僕はそれに対抗出来る術を知ってるから、ちょっと位なら力もあるから。何の罪もない人たちを守る為なら、他に方法がないのなら、僕は相手に銃を向けるのを厭わないよ」
 夜露のように静かに沈黙が降りて、アーヴァインはそっとそれを散らした。
「安心してよ、銃を向けるのは悪人にだけだから。大丈夫だよ、死んだりしない。僕、これでも射撃の腕はレダ以上だから」
 アーヴァインは笑って嘘をついた。
 確かにそれは希望であり切なる願いではあるが、守られる保障はどこにもない。レックスは賢い。きっと見抜かれているだろうと思いつつも、言わずにはいられなかった。嘘をついてでも、安心してほしかった。
 レックスは相変わらず唇を引き結んだままだったけれど、その表情が少し和らいでアーヴァインはホッとした。
「なんか、……悔しい」
 レックスは、アーヴァインの方を見ずにぼそっと呟いた。
「どうして?」
「何も言い返せないことも。義弟可愛さに、他人の辛い状況に目を背けようとしたことも。知らない間に、小さくて可愛かったアンタが、すっかり大人になっちゃったことも……なんか、悔しい……」
「理解はしてくれた、ってことでいいのかな?」
「う〜ん 理解までは分からないけど、アーヴァインの思いは認めたい。でも納得は出来ない。甘いんだろうけど、私は銃を取らなくて済む方法や道を探したい」
「それで十分だよ、レックス。こんな人間だって認めてもらえるだけで、ホント十分」
「ごめんね」
「謝ることじゃないよ。最近思うんだけどね。違う考えの相手を、『そんな考えもあるんだと認める』ってことこそが大事なんじゃないかな〜って。理解ってのは更に進んだ段階で、まず相手を認める。これが出来るだけで、諍いは随分減るんじゃないかな〜と思うんだ」
 レックスは、はぁと大きく息を吐いて、一度椅子に身体を投げ出すようにもたれてから、また身体を起こした。
「ほんっと悔しいわ。ちっちゃくて、気が弱くて、優しい私の義弟が、知らない所でこんなイイ男になっちゃって」
 レックスは義弟の成長を嬉しく思うと同時に、強い寂寥感にもとらわれた。アーヴァインがこの家を出て、どこか遠くへ行ってしまうような。もう彼には自分たちなど必要でなくなってしまったような。そして気付いてしまった。アーヴァインに家族が必要だったのではなく、自分たちにこそアーヴァインが必要だったのだと。幼い弟を失って開いた穴を、この優しい子で埋めようとした。最初は、多分そうだった。でも――――。いつの間にか、アーヴァインはアーヴァインとして、あの幼い弟とは全く違う存在として、大切な家族になっていた。出来れば、死ぬまで家族の一員でいてほしい、可愛い義弟でいてほしい。
「けどね、覚えといて。アンタはあくまで私の“おとうと”なんだからね。私たちの大事な家族なんだからね」
「ありがとう、ねえさん。僕は幸せ者だね」
 アーヴァインは本当に義姉に感謝しながらも、チリリと胸の奥に痛みが走るのを感じた。
 もう一人の家族。養父はどう思っているのだろうか。少しでも義姉のように思ってくれているのだろうか。
 そして、さっきの小綺麗な言葉は、自分に言い聞かせているようなものだった。戦うことに、銃を取ることに迷いはない。でも怖さはある。初めて命のやり取りをした時のことは、多分、一生忘れない。それも幾度か繰り返していくうちに、麻痺はしないが慣れる。慣れはするけれど、慣れたいとは思わない。良心の呵責は、すこしずつゆっくりと心の中に、降り積もっている。
 今、心の均衡を保っていられるのは、独りではないからだ。自分と同じような立場にいる、セルフィと仲間たちがいるからだ。時折感謝の言葉をかけられるからだ。それだけでも、この上なく幸せ者だと思う。なのに自分はもっと貪欲だった。レックスの言葉に知った。この家族にも、認めて欲しいと思っていたのを。さっきの美辞麗句とも思える言葉は、自分を鼓舞すると同時に、義姉からそれを引き出す為の無意識の策でもあったのだ。

「そろそろ部屋に戻るわ」
「うん、おやすみ」
 家の外、高い門に囲まれた公園の草に降りた露が、細い月明かりに照らされ淡く光っていた。