GARDEN FESTIVAL
後編
「うは、気持ちいい!」
セルフィが感嘆の声を上げるくらい、今日は見事な快晴だった。
「うんっ 気分もいいし、きっと優勝はあたしのもの!」
天気と勝負事の間には何の因果関係もないが、とにかくセルフィにとってはそんな気がした。
「セルフィ、上機嫌ね」
寮の自室を出て通路を歩いていると、後ろからキスティスの涼やかな声がした。
「まあね〜、ってキスティス何!? その服!」
声の方に、セルフィがくるりと身体を向けると、見たこともない服を着たキスティスが立っていた。
「“キモノ”っていうのこの服、どうかしら似合う?」
キスティスは、優雅に幅の広い袖を広げるようにして微笑んでいた。
「うん、なんていうかすごく色っぽい〜」
その『キモノ』という服は肌の露出こそ少ないのに、妙に色香が漂っていた。
豪奢な金髪をアップにしているのはいつも通りだけれど、銀と空色のガラス玉を組み合わせた、数本の細長い髪飾りが揺れると実に涼しげだ。キモノは濃紺の地に、薄い黄色の大輪の花が裾に描かれている。近づいてみると、どうやらそれは酷く目の粗い織りで、下に着ている白のキモノが透けて見える。しかも襟の重ねから見るに、下にはその白のキモノ一枚のように見える。という事は、下着ではないかと余計な妄想までしてしまう。後ろに広く取られた襟足から見えるうなじと、透けて見える白のキモノ。これは“見せる”色香とはまた違う“想像”をかきたてる色香だ。そしてキスティスだからこそ、纏える色っぽさだ。多分、自分が同じ物を着たとしても彼女のように、色っぽくはならないだろう。
「キスティスファンの男子はみんな鼻血噴くよ〜」
「大袈裟ね」
セルフィは大袈裟なんかじゃないと思った。女の自分ですら色っぽいと思うのだから、男から見たら堪らない筈だ。今日はとても熱くて暑い一日になる、そう確信した。
「それじゃ、また後でね〜」
「セルフィ、頑張ってね。会場には行かれないけど応援してるわ」
「まかしといて〜」
セルフィは、キスティスに大きく手を振ると、トリプル・トレード大会の会場へと向かった。
バラムガーデンの一番大きなホールを使用して大会は行われていた。ガーデン祭のメインイベントと言っても良いくらい毎年参加者が多い。セルフィは、ホール内に何十と作られた競技用のテーブルの内の一つに着いた。これから、頂点を目指して熱いバトルが始まる。対戦相手が席に座ったのを確認して、軽く挨拶を交わした。
『よ〜し、頑張るで〜』
シュウ先輩の合図で、一斉にホール内の全テーブルで熱戦の火蓋が切って落とされた。
ガーデン祭のトリプル・トレード大会のルールはちょっと変わっていた。
固定ルールは『ランダムハンド』のみ。それ以外のルールは、対戦毎にルーレットで決められる。なので、実力もさることながら、勝ち上がるには運も重要な要素だった。
セルフィは、特に強いという訳ではなかったが、旅の途中スコールが対戦をするのを横でちょくちょく見ていた。スコールが何度も対戦して、実力をつけていく様を間近にしていたので、結構勉強になった。だから、運を味方につけることが出来れば優勝も夢じゃないと思っていた。
そしてセルフィの予想通り、何度か危うい場面もあったが、順調に勝ち上がることが出来た。
けれど――。
「うわ〜 次はんちょとやん、イヤやな〜」
勝ち上がれば勝ち上がる程、強敵と対戦することになる。準決勝前まで進んだ時に、運悪くスコールと当たることになってしまった。
「お手柔らかにね〜」
最上の笑み(自称)でスコールに挨拶をして、セルフィは席に着いた。
「あたし優勝したら、ラグナ様に会いたいんだ、そんときはヨロシクね、はんちょ」
「なんで俺にそんな事を言う」
「だってお父さんじゃ〜ん。ちゃんと話とかしないと、後悔することになっても知らないよ」
その言葉には、ちゃんとした思い遣りもあったが、ちょっとだけ別の思惑もあった。
「…………」
「あ、嫌そうな顔した〜 ダメだよ、仲良くしないと」
「分かった、でも手加減はしないぞ」
セルフィの見え見えの揺さぶりは、スコールには全く通じなかった。
「りょうか〜い、じゃ始めよっか」
ダメ元だと思っていたので、セルフィも正々堂々と勝負する方にサクッと気持ちを切り替えた。
決めたは良かったが、やはりスコールは強敵だった。
対戦一回目、何とかドローに持ち込むのが精一杯だった。今回のルールは固定のランダムハンドに加えて、セイムとサドンデス。ひっくり返らずにすんだ自分のカードと、ひっくり返すことの出来た相手のカードがそのまま自分の手持ちとなり、そのカードを使用しての再戦となる。純粋に実力が試される勝負だ。オープンではないので、後攻だったスコールの手持ちのカードが一枚だけ、何なのか分からないのが気になったけれど、油断ならないことだけは分かっている。ここで焦ったら負けだ。セルフィは、何度も落ち着けと心で繰り返し、二回目の対戦に挑んだ。
「うっそ……」
とんでもないものが眼に飛び込んで、セルフィは一瞬頭が真っ白になった。
『アカン、ここで動揺したら負ける!』
もう必死で念じながらカードを置いていった。セルフィが制限時間いっぱいを使ってカードを置くのに対して、スコールは淡々と置いていく。それだけでも、相当なプレッシャーだった。
だが、セルフィはどうしてもこの勝負に、負ける訳にはいかなかった。スコールとの対戦が分かった時には、負けたら負けたで仕方がないと思っていたが、今は負けられない理由が出来てしまった。それでも、心の動揺は現実となって現われ、スコールの優勢は、誰がどう見ても明らかな所まで来ていた。
『もう一発逆転でもないとムリやん……』
セルフィがそう諦めて、最後のカードを置いた時だった。
「勝者、セルフィ・ティルミット」
審判の声に耳を疑った。
「なんで?!」
「分からないのか?」
ポカーンと呆けた顔をしているセルフィを、スコールは眉根を寄せて見ていた。
「セイムで、一発逆転だ」
「ええ〜 うわっ、ホントだ。セイム忘れてた」
テーブルを見れば、最後に端に置いたカードでセイムが発生し、更に連鎖が起こりトントントンとカードがひっくり返され、セルフィが勝っていた。
「びっくり」
「それはこっちのセリフだ。てっきり、分かっていてあそこに置いたんだと思ったのに。連覇を狙ってたんだぞ」
「あはは… 偶然、すっごい偶然……ごめんね、はんちょ」
珍しく悔しいという気持ちを隠そうともしていないスコールに対して、セルフィは本当に悪いと思った。相手が全く意図していない偶然で、勝てる筈の戦いはあっさり覆されてしまったとなれば、気分的に納得し難くて当たり前だと思う。だが、もうここに未練は残していないとばかりに、スコールはいつもの表情に戻り、さっさとカードを仕舞い立ち上がった。と、半歩足を踏み出した所で、思い出したようにセルフィの方を振り返った。
「セルフィもちゃんと言えよ」
「なにを〜?」
「黙ってラグナに会いに行くと、“ソイツ”へこむぞ」
今しがたとは打って変わって、意味深な含み笑いをセルフィに向け、彼女の持っているカードを指さした。今日のスコールは本当に珍しく、いや本当はこういう人間なのかも知れないが、黙ってセルフィにやられているだけでは無かった。
「うぐっ…」
スコールの鋭い切り返しに、セルフィは言葉を詰まらせ、足早に去っていく彼を見送るだけだった。
※-※-※
「お待たせ、セルフィ」
ガーデンのエントランスホール。流れる水を眺めつつ涼を取っていたら、約束の時間ぴったりにリノアが現われた。
「ほい、ご注文の昼飯とオマケのパンだ」
ゼルはクイッとハンバーガーとドリンクの入った紙袋を掲げていた。しかも気前よく、大好物のパンのオマケがあるとは、という事は、出場した障害物レースでイイ線いけたのかな。
「サンキュー、じゃ移動しよっか」
セルフィとゼル、リノアはそのまま駐車場へと向かった。
これから向かうのは『チョコボレース』の会場。いくらガーデン広しと言えど、年に一度しか使用しないレース場を常設しておく程の敷地の余裕は無かった。
これも、チョコボを提供指導してくれている牧場の中にあるレース場を借りさせて貰っている。牧場主はシドの知り合いで、毎年このレースを実に楽しみにしているらしく、レースのコースが毎年微妙に変化していた。
コースの全長は約3.5キロ、動物のレースにしては長いのかも知れないが、チョコボのプロの牧場主によると走ることの好きなチョコボにはこれ位が丁度良いらしい。コースの途中には、ちょっとした段差や、小さな山、低い柵を飛び越える、川の横断をするなどの箇所もあった。
「もう結構集まってるね」
ガーデンから車で15分程走り、レース会場へと着いた。そこには、階段状の観覧席へと歩く生徒の姿が多く見受けられた。
「ちょっと早めに来て良かったね。折角だから良い席で見たいもんね〜」
幸い比較的前の良い席を確保することが出来て、リノアはホクホク顔だった。
「けど、ここから見えるのはゴールとスタートのストレート部分だけだよ〜、つまんなくない?」
「それはそうだけどよ〜、一緒に走るワケにもいかねーだろ。それともラグナロクでも飛ばすか?」
セルフィの言うことにはゼルも概ね賛成だったが、長いコースを全部肉眼で見るなら空から見るしかない。
「あ、それいいかも! 来年はそれやろうよ! 観覧料も取ってさ、ちょっしたお小遣い稼ぎになるよ!」
セルフィは、ゼルから昼食のハンバーガーとジュースを受け取りながら、妙案を思いついたと声を大にしていた。
「ムリだろ。てかセルフィ、ジュースがこぼれるだろ!」
フタがしてあるにも拘わらず、セルフィが勢いよく振り上げたコップからこぼれたジュースが身体ににかかりそうになり、ゼルは慌てて避けた。
「そうかな〜、シドさんに相談してみたら、意外とノッてくるかもよ〜。あ、セルフィここのハンバーガー美味しいよ」
リノアは既にハンバーガーを半分ほど食べ終え、口の端についたソースをペロッと舐めて言った。
この中で常識人はオレだけかと溜息をつき、自分もガサガサとハンバーガーの包みを開けた時、ゼルはふと思い出したことがあった。
「ところでセルフィ、なんでカード大会棄権したんだ?」
「私もそれ気になる〜、ね、どうして? あと二回勝てば優勝だったのに、どうして!?」
いきなりの質問にセルフィは、思いっきりハンバーガーを喉に詰まらせた。今最も訊かれたくない内容、それを悟られまいと、必死でジュースで流し込んだ。
「ほ、ほら、もうレース始まるよっ! ネットのスタンバイしないと」
まだ少しむせながら、残りのハンバーガーを無理矢理飲み込み、セルフィはコンピュータ端末を取り出し、肉眼で見えない部分のレースをネット中継で見るための準備を始めた。
「もうそんな時間か!?」
ゼルも、慌てて二つめのパンを口に放り込んだ。
下を向くと、夏の日差しが短く濃い影を作っていた。
「とうとう本番か〜 優勝……出来るかな」
アーヴァインは、毅然と、だが相変わらず他所を向いて立っている相棒に視線をやった。それに気が付いたのか、彼の相棒のチョコボは、チラッとアーヴァインを見て、今度はレースのスタート地点の方を向いた。
『機嫌は悪くないみたいだ、後は呼吸の問題?』
それが一番の不安要素だった。
なんとか、コースを完走する段階までは漕ぎ着けた。だが、チョコボが勝手に走って、自分はただそれに乗っているということが多い。だから走るのは速くてもムダが多い。
「君がさ〜 僕のことをちょっとだけ聞いてくれたら、きっと優勝出来るよ」
アーヴァインの言葉に、チョコボは今度はすぐに他所を向いたりせず、じっと彼の方を見つめていた。丁度その時、「出場者はゲートへ」のアナウンスが流れた。
「泣いても笑っても、今日が最後。さ、行ってこようか、相棒」
アーヴァインはテンガロンハットを被りなおし、相棒の手綱を引いた。その足取りは軽く、いつもより素直な感じがした。最後だからそんな気がするだけだ、とアーヴァインは自嘲したけれど。
「スタートしたよ! アーヴァインは!?」
「黒いの! と、違った、いつもの帽子!」
「お、アレだ! 4番目のヤツ、な、アレだろ!?」
「結構、様になってるよセルフィ! このまま頑張ればいけるんじゃない!?」
スタートの合図で、観覧者の身体に響くような地響きと、土埃を巻き上げながらレースは始まった。
さっきまでリノア達とワイワイ楽しくしていたのに、レースが始まった途端セルフィはドキドキしていた。
アーヴァインがチョコボレースに出場すると言ってきた時から、彼とは殆ど会っていない。意図的にそうしていたのもあったが、アーヴァインも自分も忙しくて、暇が無かったというのが大きかった。特にアーヴァインは、任務とガーデン内での職務の合間を縫って、空いた時間の殆どをチョコボの練習に費やしていた。素人がレースに出ようというのだから(他の出場者も似たり寄ったりだったが)、ある程度乗りこなせなければならない。付け焼き刃では、ちょっとしたことでも大怪我に繋がりかねない。SeeDなのだから、身体能力は高い筈だが、それでも大型の動物相手では何が起こるか分からない。
レースが始まり、すぐ近くを通り過ぎて行くチョコボの、想像以上のスピードと爪の鋭さ、生の迫力を目の前にして、セルフィは少し不安になった。今見ている場所は平坦な直線コースだが、途中には起伏に富んだ障害が待っている場所もある。過去大怪我をした出場者はいないが、だからと言って今日も大丈夫だとは限らない。そんなことを思っている内に、肉眼ではアーヴァインの姿を追うことは出来なくなり、端末映像で彼の映像を見ることになって、ますます不安は大きくなった。
『直線はいいけど、やっぱりそれ以外の所はロスが多いな〜』
曲線の多いコースに出てから、既に3頭のチョコボに抜かれていた。それでも、アーヴァインは手綱と足の合図で微調整を試みることは休まなかった。コースを走るのはもう何度目かなので、チョコボも大体どんな作りなのかは分かっていると思う。回を重ねる毎にタイムも速くなっていた。だが、優勝する為には、人馬一体ならぬ、人チョコボ一体にならなければ無理だ。
祈りにも似た思いで、再び手綱を少し右へ引いたとき、チョコボが素直にそれに応じた。そして、最短でロスの少ないルートへと吸い込まれるように走った。次に左へ手綱を引くと、やはり素直にそちらへと走る、次も、またその次も。追い抜かれたことが、彼のプライドに火を付けたのだろうか、相棒はアーヴァインの合図にちゃんと応えてくれ、いつしか抜かれたチョコボを、次々と目の前に捉え、抜き返していた。
それは今までに感じたことのない心地よさだった。
言葉では伝える事の出来ない相手と気持ちが通じた瞬間。アーヴァインはこれがそうなんだと思った。身体に受ける風の感じが違う。風を受けるのではなく、切って走るような感覚。風が避けているとでも言えばいいのか。
そうして、アーヴァインと相棒の前を走るのはあと1頭となった時、レースのコースは森の中へと入った。この森を抜ければ、後はゴールまでの直線。
「ここが勝負だよ!」
アーヴァインは相棒にそう告げると、チョコボにぴたりと添うように身体を低くした。アーヴァインの言葉を理解したのか、チョコボも首を伸ばすようにして僅かに頭を低くした。
「うわっ あと1頭なのに森の中かよ!」
「アーヴァイン、前のヤツ蹴散らせー、森の中ならわっかんないぞーーー!」
物騒なことを言うリノアを笑い飛ばすことも今のセルフィには出来なかった。本当はゼルやリノアみたいに、声を上げて応援したいのに、普段の自分なら間違いなくそうしているのに、心臓のドキドキは最高潮に達していてそれどころではなかった。もう不安な気持ちは無くなっていたが、今度は別の意味でドキドキしていた。画面を通じて見るアーヴァインは、良く知っているアーヴァインの筈なのに、全く別人のようで、何故だかチョコボを駆り疾走する姿がやたらと格好良く見えてしまった。周りの声援から、他の人の目にも格好良く映っていたのは間違いなかったが、セルフィには一切聞こえていなかった。
「出てきたよ!」
「すごい、デッドヒート!!」
「行けーーアーヴァイン!!」
「抜けーーーアーヴァイン!!」
一瞬のことだったのか、それとも長い時間のことだったのか、セルフィが呼吸も瞬きも忘れて、ただ見入った。
歓声を上げながらリノアに抱きつかれて、セルフィはようやくレースが終了したことを知った。
「か、勝ったん!?」
見ていた筈なのに、結果がどうだったのかセルフィには見えていなかった。
「勝ったぜ、セルフィ! アーヴァイン優勝だ」
「すっごいカッコ良かったよ、アーヴァイン」
リノアに、ほっぺたを思いっきり擦られて、周りの歓声と音がやっとセルフィの耳に戻ってきた。
「おめでとうアーヴァイン、迷惑かけちゃったわね」
賞品のプレゼンターでもあるキスティスが、どこかすまなそうな女神の微笑みとキスをアーヴァインに贈った。
「ありがとうキスティ。って、やっぱり“バレ”てたんだね」
キスティスは、唇でもう一度「ごめんなさいね」と言うと、アーヴァインの後ろを指さした。
アーヴァインが後ろを向くと、突然身体に衝撃を受けた。
「アービン、おめでとー!!」
その声にセルフィが飛び込んで来たんだと気付く。
「ありがとう、セフィ。見てくれてたんだね」
暫く触れることも出来なかった柔らかさを、アーヴァインはぎゅっと抱き締めた。
「ガーデン祭も終わりか〜」
夕食時、食堂で仲間全員で集まっていた。食事も終え、飲み物を待っている間ゼルは、酷く落胆した声をあげた。
「楽しい時間は過ぎるのが早いよね」
リノアの言葉に特に返事はしなかったが、そこにいる誰もがそう思っていた。
「明日からまた、任務と職務の日々ね。ちゃんと気持ちを切り替えないとダメよ」
「キスティスさ〜、まだいいじゃない今日は終わってないんだから」
相変わらずのキスティスに、頬杖をついたセルフィがのんびりとした口調で言う。
「あ、セルフィ、アレまだ聞いてないよ」
「なにが〜?」
「そうだ、何でカード大会棄権したんだ?」
「うぐっ」
セルフィは食後の楽しい天国のような気分から、一気に奈落の底へ落ちた気分になった。
「私も聞きたいです」
三つ編みの少女も無邪気な顔をしてそう言ってきた。
熱い視線が一斉にセルフィに注がれる。だがセルフィは口を開かなかった、開けなかった。
「原因はアレだ」
渋面を作ったまま何も言おうとしないセルフィの代わりに、スコールが口を開いた。
「スコール知ってるの!? 教えて〜」
いつもと変わらないリノアの声が、今はとても憎らしかった。
「はんちょ、ダメーー!!」
セルフィが必死で制止した時には、スコールはとある一点を指さしていた。
「サイファーとアーヴァインがどうかしたの?」
洞察力の鋭いキスティスにも、何なのかは分からないらしい。
「サイファーは違う」
「ってことはアーヴァインか!? で、それがどうしたんだ?」
ゼルはますます首を傾げている。
「と、レアカードだ」
「はんちょーーーー!! いらんこと言わんといてーー!!」
今日のスコールは容赦がなかった。その原因は、カード大会の時のことなんだろうとは思ったが、セルフィにはもうどうしようもなかった。
「アーヴァインさんとカード。……アーヴァインさんと? の? あ、もしかして…」
三つ編みちゃんは、カンの鋭い子だったようだ。
「ダメー、言っちゃダメーー!!」
顔を真っ赤にしたセルフィの必死の言葉は、もう正解を教えているようなものだった。
「なるほどね……可愛いわね、セルフィ」
そこまで言えばキスティスに分からない方がおかしかった。
「私も分かった、でも合ってるかな……」
リノアは、正解かどうか確かめる為にスコールに耳打ちをしていた。
ゼルはまだ分からないらしく、三つ編みちゃんに小声で訊いていた。ここまで来てしまっては、セルフィに為す術はなく、居たたまれなさを覚えながら俯くしかなかった。
「よ、お待たせ。何だ、何があった!?」
サイファーが持ってきた飲み物をテーブルに置きながら、その場の妙な雰囲気に訝かしい顔をした。
「はい、セフィ」
脳天気な声でアーヴァインがセルフィの前に、オレンジジュースのコップを置く。けれど、いつもならにこにこと「ありがとう」と返事が返ってくるのに、今は俯いたまま動こうとしないのを怪訝に思い「セフィ、どうかした?」と腰を屈めてセルフィの顔を覗き込んだりするものだから、セルフィはビクンとして、反射的に顔を上げてしまった。そこでガチンとアーヴァインと目が合う。セルフィは椅子を倒してしまう程の勢いで立ち上がり、そのまま食堂の外の方へ駆けだした。
「セ、セフィ!?」
急に駆けだしたセルフィに訳も分からずポカンとしているアーヴァインに、スコールが酷く冷静な声を投げた。
「追いかけろ」
セルフィが酷く取り乱していた割りには、そこにいる仲間達は皆落ち着いていて、というか意味ありげな顔をしているのに釈然としないものをも感じたが、アーヴァインはスコールの言う通り、何かを考える前に身を翻した。
「サイファー、貴方には訊きたいことがあるから座って」
セルフィの兄を自負しているサイファーも彼女の後を追おうとしたが、キスティスの抑えられた声と実に優雅で慈悲深い笑みに、渋々といった感じではあったが大人しく座った。
仲間達のガーデン祭が終わるのはまだ暫く先のようだ。
END
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『ガーデン祭』はオリジナル設定ではありません。祭の内容はオリジナルですが。ゲーム中学習パネルで夏の行事に入っているのがずっと気になっていて、今回そんなお話にしてみました。
セルフィ、最大級の恥ずかしさだね。蚊帳の外のアーヴァインは、ちょっと不憫かな? セルフィ軽くパニクってるので、多分墓穴堀りまくってすぐバレるから〜。
サイファーにも幸あれ!
(2008.08.30)
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