【裏口】
屋敷に帰るべく、再びドアを開けて家の中へと足を踏み入れた。
だが、安心したせいかちょっと強めにドアを締めてしまい、ふっと風が吹き抜けた。運悪く、その風がロウソクの炎を消してしまったらしく、突然視界が暗闇に覆われてしまった。ただでさえ心細さをおぼえる明かりが消えると、暗闇の中全ての感覚が失われたような気がして、セルフィは凍りついたように動けなかった。何故か握っていた筈のアーヴァインの腕さえ、いつの間にか離れていた。それが更に恐怖心を煽り、心臓の鼓動がはっきりと耳に聞こえた時、ゴンと何かがぶつかったような音までした。
「……アービン?」
セルフィは腕を伸ばして、アーヴァインを捜した。他には何も思いつかなかった。どうしたらいいのか分からない、後ろのドアから外へ出る、そんな簡単な事さえ思いつかない程セルフィはパニックになっていた。けれど幾ら探っても、温かい腕は手に触れてくれなかった。恐怖に心を押し潰され、その場にうずくまるように崩れかけた身体を、望んでいた温かい腕が抱き留めてくれた。
「アービン」
名前を呼んだ時、ふっとロウソクの明かりが戻った。
「セフィ、大丈夫? ごめんね」
優しい声と温かさを確かめるように、セルフィはぎゅっとアーヴァインを抱き締めた。
「セルフィ、おかえり〜」
明るいリノアの声に迎えられた。だが、次の瞬間不思議そうにセルフィを見ていた。
「ひとりで帰ってきたの?」
「そんな事ないよ、ずっとアービンの腕握ってたもん、今だってほら」
変なことを言うな〜とセルフィはアーヴァインを引っ張ろうとしたが、手は空を切った。反射的に横を向くと、アーヴァインの姿どころか、そこには何も存在していなかった。
「な、なんで〜〜」
理解の範疇を超えた出来事と、アーヴァインが居ないことに酷く打ちのめされセルフィの瞳には見る見る大粒の涙が溢れた。近くでその遣り取りを見ていたサイファー達が、裏の家の中に駆けつけてみると、廊下の突き当たり、裏口のドアのすぐ近くでアーヴァインが倒れているのを発見した。サイファーが小突くと、額をさすりながらアーヴァインは起きあがった。別に死んでもおらず、額を何かにぶつけたらしく、それで気を失っていただけのようだった。
「人騒がせなヤツ、ま、でも無事で良かった」
ゼルは、元気そうなアーヴァインを見て、悪態をつきつつも無事を喜んだが、事態はけして良い方向へは向かわなかった。少なくとも、アーヴァインにとっては。
屋敷に帰ると、セルフィはプチパニックを起こしていて、彼が近寄ると怯え、近づこうにも近づけないというアーヴァインにはこの上なく辛い目に遭うはめになってしまった。ガーデンに帰ってからも、セルフィはアーヴァインを本物だとは、なかなか認識してくれず、元の関係に戻るまで、彼はかなり四苦八苦した。
【バッドED】
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