「うわぁ〜、綺麗な部屋〜」
セフィは室内の灯りがつくと、感嘆の声をあげた。
「気に入った?」
「うん! アービンて相変わらずセンスいいね〜」
くるんと後ろを振り返って、僕に向かって言うその表情は本当に嬉しそうだ。
「セフィが気に入ってくれて僕も嬉しいよ〜」
にこにこと見上げてくるセフィを片腕で抱きよせ、僕は頬に感謝のキスをする。
「外も見てみようよ」
一瞬はにかんだような顔を隠すようにしてセフィは僕の手を引き、部屋の奥からバルコニーに出た。
「うわ〜、夜景も綺麗だね〜」
「ほんとだね、昼だときっと海も綺麗だよ〜」
「そうだね〜」
バラムの街でも高台のこの場所からの眺めは、まるで眼下に小さな光の海が広がっているようだった。デリングシティのような煌びやかさとは異なる、もっと控えめで温かみを感じるような光の粒がほどよい間隔で並ぶ。
「このホテルね、雑誌に載ってて気になってたんだよね」
そうだったのか。港から工事中の様子を何度も見ていたので、二ヶ月ほど前にリニューアルオープンされたこのホテルのことは僕も気になっていた。港で見かけたリーフレットを読むと、女の子の好きそうな上品だけれどそうかしこまった感じでもなく、いつか絶対セフィと来ようと思っていたのだ。そうは言ってもバラムの街は思いっきりホームグラウンドで、泊まる機会はそうそうあることではない。だから誕生日にかこつけて誘おうと思っていたけれど、結局言えず終いで三週間が過ぎた。誕生日当日の今日来ることになったのはどっちかと言うとタナボタだ。それでもセフィが気に入ってくれたらしくてよかった。
「じゃあ、丁度いいタイミングだったのかな?」
「う、うん…」
風で乱された髪を直すようにセフィの頬を撫でたら、彼女がすこし震えたような気がした。
そう言えば、いくらバラムでもこの時期の、ましてや夜風は冷たい。
「風が冷たいね、もう中へ入ろうよ」
「…あ、うん」
風で冷えたのか、ぎこちない声。触れた頬はすぐに温かくなったけれど、コートを脱いだセフィの躰が冷えきってしまわないうちに部屋の中へと入る。
「なんか温かいものでも飲む? イロイロあるよ〜。ハーブティーにココアもあるよ」
「わ、ホントに〜」
興味津々な声と共にセフィが僕が飲み物を準備しているのを覗き込んでくる。
「ホントだ色々あるね。どれにしよ〜」
指を顎に当てセフィはどれにしようか真剣に悩んでいた。僕も嫌いじゃないけど、女の子は特に紅茶とかハーブティーとか好きだよね。なるほど外観や内装だけでなく、このホテルはその辺の心配りも行き届いているようだ。
「コレにする」
セフィはカゴの中に並んだティーバッグの中から一つを摘んで見せてくれた。
「ん? このお茶はなに、花のお茶?」
パッケージには花が描かれているが知らない花だった。
「トラビアの花のお茶。いい香りだよ〜、あとリラックス効果もあるよ。アービンも飲んでみない?」
「セフィのオススメなら飲まないワケにいかないな〜」
「あたしが淹れるね。アービンは座って待ってて」
カップを二つ持って楽しげなセフィに後はまかせ、僕はソファでおとなしく待つことにした。
少し甘めで優しい感じの香りが、湯気と共にゆっくりと鼻腔を上がっていく。
「どう?」
僕の感想をワクワクと待っている瞳と目が合った。
「初めての香りだけど、好きだよこの香り。それに味も美味しいね」
「そっか、アービンも好きでよかった。疲れている時にはメープルシロップをすこし入れたり、寒い夜なんかはね、お酒を数滴垂らすと身体が温まってぐっすり眠れるよ」
僕の返事に満足げににこにことセフィもカップに口をつけた。
「ふう〜、落ち着く〜」
温かいうちに一杯飲み干すと、僕の隣でセフィはぐぐ〜っと手足を猫のように伸ばした。
短いスカートの前面に二本入ったスリットの下から重ね着のように覗く薄いシフォンの生地がふわふわと揺れて、思わず目で追ってしまった。座っていることでスリットの部分がより開き、下のシフォン生地を通り越し素肌の色もわかる。デザイン自体は可愛らしいんだけど、とても目の毒だ。ブーツもソックスも脱いで既に裸足なのが尚更僕をドキドキさせる。
「アービンとゆっくりするの久し振りだね〜。アービンごめんね、ずっと黙ってて」
「もう、気にしてないよ。セフィが何やってたかわかったから。けど、みんなにも内緒だったの?」
僕の肩にこてんともたれかかるようにされて嬉しいんだけど、セフィの体温を近くに感じてますます落ち着かない。頑張って平静を装って喋ってるなんて、セフィはちっとも気がつかないんだろうなぁ。
「うん、なんか照れくさくて。知ってたのは先生やってくれたゼルだけ」
「でもアレはないよ、セフィ」
記憶を辿っていて、一つだけへこんだことがあったのを思い出した。
「なに?」
「男子寮の廊下で僕を見かけて逃げたでしょ」
「あ、ゴメン! ほんっとにごめんね。あそこでアービンに捕まったら、絶対白状させられると思ったんだもん。――――けど、……けどね、あたしもキツかっ…た」
「そうなの?」
普段のセフィからすると、なんて言うか、とても意外な言葉だ。
「うん」
肩に載せていた頭をずらし僕の胸に顔をうずめるようにして言ったのは、恥ずかしいからなのか。それともセフィも逢いたいのをガマンしていたのか……。
「僕に、会いたかった?」
僕は確かめるようにセフィの頬を持ち上げてじっと見つめた。
「うん、会いたかった」
恥ずかしげに揺れる瞳は、けれど、まっすぐに僕を見てそう言ってくれた。その後、視線を落とすようにすこし伏せられた睫とはにかむ顔が愛しくて、僕は軽くキスをした。
「淋しかった?」
「うん」
小さくそう答えると、今度はセフィからキスをしてくれた。
「僕のこと好き?」
「うん、アービンが好き」
さっきのお茶に何か入っていたんじゃないかと思うくらい、今日のセフィは素直だ。そしてまたセフィからキスをされる。
「誰よりも?」
「うん」
聞きたい言葉、欲しい言葉がいとも簡単に紡がれて、次第に躰が熱を帯び、鋭くなっていく一部の感覚を残して思考がぼやけていくのを感じた。
「僕のこと――」
「愛してるよ」
セフィからのキスは深くなり、互いを追いつ追われつしながら口づけを交わしているうちに、僕は完全にソファに寝転ぶ形になっていた。起きあがろうとすると、僕の胸に置いたセフィの手に力が籠もり止められた。
「今日はアービンを抱きたい。ダメ?」
なんてカワイイことを言ってくれるんだろう、今日のセフィは。
「……ダメじゃないよ」
本当は抱かれるより抱きたいけれど、それは後でゆっくりすればいい。今、僕にとって大事なのはセフィの気持ちだ。抱きたいと言われたことより、セフィがそう思ってくれたことが嬉しい。愛しい者が自分を欲してくれる。この喜びは何にも勝る。
即物上等だ。
熱く口づけを交わしながらも、そっと頭の後ろにクッションを敷いてくれたりするのは、嬉しいんだけど。あのセフィがこんなこと出来るようになっちゃったのは、誰のせいかな〜とちょっと微苦笑してしまう。う〜ん、それとも素直に喜んでいいのかな。
「…はっ」
いつの間にかボタンをはずされ、寛げられたシャツのすき間から温かい手が忍び込んでいた。肌の上を柔らかな指が、遊ぶように踊るように浮気な動きを見せながらも、迷うことなく胸の突起に触れる。僕よりも細い指先の中にやすやすと埋もれてしまう小ささなのに、どうしてこうも敏感なのか自分でもフシギだ。
そしてセフィの指がそっと撫でるだけでビクビクと躰が震える。それだけならまだしも、その震えは少しも衰えず、いや、より濃度を増して、僕の目覚めかけていた淫猥な細胞すべてを急速に揺り起こしていく。
「アービンて堅い。……でも、好き」
すこし艶を含んだ声でセフィは、僕の胸の緩やかな隆起を確かめるように撫でる。そうだね、柔らかな君と比べれば僕は堅い。それを気に入ってくれてるのは嬉しい。
「くっ」
撫でていることに気を取られていて、突然軽く歯を立てられたその片方の突起は全く無防備で、堪らず声が溢れる。続けて舌での襲撃。舌先で転がされたかと思えば、強く吸われる。片方は再び指で弄ばれていた。巧みな緩急をつけた動きに、なんとか声はガマンするが躰はピクリピクリと勝手に反応してしまう。
「……っ」
「声、ガマンしちゃダメ」
そうは言うけどねセフィ。男が喘ぎまくるのは、あんまり美しくないと思うんだ。
「ぅあ」
いきなり強く摘まれて声が抑えられなかった。走る鈍痛。それを遥かに上回る快感。
セフィ、本当に一体いつの間にこんな、僕の弱い――――嬲り方。それとも僕の方が慣らされて、感度が増しているのか。とにかくセフィの吐息が肌を掠めるのすら、毒のように僕のナカを侵していく。
『っ!』
それ以上胸への強い刺激はなく、ここぞとばかりに荒くなった呼吸を整えていると、もっと敏感なところに強襲をうけた。着衣の上から撫でられるのと一緒に、ベルトをはずす金属音がする。
肌へのキスを繰り返しながらゆるゆると下肢へと向かう唇がソコへたどりつく頃には、下着も剥がされすっかり剥き出しにされていた。窮屈な場所から解放され自由の身になって、僕自身が更に怒張していくのがわかる。それを見られているのか、確かめる勇気はないが、吐息は触れどもそれ以上は触れられないのがやけに恥ずかしくもどかしい。
そうだセフィは触れてこない。あんなに性急に僕自身を外気に曝しておきながら。肝心な部分には触れず周辺の肌を指が撫でまわっている。
確かにこの感覚はその先に待つ快悦を想像させ、躰の中を小さな龍が蠢くように電流が駆け上がってくる。
それなのに――――、触れてもらえないのは拷問でしかない。
「セ、フィ……」
堪らずセフィの手を掴み僕自身に触れさせた。
相手がセフィでなければこんなことはしない。むしろ嫌悪を覚える行為だ。愛しくて堪らない相手だからこそ、彼女が与えてくれる狂おしいほどの心地よさを知っているからこそ、懇願せずにはいられない。そしてセフィがそれを拒むことなく、けして大きくはない手で精一杯包んでくれる感触に思わず熱い吐息が漏れる。
「…っ、ん」
軽く力を入れてゆっくりと上から下まで扱く手の動きに合わせて、快哉の波が躰の隅々へと運ばれる。湧きあがるような心地よさ。優しさを残した動きには、まだそんなことを思う余裕があった。
「っは!」
手の動きはそのままに、突然生温かでぬるぬるとした圧迫感が加わった。その圧迫感からはすぐに解放されたが、今度は濡れた生き物のような舌に、形も何もかも確かめるように舐め上げられた。
更に大人しくなった手の代わりに口唇が饒舌になり、手と同じように上へ下へとまとわりつくような愛撫になる。先端から溢れ出る体液と唾液が混ざり合い、セフィが動くだひに淫靡な音が耳からも僕を嬲る。
「くっ……っ…」
情けなくもその動きに早々に限界が訪れようとしていた。いくら心で抑えようとしても、その気持ちよさに素直に躰が高みを目指したがる。それが伝わったのかセフィの動きが止まり、僕は突然うち捨てられるように解放されてしまった。
これはこれで辛い。再開される気配のなさに薄く目を開けて下の方を見ると、こっちを見ている視線とぶつかった。
「イきたい?」
唾液と僕の体液で濡れて光る唇を拭うこともせず問う貌は、悪戯を思いついた小妖姫のような艶を帯びていた。
「う…ん」
「そう……でも、まだダメ」
「っは! セフィ何を!」
強い衝撃が背骨を揺さぶった。
「…く…んっ……ぁ」
僕自身の根元を強く握り、ふたたび指や唇や舌で執拗な愛撫を施される。セフィが動くたびに、快楽の波が怒濤のように押しよせてくる。それなのに、根元を握られているせいでイクことは許してもらえない。さっきのなんか拷問でもなんでもなく、これこそが……。
「は……ぁ、っ……っ」
自分で耐えようとしている訳でもない強要された抑制。それにも拘わらず、ただ、ただ与えられ続けて、蓄積されていく快感。その二つが同時に僕を責め来、はちきれそうな欲望が出口を求め体内で荒龍が暴れるようにのたうつ。
もう、気が狂いそうだ。
「…セ、フィ……もぅ……はっ!!」
達したいと何度も願うのに、それは叶えられない。それをどれくらい繰り返されたか。
半ば白濁としかけてきた意識の中でセフィに腕を伸ばした時、その先に見えた彼女がふわりと微笑んだ。その後、目も眩むような快絶と開放感が訪れた。
はぁはぁという荒い息が頭の中で聞こえる。それが自分の呼吸なのだとようやくわかった頃、顔に張りついた髪を払ってくれた優しい指があった。誰のものなのか知ると、僕は手探りでその先の腕を掴み強く引きよせた。
「っ!」
小さく驚いた声と共にどさっと倒れ込んできた重みを力を込めて抱きしめる。
「アービン、くるし…」
声を塞ぐように、心が求めるまま口づけた。
「んっ……ん」
合間を縫って呼吸をする声に段々と艶が含まれてくる。その声に自分が何者かを思い出し、僕はやっと彼女を解放した。
セフィが溜息をつくように息を吐いて、僕の首筋に上気した顔を埋めてくる。
全く――――。僕をこんな風に自分がわからなくなるほど追い詰めてくれちゃって。こんなの予想外だ。確かに抱かれることを許容したのは僕だけど、こんなの――――。
いや、気持ちよかったけど……。うん、ホントに、天上の花園が見えたかと思った。けど、本当の天上の快楽はセフィを抱いてる時なんだよね。ついでに今のアレは君を求める欲をもっと煽ってしまった。だから今度はセフィの番だよ。覚悟してもらうよ。そう心の中で宣戦布告して、僕に身を預けているセフィの服に手をかけた。
「アービン?」
戸惑うような声で躰を起しかけたセフィを構うことなく僕はジャンパースカートのファスナーを降ろして、躰を起こすことで脱ぎやすくなったのを気づかないセフィからするりと剥ぎ取った。
「待って、アービン」
はなからセフィのお願いを聞くつもりはない。そんな僕にしてしまったのはセフィだ。そんなことをいちいち言う時間も惜しいから、僕は何も言わず服を脱がす手を動かした。
「ね、アービン」
「イヤだってば、待たない」
もう下着だけになってしまったのに、まだ抵抗するんだねセフィは。
「セフィが欲しくて堪らないんだ、わかってよ」
ああ、なんて恥ずかしそうな顔。好きなんだよね、そのはじらう顔が。その顔がますます僕のヨコシマな心に拍車をかけてるの、セフィは知らないでしょ。
「待たなくていいから、ベッドにいこ、ねっ」
ごめん、不覚にもここがソファだって忘れてた。
僕はまだ躰に引っ掛かっていた服を取っ払うと、セフィを抱き上げてそっとベッドに横たえた。
「あ――」
その時になって初めて気がついた。いつものセフィとちょっと違っていることに。
「どうしたの?」
じっと自分を見ているのが気になったのだろう。不安げに僕を見上げるセフィに微笑んでから、彼女の隣に横たわった。
「ね、セフィ。今日、僕を誘うつもりとかあった?」
「え? あ、うん。ちょっとだけ……あった……かな」
照れてはいるけど、正直に言ってくれた。
「誕生日だから? それともしばらく会えなかったから?」
「ん、両方」
照れた笑顔がホントかわいい。
「この下着は僕のため?」
普段なら絶対聞けない答えが今日は聞けると思った。
「うん。……似合ってない、かな…」
いつもより少し色っぽい下着が自分のための装いだと思うと、それだけで僕は胸が高鳴った。
「そんなことないよ、色っぽいけどセフィらしくてかわいいよ」
ピンクがかったパステルオレンジのシフォンの生地と共布のフリルレースの装飾。ブラのシフォンは上から重ねてあるらしく透けたりはしていないけど、胸のカットが深くふくらみの露出具合が堪らなかった。ショーツもお揃いで、こっちは肌が透けている部分もあってかなりドキドキする。けれどブラと同じようにフリルレースがあしらわれていて、セルフィらしい可愛らしさと、色っぽさとが共存していた。そして両脇でクロスしている細い紐から露出した肌がなんとも男心をくすぐった。
この姿はずっと見ていたいけど、そうもいかない。早くしろと躰がワガママを言い始めた。
「セフィからキスして」
そう言うとセフィは花のような唇で微笑み、僕を引きよせた。
「んっ……んん…っ」
塞がれた唇から漏れ聞こえる声。なんて甘やかに響くのか。聞かれることに恥じらいさえ感じられるのに、そのクセ僕の心の中をとろりと蕩かせていく。そしてこの肌の柔らかさ、なめらかさ、熱さ。自分のものだという徴を余すところなく刻みつけたくなる。
あれほど惹きつけられた下着など、セフィの肌の魅力の前には無粋な邪魔ものでしかなかった。
「は、ぁ……」
触れるとすぐ実を結ぶように堅くなった胸の先端。そこはどんな小さな刺激を与えても、それに呼応するように身を捩るか声が溢れた。手の平の中の柔らかな果実は、あなたの思うままと言うように僕の動きに合わせて形を変える。
セフィに触れるのは本当に気持ちいい。
「…やっ、ぁあ……あ」
口に含み舌先で転がせば、セフィの声はますます艶を帯び背中が反り、僕の髪の中や背中に回された指が食い込んだ。
花のようなセフィの肌の匂い。クラクラする。まるでセフィ自身が麻薬か媚薬のようだ。
唇で指で様々な愛撫を施せば、セフィの肢体が色づき、シーツの上をすべる。
「セフィ、キスして」
そっぽを向くように反対側を向いていた顔がゆるゆるとこちらに向く。濡れて潤んだ瞳は僕を咎めながらも、その奥には妖しく揺らめく翠の炎が見えた。その証拠にセフィは僕が願ったとおり口づけをしてくれ、あまつさえ柔らかな舌まで絡めてくる。さっきのお茶の香りが残っているセフィの唇は甘く、僕を捕らえ離そうとはしない。
「っ!!」
その隙に指は最後の砦へと侵攻した。布と肌のすき間に素早く指を滑り込ませ、柔らかな茂みを過ぎると、その先はもう長く愛撫を受けたかのように潤っていてすこし沈めただけの指が酷く濡れた。肉壁を掻き分けて更に指を進めるとずぶりと抵抗なくセフィの体内(なか)へと入ることが出来た。
「んっ、んんっ……ん、んっ、ん…」
侵入させた指をうねうねと動かせば、合わせた唇から刹那的な声が切れ切れに溢れる。
「ダメッ……それ…はッ、ぁ……あ、あっ、やっ、あ…あ…」
あるところで内壁を擦るように撫で上げると、たまりかねたように頭を振り拒否の言葉を吐いた。構わず続ければ、声は泣くようにより切なげになったけれど、躰は言葉とは裏腹にビクビクと震える。
セフィの二番目に弱いところ。悪いけどどんなに言葉で抗っても、セフィの感じるところ僕はとうに知り尽くしてるんだよ。
「……アー……ビ、ン…やっ……」
でもこのままだとセフィはもうすぐにでもイってしまう。僕は一旦セフィから離れた。辛さの方が勝ったのか、それを待ちかねたように、彼女は大きく呼吸をする。ダメだよ、落ち着く余裕なんかあげない。
「あっ!」
僕は残っていたジャマな布きれを取り払い、脚を割ってそこに口づけた。
「やっ、やっ!!」
今日はまだ大して触れもしていないのに、もう太腿を伝い濡らすほどになっているのが僕は嬉しかった。今度は優しく慈しみを込めて口づければ、びくんとセフィの脚が硬直した。指で左右にすこし広げて舌で舐め上げると、「はあ」と溜息のような甘やかな声が洩れる。
「は、っ……あっ…」
更に皮膚をめくるようにして現われた小さな突起に舌先で触れれば、逃れるように身を捩った。けれどそれ以上は動くことを許さず、そこを愛撫すればセフィは僕の髪に指を絡めて、艶やかな声でさえずった。
「やっ、やっ……ダメッ、あっ……あ、ぁあ……もッ…ダ……」
舌で花芽を愛でながら、指を再び花芯潜り込ませると、セフィの背中が大きくしなった。花芽を転がし、潜り込ませた指をすこし蠢かせただけで、もうほとんど限界のような声で喘ぐ。
今日のセフィは感じやすすぎる。
ぐったりとしどけなくシーツの上に横たわる仄かに色づいた肢体。
「セフィ、目を開けて」
目をギュッと閉じ、声を堪えるように唇を噛みしめているセフィを、僕は腕をついて見下ろした。
「ん…」
「セフィ、ね、目を開けて」
言うことを聞いてくれない彼女に口づけて、もう一度同じことを言う。するとようやく目を開けた。綺麗な翠色をした瞳がしっとりと濡れて、それがとても艶めかしくて、僕自身がどくんと脈打つ。
「愛してるよ」
「アービ……あっ」
「ダメ、目を閉じないで」
太腿を持ち上げ引きよせると、僕の熱い塊がセフィの秘所に触れ、彼女は一瞬表情を強張らせ顔を背けようとした。
「お願いだから、僕をちゃんと見て」
そう懇願すると、とても困ったような顔をした。ごめん、困らせてるのは承知の上なんだ。今こうしてセフィを抱いているのが誰か、その瞳に焼きつけておいて欲しい。めちゃくちゃなワガママだってわかってるけど、そうすればセフィの記憶には僕がはっきり残るから、だから――――。
「ああっ!!」
ずぶずぶとセフィの中に入っていたのを途中で勢いよく押し込んだ。反らされた白い喉に噛みつきたい。けれど噛みつくことはせずに、激しく愛したい烈情を押し込めてゆっくりと抜き差しをする。
僕の動きに合わせて虚ろな瞳がゆらゆらと揺れ、紅く濡れた唇からは甘やかな声が溢れる。けれどこっちは見てくれない。僕はここだと言うように時折強く突き上げれば、一瞬僕を見る。苦しげで、切なげで、哀願するような貌。言葉では聞こえないけど、僕に絡みつくセフィからは「やめないで」と聞こえる。
僕のせいでゆっくりと痴情にまみれていくセフィは、なんて綺麗なんだろう。
「はっ……ア…アービン……あ……ねッ…」
僕の刻むリズムに身を任せながらもセフィが腕を伸ばしてくる。何か言いたげな顔に背を丸めて近づけば髪を引っ張られた。
「っあ! …キス…して……」
急に引っ張られたことに抗議の意味で一度深く貫いたところで、そんなカワイイことを言われた。
「んっ……んっ……んっ……んんっ!」
セフィの望み通り口づけをしながら緩急をつけて腰を動かす。強く突けばその度にセフィが反応してきつく締めつけてくる。時に躰を捻り、時にセフィの片脚を持ち上げすこし体位を変えるようにして、長くセフィを貪った。
「――アービン…」
再び呼ばれた。背を屈めると、唇が触れるほど近くまでその白い腕に引き寄せられる。
「もっ……と、激しく……愛、して」
羞恥に彩られた貌。空耳かと思った。でも確かにそう聞こえた。長くゆっくりと彼女を味わいたいと思っていたけれど、今の言葉でそれはすぱっと断ち切られた。セフィの望みを断る理由などあろうはずもない。恥ずかしくてたまらないであろう台詞、それを押し退けてでも僕を望む想いの方が勝ったのだと思うと、セフィの中の自分がどくんと堅大さを増した。
「ああっ……あっ…っん…んっ…は…っ…やっ…アー…」
動きを早めた途端セフィはさっきにも増して僕をきつく締めあげてくる。
互いに急速に至上へと引き込まれた。
まるで螺旋を描くように絡み合い陶然となってゆく意識。
「あ、あぁ、やっ……ん、あっ――――」
「くっ…」
その先、それと引き替えに得も言われぬ充足感と開放感が僕たちに訪れた。
「……セフィ」
小さく震えている睫の先に雫が載っていた。それをそっと拭う。
「アービン…」
まだ朱を帯びた顔で僕を見てセフィはふわっと微笑った。そして僕の背中に腕をまわし、ぴとっとくっついてくる。何て言うか、今日のセフィはホントに可愛い。いや、いつもカワイイんだけど、今日のはそれとは違う種類の可愛さなのだ。とても素直で、とても僕を愛してくれているような……。
誕生日の特別サービスだろうか。それなら納得もいくけど、今日限定の可愛さと素直さなのは、かなり淋しい。
「みんなにバレてるかな」
顔を動かしてセフィが僕を見上げてくる。なんのことだ? と思ったが、すぐあの店を黙って抜け出てきたことだと気がつく。
「多分、バレてるね」
実際バレていた。というかバレない方がおかしい。
セフィには死角で見えなかったと思うけど、テーブル越しの席からサイファーが睨んでいた。けど幸いなことにキスティスも気がついていて、そんなサイファーの太腿にぷすっとカードが……。カード対戦をしていたスコールとゼルは全く気づいてなかったけど、リノアも当然のように気がついていて、こっそりウィンクされた。セフィはそのことで、またからかわれたりするのかも知れない。確かにセフィの反応は、ホントからかいがいがある。うん。けどそんなのバレたら、あそこから連れ出した僕にとばっちりがくるのは必至だ。
「けど、一緒にガーデンに帰ったと思ってるんじゃないかな」
これはセフィの願望であり、僕の儚い希望。
「そうかな」
「みんなそう思ってると思うよ」
「うん」
僕の言葉を聞いてセフィは安心したように、また僕の胸にぴとっとくっついてきた。
なんかすごくシアワセ。なのに、まだ物足りない。というか今日の僕のワガママは天井知らずだ。
「ね、セフィ僕のこと愛してる?」
「うっ、あ、愛してるよ」
ほっぺたを両手で挟んで逃げられないようにしてから訊くと、一度視線は泳いだけれどちゃんと言ってくれた。
本当にとてもシアワセだ。願わくばこのシアワセが明日も続きますように。
「僕もセフィを誰よりも愛してるよ。あ、それとね、今日着てた服めちゃめちゃ似合ってたよ」
「ん…ありがと」
嬉しそうに笑ったセフィの頬にキスをして、温かく柔らかい彼女をそっと抱いて、僕は目を閉じた。
次の日の朝、セフィがジャンパースカートの下に着ていたワンピースが総シフォンで下が透けてしまうという、とんでもないシロモノだとわかって僕がパニックになることなど、この時の僕は知る由もなかった。