小さな部屋に、ほんのりと漂うジャスミンの香り。その香りを少しだけ吸い込み、カップを脇に置きディスプレイを見つめる翠色の瞳。顔には悪戯な笑みを浮かべ、小さく軽快に歌を口ずさみ、ふわんと外にはねた明るい茶色の髪を指で弄びながら、片方の手でマウスをコロコロと転がしている。
「あ〜 格好良い〜、欲しいな〜、でも今月使いすぎやし、我慢やな〜」
ネットショップで見つけた好みのアイテムの購入ボタンを、うっかりポチッとしそうになり、慌ててポインタをぐいんと動かし、別の所をクリックする。
すると一瞬にして今まで白かった画面が綺麗な星空を映し出された。
「流星群か〜、そう言えばこの前のは任務で見られへんかったんだよね。今度はいつなんかな」
画面一杯に広がる星の海の上にある文字を目で追う。
「ラッキー、今日の夜も見られるやん」
ディスプレイに載る、更に詳しい情報を読み進めていくと、どうやらバラムでも観測可能らしいことが分かった。幸運にも明日はオフだ、よし今夜の予定は決まった。寝袋とお菓子を持ってリナール海岸近くの高台まで行って見てこよう。コンバーチブルの車が借りられたら、座席に寝転がって見るのもいいかな。セルフィはウキウキと今夜の計画を考えた。
「そろそろ職務に戻らなきゃ」
カップに残っていたジャスミンティーを飲み干し、休憩を終えて職務に戻ろうとした時、シュンとドアの開く音がした。
「セフィ〜、キスティス〜いる〜?」
聞き慣れたアーヴァインの声に思わずそちらの方を見る。
「あれ、珍しいねSeeD服」
開いたドアから入って来たアーヴァインは意外な服装をしていた。
「今日は運転手なんだよね、だから制服」
スコールに運転手を頼まれたのだと、アーヴァインは話してくれた。
今日はラグナさんが来校することになっていた、専用機ではなく普通の列車で。相変わらずラフ過ぎるエスタの大統領。そしてスコールは未だ父親のラグナさんが苦手らしい。嫌いという訳ではなく、性格が違いすぎるというか……離れていた時間が長すぎたというか、普通の親子のようになるのは、まだ少し時間が必要なんだとセルフィは思った。言葉にするのが苦手なスコールは、話好きのラグナさんの相手を一人でするのが苦痛で、自分のこともラグナさんのことも熟知しているアーヴァインを、クッション材兼送迎車運転手として指名したのだろう。
ガーデンのことやSeeDのことは、瞬時に的確な判断を下し誰の目から見ても申し分のない指導者なのに、プライベートとなると途端に不器用だったりする。よくリノアに「スコール、何考えてんのかわかんない〜」と泣き言を聞かされるのをセルフィは思い出した。
そういうところが、スコールの可愛いところだと思っていたが、当事者にしてみればのほほんと笑って済ませられる問題じゃないのだろう。アーヴァインの気がつきすぎるのを、半分わけてあげられたらいいのにな〜、とほやほやと笑顔でこちらを見ているアーヴァインを、チラッと横目に見てセルフィは思った。
「セフィ、ひょっとしてもう休憩終わった?」
「うん、丁度今職務に戻ろうと思ったトコ」
「そうなんだ、休憩の時にどうかな〜と思ってケーキ買ってきたんだけど、もう終わっちゃったのか」
「お茶くらいなら淹れてあげるから、そこで食べてけば?」
「僕一人で?」
「あたし職務あるもん」
「ええ〜、ちょっとくらいいいじゃん〜、セフィも一緒に、ねっ」
「ダメ〜、暇なアービンと違って忙しいのー」
「何で暇だってわかったの?! さすがセフィ僕のこと良くわかってくれてるよね」
違う、断じて違う、と思ったが、にこにこと子供みたいな笑顔でこっちを見ているアーヴァインに、セルフィは言い返す気力が失せてしまった。折角のSeeD服姿も、こんなどこの子供が言っているのかというような台詞を吐かれた日には、威厳も何もあったものじゃない。制服が泣くよ、とセルフィは溜息までついた。
「スコール達の会議が終わるまで暇なんだよね」
椅子の背もたれに腕を置き頬杖をついて、カタカタとキーボードの上を滑るセルフィの指を見ながらアーヴァインが呟いた。
「そんなに暇やったら、鍛錬でもして来たらどうなん」
「んー、そうしようかとも思ったんだけど、何かキスティスいなくてセフィと二人きりだし、時間までここにいたいなーって」
「…………」
セルフィはアーヴァインの言葉に何の反応も示さず、コンピュータを操作し続けた。
「ダメかな〜?」
「あたしの邪魔をしないって約束出来たら、いてもいいよ」
「ホントにっ!」
「邪魔したら、蹴り上げるよ」
凄みのある声を聞いた途端、嫌な記憶が蘇り、アーヴァインは椅子に乗ったままセルフィのすぐ横から、ずざざっと少し離れた。あれは勘弁、マジ勘弁、死ぬ、死ぬ、ある意味死ぬ。
アーヴァインは、少し前今みたいにここでセルフィと二人きりになった時、彼女の不意をついてキスをしたことがあった。夕方、勤務の時間外で、その後デートの約束になっていて、別に悪いことをしていた訳じゃなかった。ちょっと避けようのないアクシデントがあっただけで。退室したはずのキスティスが戻って来ただけで……。キスティスは「邪魔してごめんなさいね」と咎めることもなくすぐに出ていった。ただ、セフィにとっては違っていたらしく、その後「アホーーッ」と言って股間を蹴り上げられた。あれは悶絶。息が出来なくなるは、吐き気はするは、暫くうずくまって動けなくなるは。特に下からガツーンと来たら、もう最低最悪。ほんっと勘弁。
アーヴァインが嫌な記憶と葛藤していた頃、セルフィはもう何事もなかったかのように、職務に戻っていた。
アーヴァインはセルフィに言われた通り、大人しくしていた。
キスティスの職務室に、セルフィのキーボードを操作する音と、時折捲る紙の擦れる音だけが響く。
セルフィはこの空間に漂う沈黙が段々と苦痛になって来ていた。元々賑やかな方が好きで、長い沈黙というのはちょっと持て余してしまう。自分から邪魔するなと言った手前、今更アーヴァインに話しかける訳にもいかず、彼女はさっきの言葉を後悔し始めていた。
「そろそろ時間だから、行くね」
「え、もう!?」
「少しは淋しいと思ってくれるのかな」
ほんの少し声のトーンが違っていただけなのに、アーヴァインは、どうしてこう自分の心情を的確に見抜くのか……。セルフィは正直そう思っていただけに、悔しかった。
「ちょっとだけね」
「後で一緒に夕食を食べようよ」
すぐ横で、椅子に座っているセルフィの倍程の高さから、そう言われた。
「いいよ」
流星群が見られるのは深夜から明け方近くだ。それまでには十分な時間がある。食事だけなら大丈夫だろうとセルフィは思った。
「じゃ、電話するね」
「うん」
セルフィが見上げると、物言いたげな瞳とぶつかった。
くいくいっと指で「近くへ」と合図をすると、長い身体を折るようにしてアーヴァインが顔を近づけてきた。
「行ってらっしゃいのキス」
ちょっとだけ恥ずかしそうなセルフィの言葉に、アーヴァインは柔らかく微笑み、キスをしてくれた。
「誰が、ディープオッケーって言うたんっ!!」
「だって、ダメだって言わなかったじゃないか〜」
「う゛〜」
頬を赤くして睨んでくるセルフィに、「じゃ行ってくる」と残して、これ以上分が悪くなる前にアーヴァインはキスティスの職務室を後にした。
※-※-※
「セフィ、明日オフだよね?」
「うん」
「僕もオフになった」
「そうなん」
食堂のカウンターにトレイを戻しながら、今夜持って行く飲み物をテイクアウトしようと、どれにするか考えていたので、アーヴァインが何を言ったのか深く考えないまま、セルフィは適当に返事をした。
「だからね」
「ん?」
ミネラルウォーターにしようか、それともグレープジュースにしようか、どっちも捨てがたいしいっそ両方かな。とセルフィの瞳も意識も、隣にいる恋人より未だドリンクコーナーに釘付けられている。
「これから僕んトコ来ない?」
「うん」
よし、両方にしようと決意した声。アレ?! アービンが何か言ったような…。明日オフとか……アレ? アーヴァインを見上げるとにこにこと笑っていて、良く分からないままセルフィもつられて笑った。
ペットボトルのミネラルウォーターとグレープジュースを買って食堂を出る。
「じゃ、待ってるね」
女子寮と男子寮へ別れる通路で、アーヴァインが言う。
「どこで?」
「僕の部屋」
「なんで?」
「なんでって、セフィさっき『うん』って言ったじゃないか〜」
そういう会話だったのかと、セルフィは今更ながら気がついた。
我ながら、どうしてちゃんと聞き返さなかったのかと。今夜は流星群を見に行くからダメだと。
「ごめん、アービン今夜は先約があった…りする」
「え〜」
明らかな落胆振りに、良心が痛む。
「誰と? リノア?」
首を振って否定する。
「流星群を見に行こうと思って」
「一人で?」
「うん」
「僕は?」
「深夜から明け方にかけてだから、悪いかな〜と思って、急だし、オフじゃないと思ってたし」
「僕も行く」
「いいの?」
「セフィは一人がいいの?」
そんな風に言われると言葉に詰まる。何より、ほんの僅かに翳りの差したその瞳。一人で見るのもいいと思うけど、そのつもりだったけど、大好きな人が一緒にいてくれるのなら、そっちの方がいいに決まっている。
「そんなことない、一緒の方が楽しいよ」
セルフィの言葉に、アーヴァインは安心したように軽く息を吐いて微笑った。
ああ、まただ。時々アーヴァインは確かめるように、こんな訊き方をしてくる。なんだろう、何か不安なんだろうか。
どうしたらその不安を取り除けるんだろう――――。
「それじゃ、12時にアービンのトコ行くね。それまで仮眠取った方がいいよ」
「僕がセフィを迎えに行くよ」
「いいの、今日はあたしがアービンを迎えにいく」
くいっと人差し指を立ててアーヴァインを見上げる。少し困惑した色を浮かべた青紫の瞳は、すぐに優しい色に変わった。
「分かった。じゃ待ってる」
「うん。後でね」
アーヴァインとは別れてセルフィは自室に戻った。
持って行く物を小さめのカバンに詰めて、シャワーを浴びて、出発まで仮眠を取ろう。星空を見上げながら眠ってしまったのでは、何にもならない。セルフィは早速、準備に取りかかった。
「またあんな探るような訊き方……」
熱めのシャワーに打たれながら、アーヴァインは独りごちた。
我ながら情けない。これ以上彼女に何を望むのか。好きだと言ってくれた。請えば傍にいてくれる。それだけで十分ではないか。髪を、首を、腕を、背を伝い流れていく液体と共に、この貪欲な感情も流れてしまえばいいのに……。
アーヴァインは乱暴に髪と身体を拭くと、アラームだけセットしてそのままベッドに突っ伏した。
電子音が小さく響く。その音にセルフィとの約束を思い出し、アラームを止めて身体を起こすと、微かに別の音が聞こえた。
『雨音……?』
ブラインドを上げ窓を少し開けてみれば、ムッとした湿気が部屋に流れ込み、闇の中間断なく葉を打つ雨音が聞こえた。
「これじゃあ、星は見えないな」
セルフィのがっかりとした顔が目に浮かぶ。流星群観察は文字通りお流れ。そろそろセルフィから中止のメールか電話があるだろう。多分、今日はもう彼女とは逢えない。
がっかりとした気分で、取り敢えず服を着て寝直そうと思った時、インターフォンが鳴った。
「誰だろ」
のろのろとインターフォンの小さなモニター画面を覗いてみれば、セルフィの姿を映し出されていた。
「セフィ!?」
「何で驚くかな〜」
「えと、入って、あ、やっぱちょっと待って、服着るから」
アーヴァインがそう言ったあと、一方的にインターフォン越しの会話が切れた。セルフィが慌てていたアーヴァインのことを思い出し笑いしていると、程なくドアが開きセルフィは招き入れられた。
「迎えに来るって言ったよ〜?」
部屋の中に足を踏み入れるなり、まだ現状が良くわかっていない様子のアーヴァインをセルフィはクスクスと笑った。
「ごめん、雨降ってるから来ないと思ってた」
セルフィは確かにそのつもりだった。そのつもりだったけれど、アーヴァインが気になった。いつもは煩いくらいまとわりついてくるのに、時々ふっと酷く不安げな表情(かお)をする。
さっきも……だから来たのだ。アーヴァインのところに。
「その前に、アービン『僕のトコ来ない?』って言ったよ?」
「う…ん、言った…」
「だから、来たのに〜」
「ごめん〜」
返事の歯切れの悪さから、また何か考えて暗くなってたのをセルフィは感じた。他の誰にわからなくともセルフィには、わかる。
「アービン」
「ん?」
「いらっしゃいのキス」
アーヴァインに向かって手を伸ばし、首の後ろに差し入れ引き寄せ、軽く唇を重ねる。
「アービン、今日はずっと一緒にいてもいい?」
耳の近く、アーヴァインの匂いを確かめるように囁く。
「セフィ」
返事をする代わりに、アーヴァインはセルフィをぎゅっと抱き締めた。
「アービン?」
あまりにも動かない、アーヴァインに問う。
「このままベッドに運んでもいい?」
「え!?」
いきなり、そこ!? 速攻!?
「ちょっと、待ってくれるかな〜? アービン」
確かにちゃんとそのことも含めてそのつもりでここに来た、でも――。
「諸事情により、ムリです」
あはははは、そうなのか。そっか……そうだよね。今夜一緒にいたいと言ったのはあたしだもんね。そうすることで彼の不安が取り除けるのなら、今夜は彼に全てを委ねよう。
セルフィはそう決心をして、アーヴァインの首にぐっと抱きついた。
窓の外に見えるのは、相変わらずの闇。雨も止む気配はない。
「……アービン」
ベッドに横たわり、今は自由に泳ぐ長く柔らかい髪を弄びながら名を呼ぶ。
「うん?」
アーヴァインはセルフィの頬に額に瞼に口づけの雨を降らせながら、ゆっくりとブラウスを脱がせていた。
「何か、グルグル考えてない?」
「どうして?」
アーヴァインは見抜かれる程顔に出ていたのかと、内心どきりとした。
「何となく……んっ」
「考えているといえば、考えてるかな。いつだってセフィのこと…」
耳朶を甘く噛みながら言われ、痺れるような刺激が瞬時にセルフィの肌身を駆けた。
『はぐらかされた…かな…』
「……あっ…」
尚も続けられる耳への愛撫に、セルフィは余計なことはすぐに考えられなくなってしまった。既に感じられるは、自分の吐息とアーヴァインの熱い唇と肌に触れる指先だけ。
知らぬ間に露わになった胸を、その熱い指と唇が蠢く。その度にアーヴァインの熱がセルフィ移り、更に身体の奥へと集まっていき、淫らな雫へと姿を変えていく。
アーヴァインの長い指がセルフィの肌に時に吸い付くように、時にその柔らかにラインを愛でるように滑り、ゆっくりと下肢へと進む。
「…っ、は」
穿いていたミニスカートなど、とうにセルフィの身体にはない。一つだけ残った衣の中へ、するりとアーヴァインの指が入り込んだ。
「は…んふっ…」
最も敏感な花芽に触れられた瞬間、息が止まるような強い刺激にセルフィの身体が跳ねた。既に奥の泉は十分過ぎる程潤っているがわかった。が、そこに触れることはせず、乳房と花芽への愛撫を強く弱く繰り返せば、セルフィの声は細く甘く、呼吸は荒くなっていく。愛する者が自分の愛撫で乱れる姿のなんと艶めかしく刺激的なことか。セルフィの声と姿に恍惚とし始めた頃、アーヴァインの愛してやまない少女がビクンとした痙攣と共に、ぐったりと身体の力が抜けていくのを感じた。
ようやく呼吸が落ち着いてきた頃、セルフィはゆっくりと目を開けた。少し霞んだ視界に現れたのは、こちらを見つめるアーヴァインの裸身。白い光に浮かび上がったその身体は、本当に美しいとセルフィは思った。その唇が動いて何かを告げる。
「セフィ、綺麗だよ」
なんのことだろうかと考えを巡らして、セルフィはハッとした。
アーヴァインの身体が見えるということは、自分も同様なのだということ。知らない間に雨は止み、ブラインドのすき間から月の光が差し込んでいる。だから――――。
堪らぬ羞恥心に自分の身体を抱くようにして、セルフィは身を小さくした。
なのに、「隠しちゃダメだよ」と言って、アーヴァインの腕はいとも簡単にセルフィの腕を捉え、そのまま頭より高い位置へ固定した。彼は満足そうな笑みを浮かべると、顔をセルフィに近づけた。さらさらと溢れ落ちた髪がセルフィの肌を撫で、そして深く口づけた。アーヴァインの指は再び肌をゆるゆると滑り、残っていた最後の下着も取り去り、セルフィの内股に滑り込ませる。
「…っ!」
アーヴァインは身を捩ろうとしたセルフィの唇を解放することなく、更に深く彼女の口腔を味わいながら、蜜の滴る最奥へと指を差し込んだ。
合わせた唇からセルフィの熱い吐息が溢れる。
指を動かせばきつく締めつけられることから、セルフィが甘美な刺激に翻弄されているのが彼に伝わる。だがまだだと、アーヴァインは更に淫靡な水音を立てて指を動かした。
「や…あぁ……」
耐えきれず離れていった唇からこぼれる甘く喘ぐ声は、男を猛らせるもの以外の何ものでもない。
「アー…ビン」
切れ切れの呼吸の中から切ない声で名を呼ばれても、まだ足りないとでも言うかのように、セルフィの内壁をまさぐる指は止まらない。
「…あ……んくっ…」
身を捩り、頭(かぶり)を振った瞳にうっすら涙が浮かんでいるのが見えて、やっとアーヴァインはセルフィの中から指を引き抜いた。
薄く瞳を開けて、うつろなそれでいてどこか懇願するように見上げてくるセルフィの額にキスを落としてから、アーヴァインは彼女の中へと熱く滾る自分自身を押し進めた。
セルフィはまるで彼の為に誂えられたのように、しっかりとアーヴァインを奥深くまで受け入れる。それがどれだけ嬉しいことなのか、彼女は知っているのだろうかとアーヴァインは思う。
「セフィ」
耳元で囁くと細い腕がアーヴァインの首に巻きつけられた。それが合図だったかのように、ゆっくりと腰を動かす。
「…んんっ…」
きつく締めつけてくるセルフィに翻弄され、すぐに限界が来てしまいそうになる。
「アー…ビン、き…い…て」
ゆらゆらと揺れる唇から切なげな声が落ちた。アーヴァインは返事の代わりに指でセルフィの頬を撫でる。
「あたし…すき、だから……素直じゃない…けど、アービンのこと……ずっとずっと……す…き…」
なぜそんなことを言うのかとアーヴァインは思った。まさかセルフィには見抜かれていたのだろうか。自分の抱えている不安。また彼女と離ればなれになる時が来るのではないかと。また引き裂かれてしまうのではないかと……。それが伝わってしまっていたのか。
もし、そうだったとしたら。いや、そうではなかったとしても――――。
彼女の言葉に胸が熱くなる。
「セフィ……ありがとう。愛してるよ」
セルフィはふわりと微笑んでアーヴァインに口づけ、彼を優しく包むようにして夢幻郷へといざなった。
アーヴァインに後ろから抱き締められたままセルフィはまどろんでいた。どれくらい経ったのか、ふと窓の外に星が見えていた。暫くそのまま眺めていると、一つ星が流れた。
「あ、流星群」
そっと身体を起こしてシーツを引っ張っぱり、身体に巻き付けるようにしてベッドから降りる。
「あ、また流れた。うわー綺麗」
窓際に立ち星空を眺めていると、時折流れていく星が幾つも見えた。流星群に夢中になっていると、ふいに後ろから声がした。
「セフィ、僕に風邪ひかせる気?」
振り返ると何も身に付けず腕に頭を乗せて、ベッドからこちらを見ているアーヴァインの姿があった。月は既に姿を隠し、その裸身が詳しく見えることがなかったのは幸いだろうか。
「ごめん。ね、アービン、ここから流れ星見えるよ」
「え、そうなの」
アーヴァインも結局そのまま窓際に来て、暫しセルフィと流星群を眺めた。
「やっぱ、さむっ。セフィ、ベッドに戻ろう」
流星群は名残惜しかったけれど、アーヴァインに風邪をひかせてしまうのはさすがに嫌だったので、セルフィは大人しく彼に伴われてベッドに戻った。
「セフィ、何か願い事した?」
セルフィを胸に抱き寄せ、囁くように問う。
「うん、したよ。アービンは?」
「モチロン、したよ」
セルフィの頬にキスをする。
「なんて?」
「内緒、セフィは?」
「それなら、あたしも内緒」
「え〜、言ってよ」
「アービンが先」
「ん〜、ならいい、こうする」
セルフィの首筋に唇が押しつけられる。
「ちょっとー、なんでそうなるかな、大人しく寝たらどうなん」
「仮眠取ったから、眠くありません」
「ええ〜」
「という訳で」
「わ、ちょっ……んんっ」
セルフィは口を塞がれロクに答えることすら許して貰えなかった。
―― これから先もずっと一緒にいられるように ――
お互い知らないけれど、二人が流星にかけた願いは、多分同じ。