片付けが終わって、セルフィはソファに手足を投げ出すようして一休みしていた。
「あ、キスティスとリノアのプレゼントっ何かなー」
さっき貰った物を思い出し、そっと袋を開けてみる。白く手触りの良いコットン生地に、綺麗な水色の縁取りとワンポイントで花の刺繍が施してある下着の上下セットだった。
「わ、可愛い」
思わず声に出して呟いていた。
「セフィ、お疲れさまー、何が可愛いんだい?」
アーヴァインは砂糖とミルクをたっぷりと入れたコーヒーをセルフィの前に置きながら、彼女の手に持っている物を見て問いかけた。
「キスティスとリノアに貰った物〜」
流石に下着とは言えなくて、セルフィはそうごまかした。
「今度僕にも見せてくれるかな〜」
ぬいぐるみか何かだと思ったのか、アーヴァインは屈託無く笑っていた。言われた当のセルフィは、機会があれば見せる事は出来るけれど中身が中身なだけに、どう答えていいか分からずただ頬が赤くなっていくばかりだった。それを察してかどうかは分からなかったが、アーヴァインはそれ以上何も言わなかった。
セルフィはそのことにホッとして、二人の友人からのプレゼントの入った袋をそっと下に置くと、目の前で美味しそうに湯気を立てているコーヒーに口をつけた。セルフィ好みの甘さに整えられ、少しほろ苦い温かい液体が、ゆっくりと心と体に広がり、アーヴァインの言葉で少し慌ただしくなった心臓が、再び落ち着きを取り戻していくのを感じた。
ふと気がつけば隣でアーヴァインが何かごそごそとしている。それがなんとなく気になって、そちらに向いてみると、何やら赤い変な形の物体を弄っているようだった。
セルフィの視線に気が付いたのかアーヴァインが「これ何だろうね、ゼルが忘れていったみたいなんだけど変な形〜、こうするとでっかいリボンみたいだ」と、頭の上にそれを載せておどけてみせた。
言われてみれば確かに大きなリボンのように見えなくもないかな、とセルフィも思った。
「セフィに僕をプレゼント〜……なんて…ね。あはははーー」
アーヴァインは咄嗟に口をついて出たのが、シヴァをも凍りつかせるんじゃないかと思うほど極寒の台詞だと気がついたが、自分の口であっても途中で止めることは不可能だった。出来たことと言えば語尾を小さくして笑ってごまかすくらいで、その後、あまりの寒い台詞にセルフィに失笑されるだろうと確信して、心の中で項垂れた。
「うん、ありがとう」
「そうだよね、いらないよね」
反射的にそう答えていた。だがアーヴァインの耳に届いた言葉は、なんだか予想していたものとは違ったような気がして、思わずセルフィの方を見ていた。
セルフィは確かに笑っていたが、それは失笑とは明らかに違っていた。気のせいか、少し恥ずかしそうな笑顔のようにも見えたりする。
『アレ? もしかして……』
アーヴァインは自分の考えを確かめたくて、もう一度聞き返してみたい衝動に駆られたが、聞き間違いだったらまたへこむしとグルグルとしばらく考えてはみたが、やっぱりちゃんと確かめたいという結論に至った。
「セフィ、良く聞こえなかったんで、もう一回いい?」
もう自分でも頬の筋肉がヒクヒクしているのが分かるくらい、変なイントネーションだと思った。
「うん、ありがとう」
さっきより、少しはっきりとした声でセルフィが答えた。アーヴァインの頭から“変な形のリボン”がぽとんと落ちた。アーヴァインはその言葉の意味をものすごい勢いで考えた。
『えーと、おちつけ、おちつけ、僕。自分の思っている通り、僕自身を受け取ってくれるという意味なのか、それともこのリボンもどきが欲しいのか……うーん』
何故そこでヘンテコリボンを欲しがっているという考えになど至ったのか、ちっとも、全然、全く落ち着けていない。尤も、この状況で落ち着けという方が無理な話ではあったが。
結局、セルフィの言った言葉の真意は全く分からず、表情でも見れば分かるだろうかと、アーヴァインはセルフィの方を再び見た。
互いの視線が交錯した瞬間、セルフィはふいっと横を向き、その頬はみるみる朱に染まっていくのが見て取れた。そこに至ってようやくアーヴァインは、セルフィの言った意味を理解することが出来た。
そしてセルフィには悪いけれど、もし間違っていたとしても、今日はこの腕に閉じ込めてしまいたいと思った。今まで何度か彼女に触れたいと思って、それを試みたけれどいつもするりとかわされてきた。今それを口にして拒絶されてしまったら、きっとものすごくへこむことになるんだろうけど。それでも今日こそは、という想いはちょっと抑えられそうにない。
ずっとずっとセルフィが好きだったのだ。
気の遠くなるような時間を待ってようやく手に入れた。けれどまだ不安なのだ。ガーデン生あこがれのSeeDであり、学園祭実行委員など自ら積極的に学園活動もするし、明るくとっつき易い性格の彼女は、男女問わず人気がある。恋人という特別ポジションを得ても、日々の不安は尽きない。だから少しでも自分を安心させる要素を増やしたいのだ。
誰かに盗られる前に、セルフィを自分のものにしたい。我儘だと罵られても、そうしたいのだ。
アーヴァインは一度ぎゅっと拳を握り、こくんと口の中を唾を飲み込んでから行動に移した。
ふわっとセルフィの頬に手を添える。触れた瞬間彼女がピクッと震えたのがアーヴァインの手に伝わった。片方の手も反対側の頬に添えて、顔を近づけるとセルフィは静かに瞳を閉じた。軽めのキス。顔を少し離すと、少し潤んだような熱っぽい瞳に見上げられて、アーヴァインはようやく安堵した。
それが合図だったかのように、今度は熱く深く口づけを交わす。何度も何度もお互いを確かめ合うように。アーヴァインの唇が、セルフィの耳朶を軽く啄み、更に首筋にキスをしながら下へと移動していく。左手の指はセルフィの背骨をなぞるように動いていた。セルフィの背を痺れるような感覚が、アーヴァインの指の動きに合わせて移動し、その度に肌身に波紋のように広がっていく。
「待って、アービン」
気が遠くなっていきそうなのを必死に耐えて、セルフィは告げた。一方アーヴァインはここに至って思わぬ制止の声に愕然となった。
「ごめん、もう待てない」
誰よりも大好きなセルフィの頼みではあったけれど、アーヴァインは今この時だけは聞き入れることが出来ず、そのままセルフィに触れるのを止めなかった。
「違う。嫌なんじゃなくて、ちょっとだけ待って〜」
懇願するようなセルフィの声に、アーヴァインはようやく動きを止めた。
「ごめんね、あのね、今日バラムの街に行って、潮風に当たって、ちょっと腕とか髪とか気持ち悪くて。だから、シャワー浴びさせて」
アーヴァインはその言葉にホッとした、拒絶されたのではない。セルフィの頼みは女の子なら尤もだと思った。
「分かったいっておいで、それとも一緒に入る?」
珍しく意地悪を言う。
「それはイヤ、絶対にイヤ! 恥ずかしすぎる」
真っ赤になって抗議するセルフィの貌も、今のアーヴァインにとってはとても可愛らしいと思うだけだった。
「この前預けた布バッグ、どこにある?」
「ん、ちょっと待って」
アーヴァインは棚の中から預かった袋をセルフィに渡した。セルフィはそれを受け取ると、足元に置いていたリノア達からのプレゼントも一緒に持ってバスルームに向かった。バスルームのドアを開けようとした時アーヴァインの方をくるりと振り返る。
「やっぱりアービンが先に行って」
まずないだろうとは思ったけれど、もし途中でアーヴァインがバスルームに入って来たらと想像して、セルフィは先に入るよう促した。アーヴァインは特に嫌がることもなく「了解〜」と言って、着替えを持ってバスルームに入っていった。
『あの布バッグって、こんな時の為だったのかー。という事はこの前来た時には、既にセフィは……』
アーヴァインはごしごしと身体を洗いながら、そう思うとどうにも頬の筋肉がゆるんでしまった。今すぐ「ありがとう」と伝えたい気分だったが、かなり恐ろしい結果になりそうだったので、ぐっと堪えて自分を磨くことに専念した。
『とうとうきちゃった……』
ソファに座ってアーヴァインが出てくるのを待ちながらセルフィはぼそっと呟いた。心臓がドクンドクンといつもより早く脈打っているのが分かる。はぁと溜息をついて、お泊まりセットとリノア達からのプレゼントを抱えたままごろんとソファに横になる。
本当はまだちょっと逃げ出したい。アーヴァインのことは好きだ。ちゃんと男として好きだ。そういう関係になるのがイヤってわけでもない。恋愛に於ける当然の段階の一つだと思う。アーヴァインに抱きしめられるのは心地いい。自分だってアーヴァインに触れてみたい、と思ったことはある。むしろそうなるのならアーヴァイン以外はイヤだとも思う。
でもちょっと怖くもある。身体的にも、精神的にも。一度そうなってしまうと、そっち優先で気持ちが置いて行かれるんじゃないか、とか。今までみたいにアーヴァインは自分のこと好きでいてくれるんだろうか、とか。つい不安が広がる。
ただ、今ここで逃げ出してしまったら、もう二度とアーヴァインとは会えないような気がして、セルフィはまた一つ大きな溜息をついた。
セルフィがグルグルと考えている内に、バスルームへ通じるドアの開く音がした。アーヴァインがこちらに近づいて来る足音が聞こえる。今、アーヴァインの姿を直視するにはあまりに恥ずかしくて、セルフィは咄嗟に目を閉じた。
「セフィ、バスタオル新しいの置いといたから使って。――じゃ後で」
セルフィの耳元で、セルフィの聞いたことないような低さと甘めの声でそう囁くと、シャンプーの香りを仄かに残してアーヴァインは寝室に消えた。アーヴァインが去ったのを確認すると、セルフィはのろりと起きあがった。
アーヴァインの声が未だに頭の中で木霊している。なんていうか、あれだけで身体の芯がぞくっと震えた。これから自分がしようとしていることを体感するには充分すぎたというか、余計に逃げ出したくなったというか――――。
「ここで逃げてもなんにもならない」
セルフィは自分にそう言い聞かせてバスルームに向かった。
バスタブにお湯を張りながら、セルフィは持って来たお気に入りのバスオイルを数滴垂らした。
大好きな香りが室内を満たしていく。
潮風で居心地の悪かった身体と髪を洗い、バスタブにゆっくりと身体を沈める。湯気とともに立ち昇るバスオイルのフルーツの香りが柔らかくセルフィを包み、躰の内側から心も解きほぐしていくようだった。
身体もすっかり温まり、のぼせてしまう前にお湯から上がる。髪と身体を拭き、まさかこんなに早く使う事になるなんてと思いながら、リノアとキスティスにプレゼントされた下着を身につける。それは実にセルフィにぴったりだった。華美過ぎず清楚で可愛らしい。オフホワイトのコットンのキャミソールと短パンの夜着を着、ドライヤーで髪を荒乾きさせ、歯磨きを終えるとセルフィはバスルームを出た。
ほんの少し前、仲間達と楽しい一時を過ごしたとは思えないほど静まりかえった部屋。
視界の端に外へと通じるドアを捉えた。けれど、セルフィは吹っ切るように照明を落として、ゆっくりと寝室へ向かった。
寝室のドアをそっと開ける。明かりの抑えられた室内は、さっきまで明るい場所にいたセルフィには一瞬中がよく見えなかった。徐々にに目が慣れてくると、ベッドに横たわっているアーヴァインの姿が見てとれた。入って来たセルフィに気がついていないのか、全く動く気配はない。
そうっと近づいてみると、瞳は閉じられ、規則正しく胸が上下していた。もう眠ってしまったのだろうか。確かめるように顔を近づけてみる。それでも起きる気配はなかった。ホッとしたような残念なような気持ちで、ベッドの反対側へ回ろうと、セルフィがくるりと身体を反転させた瞬間、くんと腕を掴まれた。振り返ると、上半身を起こしたアーヴァインがどこか切なげな瞳でセルフィを見ていた。
「――セフィ」
そう言った刹那、アーヴァインは掴んだセルフィの腕を引き寄せ、倒れ込んだ彼女の身体を抱きしめると唇を重ねた。長く塞がれた唇にセルフィは息苦しさを覚え、苦しいとアーヴァインのTシャツを強く握ることで訴えた。ようやく解放され、息を一つついた所で、ぐるりとセルフィの視界が回った。アーヴァインの膝の上に乗るように倒れ込んでいた身体は、彼によって今度は組み敷かれる形になっていた。
「セフィ、大好きだよ」
熱を含んだ瞳で真っ直ぐにセルフィを見つめている。
「うん、あたしもアービンが大好き」
少し微笑んでセルフィはそう答えた。もう逃げない。さっきの切なそうな瞳が、彼のSeeD就任パーティの時の淋しげな表情と重なって見えた。もうアーヴァインにあんな表情(かお)をさせるのは嫌だ。
だから……――。
「セフィ…」
熱に浮かされたように低く呟くと、アーヴァインはセルフィの首筋に顔を埋めた。
セルフィは静かにアーヴァインの頭をかき抱くと髪にキスをして応えた。
深く、熱く、明けがたい夜の刻が流れ始めた。
※-※-※
唇が触れるか触れないかの間合いで、セルフィの項へと幾つも落とされるキス。
アーヴァインの左手は、彼女の柔らかな唇をなぞり、顎のラインを通って首筋から肩を、そして軽く折り曲げられた腕を辿り指先まで、ゆっくりと這わされる。
普段なら特別気になるような事でもないのに、今この時は、まるで自分の肌が砂鉄にでもなったのか、アーヴァインの指が触れた後を追うようにして、セルフィの体内(なか)を甘い痺れが走った。その甘やかな刺激に、我知らず声が出てしまいそうになる。そんな恥ずかしい声を聞かれてしまうのが嫌で、セルフィは手の甲を口にあてがい声を出すまいと抵抗した。
―― この肌にずっと触れたかった ――
唇と指先で、セルフィの肌を味わいながらアーヴァインの心は打ち震えていた。
もうずっと焦がれていた。
セルフィ自身を、肌を。
今ようやく叶う。その事に、身体の中で生まれた熱が気を抜けば体内にとどまらず外に溢れ出てしまいそうだ。早くセルフィにこの熱を沈めて貰いたいという思いと、初めての彼女に急いてはいけないという思いが激しく葛藤を繰り返す。
その熱を唇に込めて深く口付けをする。セルフィの舌を求めて彷徨えば遠慮がちに応えてくれた。
右手でそっと鎖骨からキャミソールの上を辿り、ボタンを一つ一つ外すと、背中に腕を差し込みブラの留め具も外す。脱がせようと試みれば、セルフィ自身も合わせるように動いた。けれど、露わになった胸を両の腕で隠し、セルフィはキャミソールを脱ぐ際横に向いた身体をそのままに、動こうとはしない。
アーヴァインは構わずセルフィの項の髪を少し掻き上げると、首の付け根から背骨に添って下へ下へと丹念に舌を這わせた。
「あ…」
思ってもみなかった箇所に愛撫を受け、思わず声が漏れたと同時に、セルフィはピクンと身体を震わせた。
背中を愛撫しながら、アーヴァインの手はセルフィの身体の曲線を愛おしむようになぞる。
なめらかでしっとりと手に吸い付くような白い肌。
これ程までとは……。
今、自らの意志で自分を受け入れようとしてくれている事実と、直に触れている感触とが相まって、この前目隠しをして触れた時よりも、遙かにアーヴァインに感動を与えていた。
アーヴァインはセルフィの肩を持ちゆっくりと仰向けにさせた。
相変わらず、胸の双丘は腕に隠されたまま、彼の眼に触れる事を赦してはくれない。
「セフィ、手を――」
語尾を飲み込み、耳元に囁くように言いながら、そっと腕を胸から剥がそうとすると、意外にもセルフィは抵抗しなかった。露わになった両の胸の頂きの薄紅色が、酷く艶めかしい。
その頂きの片方を口に含み舌で転がすと、セルフィの背中が一瞬反った。もう片方を手で包みゆっくりと揉みしだく。呼吸が幾分荒くなり、肌身も熱を帯び、胸の頂きは刺激を受け堅くなる。と、セルフィの口から「…んっ」と甘い吐息が漏れた。けれど直ぐに、自由になった手で塞がれ、それ以上聞かせてくれるつもりはないようだった。
「セフィ、声を我慢しないで、僕はセフィの声が聞きたい」
セルフィが自分の愛撫でちゃんと感じてくれているかどうか、声でそれを感じ取る事が出来る。そして何より、彼女の声が聞きたい。自分を昂ぶらせてくれる、自分だけに聴く事を許されたその甘やかで刺激的な声を。
幾度も夢の中で聞いた声を。
アーヴァインは胸を愛でていた手を、ふくらみの稜線をなぞるようにして離れ、次第に下へと移動させた。唇も柔らかな肌を、時に強く吸うように、時に舐めるようにして後を追う。指で短パンを押し下げて肌から取り払ってしまうと、セルフィの肌身を覆うのは薄い布一枚だけになってしまった。
セルフィはふと自分に触れていた熱が離れていき素肌に僅かな冷気を覚えた。
薄く目を開けてみると、服を脱いだアーヴァインの躰が見える。
けれど僅かな光量に抑えられている上、アーヴァインは照明を背にしているので、セルフィの位置からでは影になってよく判らない。
その分セルフィの記憶の中、適度に鍛えられた体躯は彫像のように美しかったことが思い出され、今のアーヴァインに重なっていった。それを手で直に確かめたくて、セルフィはアーヴァインの胸に手を伸ばした。その手に吸い寄せられるかのように、アーヴァインが近づき、彼女の手の平が胸に触れる。筋肉質で自分のそれよりも堅い、けれど意外にも肌はすべらかだとセルフィは思った。
服を着ていても分かる広くて厚みのある胸板。その感触を両の手すべてで感じ取りながら、セルフィは強く抱き締められたい衝動に駆られた。そしてその様を想像すると躰の最奥が痺れるような感覚にとらわれた。それを感じてか、アーヴァインの指は再び彼女の肌を愛でる事を再開し、唇はセルフィのそれを蹂躙し始める。
「…は……んっ、ん」
セルフィはもう声を出す事を厭いはしなかった。
いつの間にか、アーヴァインの指はセルフィのくびれた腰をなぞり、するりと最後の薄衣の中へと侵入を試みている。
「…!」
頭では判っていても、自分でも殆ど触れた事のない場所に触れられるのはとても恥ずかしくて、セルフィは咄嗟に脚を閉じようとした。けれど、割り込んできたアーヴァインの脚に簡単に阻まれた。侵入した指は柔らかな茂みを掻き分け、小さな肉芽に触れる。強い刺激にセルフィの身体は一際大きくビクンと震えた。
アーヴァインの指が可愛らしい肉芽に指で緩慢に時に小刻みに刺激を与えると、セルフィは逃れるように身を捩り、塞がれた唇からは甘く苦しげな声が漏れた。その声の様子から自分の与える愛撫で、ちゃんと彼女が感じてくれているのだと判りアーヴァインは嬉しかった。更に彼は奥にある秘所へと指を進める。そこは既に泉となって溢れているのが感じ取れた。彼女の最も秘めたる部分、自分を受け入れてくれるであろう器官へと、セルフィへの負担が少なくて済むようそっと指を一本差し込む。
「んんっ!」
セルフィは一瞬アーヴァインの肩をぎゅっと指で掴んだが、直ぐに解放した。
「セフィ、辛かったら言って」
アーヴァインは一度顔を上げてセルフィの表情を窺った。眉根が寄り、唇をきゅっと噛みしめているのが分かる。
「ん、大丈夫。ちょっと驚いただけ」
辛くはなかったが、セルフィは未だに少し怖かった。
指が一本侵入しただけで、言いしれぬ異物感を感じる。けれどアーヴァイン自身はこんなものではないはず。きっと、もっと、ずっと――――。
だから彼はセルフィの為に、受け入れやすいように解きほぐそうとしていてくれるのだと思う。彼は優しい。こんな時でも、優しいとセルフィは思った。
「続けて、ねっ」
アーヴァインを安心させるように微笑む。
「…ん」
アーヴァインは返事の代わりに、セルフィに優しいキスをした。
そして指の抜き差しをゆっくりと再開する。
痛みこそないけれど、セルフィは痺れたような感覚に襲われた。次第に躰が慣れていくのが分かる。同時に別の感覚が加わっていくのも感じた。やめないでほしい。そんな思いに囚われるような……。
『…あ』
入ってきた時と同じようにずるりとした感覚と共にアーヴァインの指が引き抜かれた。
解放にも似た心持ちでセルフィが大きく呼吸をしていると、アーヴァインの唇は強く肌に口付けをしながら、彼女の臍を過ぎ下腹部へと辿り着こうとしていた。
「ダメっ!」
僅かに上体を起こし涙の浮かんだ瞳で強く訴えられ、アーヴァインは困惑した。今度は指ではなく、唇で愛したいと思った。けれど、セルフィが嫌がるのを無理強いするのは本意ではない。今は彼女の頼みを素直に聞き入れる事にした。
セルフィから少しの間だけ離れて戻ると、アーヴァインは彼女の肌身に残った最後の衣を取り去った。
「セフィ、いい?」
セルフィの太腿の内側にそっと触れて問う。
「…うん」
消え入りそうな声ではあったけれど、セルフィは間を開けず答えると、アーヴァインの首に両腕を回ししがみついた。
アーヴァインは、彼女の脚を広げのし掛かるようにして身体を落とす。早く自分の熱を彼女に昇華して欲しいと思ったが、予想通りセルフィの躰は簡単に受け入れてはくれなかった。
「セフィ、お願い、力を抜いて」
「…ん」
一度深く口づける。耳に吐息が掛かるように囁き、額にキスをする。それを繰り返しているうちに、ふっとセルフィの躰から力が抜けるのを感じ、アーヴァインはぐっと侵入を試みた。
「…っ!」
小さな呻きと共に、苦しげにセルフィの柳眉が寄せられた。
「痛い思いをさせてごめん」
アーヴァインがそう言うと、セルフィは頭(かぶり)を振り、熱く潤んだ瞳が彼に微笑んだ。
「大丈夫、あたしだって女だもん。アービンが大好き――だから……」
もうそれだけで十分だった。その気持ちが嬉しくて、アーヴァインは貪るように口付けた。
「愛してるよ、セフィ」
精一杯の気持ちを込めて囁く。それに応えるようにアーヴァインの首に回された腕に力が籠もる。
きつさはあるものの、セルフィはアーヴァインをゆっくりと受け入れた。
最後まで収めるとセルフィを抱きしめた。そうするとまたいつの間にか強張っていたセルフィの躰から少し力が抜けた。
互いの存在を確かめ合うように、しばらく抱き合ったままでいた。
アーヴァインが少し躰を動かそうとすると、セルフィの内側がピクンと反応した。
「辛い?」
「まだちょっと痛みはあるけど、大丈夫。それよりも、あたしの中にいるアービンがとても温かい。ひとつになるってこういうことなんだね」
セルフィは真上にアーヴァインの顔を見てふわりと笑った。
アーヴァインはその愛らしい笑顔に、更に愛しさが増しセルフィの体内(なか)の、自分自身にまた血が流れ込んでいくのを感じた。
「ホントに温かいね」
笑みを返し口づける。
「動いても、いい?」
限界が近いのを感じた。
「ん…」
セルフィは頷いた。
ゆっくりとアーヴァインが律動を刻む。まだ痛みはあったけれど、動く合間に何度も「愛してるよ」と囁かれる。その言葉に躰と一緒に心も蕩かされ、セルフィに持たらされた感覚は、次第に甘さを秘めた痺れへと変わっていった。
アーヴァインは思っていた通り、いやそれ以上にセルフィからもたらされる快楽に酔いしれた。
強い快感が熱がうねりになって躰を駆け巡る。熱い、熱い、それがどちらの熱なのか、それとも互いの熱なのか判らないまま、溶けてしまうかと思う位に、ただ熱さを感じた。
切れ切れに聞こえるセルフィの切なげで艶やかな声が、快楽の淵に溺れる自分を時折こちらへと引き戻す。けれどそのうち、淵に溺れたまま戻ってこられなくなり、ただ何度も「愛している」とだけ繰り返す。知らぬ間に躰は動きを早め、自分の下で泣くような声を遠くに聞き、時間の感覚など失せ、どれくらい時が経ったのかも分からないまま、アーヴァインは加速度的に高みへと上り詰めた。
アーヴァインがぐったりとセルフィの上に覆い被さったままでいると、彼女の指が汗で顔に張り付いた髪を優しく払ってくれた。
自分はちゃんと彼女を高みへ導く事が出来たんだろうか、彼女を傷つけてはいないだろうか。不安な気持ちでセルフィを見る。ゆっくりとアーヴァインを捉えたそれは、まだ桜色を残したまま少し恥ずかしそうに微笑んでくれた。
『よかった…』
少しの間余韻に浸たり離れがたい思いを残して、アーヴァインはのろりと躰を離した。
「服を着たいから、その間あっち向いてて」
そう言われて、白い肌が隠れてしまうのを残念に思いながら、アーヴァインはセルフィに背を向けた。下着とズボンを身に付けて、セルフィの方に向き直ると、ブラを着けた所だった。慌てて横を向こうとすると、セルフィが「これ…」と言いかけた。
「これ、キスティスとリノアに貰った“可愛い”もの――」
『――あ』
そうだったのか、ぬいぐるみとかじゃなかったんだ。にしても、流石というかすごいタイミングだったんだなと、アーヴァインは思った。
「よく似合ってるよ」
セルフィは少し恥ずかしそうに俯いて、キャミソールのボタンを留めながら「ありがとう」と言った。ボタンを留め終えるのを待ってから、アーヴァインはセルフィを抱き寄せてキスをした。
「今日はもうダメだからね」
釘を刺すよに言う貌がとても可愛らしくて、また脱がせてしまいたくなったけれど、そこはぐっと耐えた。
『“今日は”という事は、明日ならいいのかな』
都合の良い解釈をして、セルフィを抱き締めたままゆっくりと横になる。夏用の薄い上掛けをたぐり寄せ、もう一度キスをした。
「おやすみ、セフィ」
「おやすみ、アービン」
そう言うと、アーヴァインの胸に頬をくっつけるようにしてセルフィは目を閉じた。
『あ、誕生日のお祝い言うの忘れてた』
伝えようとセルフィを見ると、規則正しい寝息が聞こえ、もう夢の中へと入ってしまったようだった。
誕生日はまだ残っている。起きたら伝える事にして、セルフィを抱いて眠れる歓びを噛み締めながら、アーヴァインも心地よい疲れに寄せてくる睡魔に身を委ねた。
※-※-※
「ん…」
誰かが優しく髪を撫でている感触に目が覚めた。まだ眠りの中から戻りきらない瞼を、意志の力で開けてみる。自分の方に向かって微笑んでいる、よく知っている整った貌がセルフィのすぐ間近にあった。
「おはよう、セフィ。大丈夫?」
その言葉に、ものすごい速さで昨夜あったことがセルフィの頭の中を駆け巡った。あまりの恥ずかしさに、身体の向きを変えようとしたけれど、行く手を遮るようにアーヴァインの腕に阻まれる。
「セフィ、誕生日おめでとう」
「あ…」
「もしかして、忘れてた?」
「うん、忘れてた。……ありがとう」
にこにこと笑いながら、もう一度「おめでとう」と言って、セルフィの頬にキスをしてくれた。そして唇にも。止まることを知らないようなキスの雨を受けながら、セルフィは酷く喉が渇いていることに気がついた。
「アービン、ごめん、水が飲みたい」
アーヴァインを優しく制して、ベッドから降りる。
キッチンへ向かう途中、鏡に写った自分に違和感を感じた。数歩下がって鏡を覗き込む。胸元のキャミソールの端から、ひとつ緋色の跡が見えた。
「これって……」
身体にはっきりと残る違和感とこの緋色(しるし)、それは紛れもなくアーヴァインに愛されたという事実を思い起こさせ、セルフィの頬を熱くさせた。
少し前まで変わってしまうことを恐れていた。昨日の自分とは確かに違う。けれど、アーヴァインを好きなことはちっとも変わっていない。アーヴァインも何も変わっていない気がした。それだけで十分だと今は思う。
冷たいミネラルウォーターで喉を潤しながら、「忘れられない誕生日になっちゃったな〜」とセルフィは微苦笑した。
外はとっくに明るくなっている。
かと言ってこのまま起きてしまう気分にもなれない。もう少し眠ることにしようか。まだちょっとアーヴァインにくっついていたい。そう思ってセルフィは再び寝室のドアを開けた。
にっこりと笑うアーヴァインに手を引かれたセルフィには、眠らせて貰えるかどうかはアーヴァイン次第だということはまだ分からなかった。
END