たゆたうような青藍色の君

「セフィによく似た女の子に会ったんだよ。ちっちゃくて可愛かったんだよ〜」
 アーヴァインは任務地での出会いを嬉しそうに話し始めた。
 その女の子は小さい頃のあたしを見ているようだったのだそうだ。
「セフィより大人しい子だったんだけどね。でもホントよく似てたな〜」
「オテンバで悪かったね〜」
 思わず言い返す。

「あれ?」
 普段なら言い訳の一つも言ってくるのに、何も返ってこない。そ〜っとアーヴァインの顔を窺うと眠っちゃってた。あたしの手を握ったままで。
 あたしはその寝顔に、安堵とも溜息ともつかぬ息を吐く。





 月も眠りに落ちた静かな夜。
 たゆたうように緩やかに流れる刻。
 薄闇に包まれたここは、在るものすべてが青藍色に溶ける。





 夜遅く任務から帰ってきて、駐車場までだけど珍しく迎えに行ったりしたら、なんだか疲れた顔をしていた。
「セフィに話したいことたくさんあるんだ」
 静かにそう言った声はやっぱりいつもの任務帰りの陽気さはなく、今夜は一緒にいてあげよう、そう思った。愚痴でも何でも聞くつもりで。アーヴァインはいつもそうしてくれるから。

 なのにもう眠っちゃった。ご希望の膝枕もしないうちに。
「疲れててんな……」
 寝顔からはそんな感じはしないけれど、ベッドに入って数分で寝付いてしまうのはアーヴァインにしては珍しい。
 いつものあたしたちとは逆。そう思うとなんだか笑えてしまう。


「辛いことがあったなら僕にだけは言って」
 いつもアーヴァインはそう言う。そう言うクセに――――。
 あたしはその頬を指でそっと撫でて溜息をつく。

 今も変わらずアーヴァインは優しい。
 そしてこの人の腕の中は心地いい。抜け出すのがイヤになるくらい、ずっとそうしていてほしいと思うくらい。
 でも、そうやって優しさに甘えると、自分がどんどん弱くなっていくような気がして怖い。実際弱くなっているような気がする。
 特にSeeDであることに関しては、自分で乗り越えて行かなくちゃいけないことだと思ってる。風の音が怖くてアーヴァインの所に逃げ込んでくるのとは、ワケがちがう。ちょっとくらいイヤな任務に当たっても、ミスをしてしまったことがあっても。それは自分の問題なのだから、自分で克服しなきゃ意味がない。あたしはそう思う。
 アーヴァインはそれも気に入らないのだと言う。一人で考え込むより相手に話をして、問題を共有して解決なり克服なりしていきたいのだ、と。
 アーヴァインは本当にあたしとは違う考え方をすることが多い。

 けど――――。

 アーヴァインだって、あたしに何でも相談とか打ち明けたりとかしてくれてるワケじゃない。今日のだって目が覚めたら、あたしが訊いても疲れた原因なんかテキトーに濁すか流してしまうに決まってる。
 多分それは、あたしがアーヴァインに言わないでいるのと理由は同じ。
 余計な心配はかけたくない、って思ってるんだと思う。
 アーヴァインは優しいから。呆れるくらい優しいから。

 でも、それって、ちょっと……さびしい。



 あ〜、アーヴァインの気持ちがちょっとわかった。
 黙っていられるより、打ち明けてくれる方が嬉しい。その方が信頼されてる、頼りにされてるって思えるもん。

 そっか〜、“一緒にいる”って、そういうことか〜。

 だったら尚更聞きたい、アーヴァインが感じたこと、思ってること。
「明日はきっちり尋問させてもらうね」
 あたしはアーヴァインの手を握ったまま、隣にもぐり込んで目を閉じた。

大好きな人と同じ刻を共に生きようとするのは、こういう想いも大きな要因の一つですね。
考え方は違えど、相手を思い遣る二人の想いは同じなのです。
『AM 01:24』のちょこっと続き、でした。
(2009.11.15)

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