「セルフィ、森の向こうに住むおばあさんのところまでおつかいに行ってくれないかしら」
セルフィのお母さんイデアは、セルフィの部屋までやって来てそう言いました。
セルフィはとても面白い本を読んでいたところでしたが、おばあさんの住んでいるお家へ行く途中にある森が大好きだったので、喜んでおつかいに行くことにしました。
おばあさんが作ってくれた、ちょっと変わったアップリケのついている赤いフードをつかんで台所へ行くと、お母さんがバスケットに食べ物をつめ込んでいるところでした。
お母さんの作ったおいしいパン。お父さんの作ったワイン。おとなりのウォードさんが作った新鮮なりんごとジャム。それをセルフィに持たせて、フードのひもを結びながら、お母さんはセルフィに気をつけることをいくつか言いました。
より道をしないで行くこと。森の中は道からそれてはいけないこと。知らない人とおしゃべりをしてはいけないこと。
「明るいうちは安全だけれど、暗くなると森は危険ですからね、ちゃんと守るのよ」
そう言っておかあさんは、セルフィを送り出しました。
※-※-※
セルフィは、鼻歌をうたいながら歩きました。
家を出てすぐのところで、近所に住んでいる男の子のゼルと会いました。ゼルに「どこに行くの?」と聞かれたので、「森のむこうのおばあさんちだよ」と答えると、ちょうど自分も木イチゴを森にとりに行くから一緒に行こうと、さそわれました。ゼルは近所でもちょっと元気すぎる男の子として有名でしたが、セルフィはそんなことちっとも気にしていませんでしたので、一緒に行くことにしました。
それにゼルはいろんなことを知っているのです。歩いている途中ゼルは、身ぶり手ぶりをまじえて、近所でおきた小さな事件を、おもしろおかしく話してくれます。おかげでセルフィは、ちっとも退屈せずにすみました。
森に入って少し歩いたところで、木イチゴのある所への分かれ道がありました。セルフィはそこでゼルと別れてひとりになると、また歌をうたいながら歩きました。
「キレイな歌ね」
「なんていう歌かしら」
頭の上のほうから、さえずるような美しい声が聞こえてきました。
セルフィが立ち止まって上を見ると、木の枝に、あざやかな橙色の服に身をつつんだきれいな鳥と、これまたあざやかな青い服に身をつつんだかわいらしい鳥が座っていました。
「もう一度きかせて」
すらりとした脚を組んだ青色の鳥が言いました。
「リノア、名前くらい名乗ったら。私はキスティス、あなたの歌はとてもキレイね」
隣に座っていた橙色の鳥が、優雅にほほえんで言いました。
セルフィはおかあさんのいいつけを思い出しましたが、少しだけならだまっていればわからないと思いました。それよりも、このきれいな鳥さんたちとお話がしてみたかったのです。
「あたしはセルフィ。歌をほめてくれてありがとう。でも急いでいるから少しだけね」
それでいいわと言うように、二羽のきれいな鳥は、うれしそうに羽をばたつかせてうなずきました。
セルフィは言ったとおり、少しだけうたいました。うたい終わると「またね」とあいさつをして、きれいな鳥たちとお別れをしました。
森のまん中あたりまで来ると、自分とはべつの歌声が聞こえました。誰だろうと思って、声のする方へ歩いてみると、変わった恰好をした男の人がうたっていました。派手な上着と帽子には、虹色に光る羽がついています。セルフィはその羽をもっと近くで見てみたくなりました。もうおかあさんのいいつけは、すっかり忘れていました。
「こんにちは」
「おや、これはまた森の妖精さんみたいにカワイイお嬢ちゃん。こんにちは」
男の人は羽のついた帽子を脱ぐと、セルフィににっこり笑いました。
「あたしはセルフィ。おじちゃんは、なにをしてるの? うたう人?」
「お、おじちゃん!?」
そっか〜、まいったな〜と笑いながら、男の人はがっくりとしました。
「オレは、ラグナ。うたうのが仕事ってので合ってるのかな。セルフィちゃんは、吟遊詩人ってわかるか?」
セルフィは聞いたことがあったので、うなずきました。いろんな出来事や国の話を聞かせてくれる旅人のことです。
「お、そうか、知ってるのか〜。オレも有名になったもんだな」
吟遊詩人が有名かどうかは、わかりませんでしたが、セルフィはにこにこと笑うラグナの笑顔は、格好いいな〜と思いました。なのでセルフィもつられて、にこにこと笑いました。
セルフィがにこにこと笑っているのに気をよくしたのか、ラグナはセルフィに異国の話を聞かないかと言ってきました。セルフィは、冒険のような話を聞くのは大好きだったので、よろこんで聞きました。
それから、ラグナはいろんな国の話をしてくれました。本当にたくさんの国の話を聞いたので、セルフィが気がついた時にはずいぶん時間がすぎていました。それに、森の道からもそれていました。
セルフィはもっとラグナの話を聞きたかったのですが、おつかいの途中だったことを思い出し、ラグナにあいさつをして、またもとの道にもどりました。
いつの間にか、森は少しうす暗くなっていました。
セルフィは歩くのを早めました。森は大好きでしたが、暗くなった森は怖いのです。遠くで聞こえる、動物の声もいつもとちがって怖く聞こえるのです。
とつぜん、近くの茂みがガサガサと音をたててゆれました。
セルフィはとても驚きました。その茂みから黒い大きな動物が出てきたのです。
「セルフィか」
黒い動物は、低い声で言いました。
セルフィは知っている相手だと分かって、胸をなで下ろしました。
彼はスコール。この森の番人ならぬ番犬をしていました。額に傷があるので、見た目はちょっと怖いのですが、それでもとてもきれいな顔をしています。こうやって森の中を見回って、森の安全を守っているのです。
「こんな時間に女の子がひとりで森を歩くのは感心しないな。最近この森にオオカミが流れて来たと聞く。セルフィも早く家に帰れ。オオカミに出会いでもしたら危ないぞ」
「うん、ありがとう」
セルフィがお礼を言うと、スコールのすらりとした黒い身体は、またすぐに夕闇の中に消えてしまいました。銀色の耳飾りだけがしばらく光っていましたが、それもすぐに見えなくなりました。
セルフィはまたひとりになりました。オオカミがいるなんて聞いたら、怖くてたまりません。ゼルの話では、オオカミは人も食べると聞いていましたから、とても怖くなりました。セルフィみたいな女の子なんか、きっとペロッと食べてしまうにちがいありません。
セルフィは、おばあさんの家まで急いで走って行こうと思いました。のどがカラカラになるまで走りました。そうして、息が苦しくたまらなくなった頃おばあさんの家に着きました。
ここまで来ればもう安心です。セルフィがコンコンとドアをノックすると、中から「おはいり」とおばあさんのやさしい声がしたので、ドアを開けて家の中へと入りました。
そこでセルフィはとてもびっくりしました。
おばあさんが横になっているベッド脇に、オオカミがいたのです。手を伸ばして、今にもおばあさんに襲いかかろうとしているではありませんか。セルフィはおばあさんが食べられてしまう、と思いました。おばあさんを助けなきゃとも思いました。でも、どうしたことかセルフィの身体は動きませんでした。オオカミは背が高くて大きくて、女の子のセルフィなんかとてもかないそうになかったのです。心臓だけがドキドキと大きな音をたてていました。
ところが聞こえたのは、おばあさんの悲鳴ではなく、やさしい声でした。
「セルフィ、怖がらなくていい。さあ、こっちへ来なさい」
おばあさんがそう言うと、オオカミはおばあさんの身体を支えるようにして起こし、そっとベッドから離れました。
それでもセルフィはまだ怖くて、おそるおそるおばあさんのいるベッドの方へむかうと、オオカミはもっとベッドから離れていきました。
「おばあちゃん、危なくないの?」
「オオカミのことかい?」
セルフィは、オオカミの方は見ないようにしてうなずきました。それでも目のはしっこには、茶色の大きなシッポが見えていました。
「だいじょうぶだよ、このオオカミは悪いオオカミじゃないからね」
「そうなの?」
おばあさんは、どうしてここにオオカミがいるのかセルフィに話してくれました。
昨日おばあさんが、森へコケモモを採りに行った帰りに、水を飲もうとしてあやまって小川の近くで足をすべらせてしまったのです。そのとき腰を強く打ってしまい、動けなくなっているところを、このオオカミに助けられたのだそうです。親切にもオオカミは、おばあさんを家まで送ってくれました。
セルフィはおばあさんの話を聞いて、オオカミは大変だったろうなと思いました。なにしろおばあさんはとても背が高いのです。おとなりのウォードさんより少し低いだけで、本当に背が高いのです。
「お腹がすいていたみたいだからね、私の世話をしてくれるなら食べ物をあげると約束して、ここにいてもらってるんだよ。ひとりだとあのまま死んじゃったかもしれないから、とても感謝しているんだよ」
「そうだったんだ。ありがとう、オオカミさん、おばあちゃんを助けてくれて」
「いいえ」
オオカミは照れくさそうにそれだけ言いました。相変わらずベッドからは離れたところで静かに立っています。背が高いのに、少し背中を丸くしているせいか、ちょっと離れると小さく見えました。
セルフィはなんだか不思議な気持ちがしました。オオカミは人間を食べてしまうような怖い動物だと聞いていましたが、このオオカミはとてもそんな風には見えないのです。口を開ければ大きなキバがあるかもしれませんが、今はそれも見えません。いっこうに襲ってくる気配もありません。じっと立っているだけです。
「あたしはセルフィ、オオカミさん名前は?」
「アーヴァインです」
オオカミはピンと立った茶色の耳をぴくんと動かして答えてくれました。
「りんご食べる?」
「え?」
「おばあちゃんのだから、おばあちゃんがいいって言ったらだけど」
セルフィがベッドのおばあさんの方をむくと、おばあさんはいいよと言うようににこにこと笑っていました。
「どうぞ」
「ありがとう」
セルフィがバスケットから取り出したりんごをアーヴァインの方に差し出すと、アーヴァインはきちんとお礼を言って受け取ってくれました。
「お肉じゃなくてごめんね」
「僕はお肉よりも、りんごが好きなんだ」
やっぱりアーヴァインは不思議なオオカミだと、セルフィは思いました。アーヴァインにイスをすすめて、セルフィもおばあさんの横で、アーヴァインとむかい合うように座って、話をしました。
アーヴァインは犬のスコールが言っていたオオカミのようでした。遠くの森に仲間と住んでいましたが、仲間とちがってアーヴァインは、動物をとって食べるのはあまり好きでなかったのです。なので、いつのまにかアーヴァインは仲間はずれになってしまい、ひとりこの森へやってきたのでした。
「それじゃあ、この森でくらすの?」
「それはまだ決めてないんだ。僕はオオカミだから、怖がられるしね」
アーヴァインは淋しそうな目をしていました。
セルフィが思っていたように、みんなオオカミは怖い動物だと思っています。セルフィはアーヴァインがかわいそうになりました。行くあてもなく、ひとりぼっちで過ごすのは、とてもさびしいことです。自分だったらとても耐えられません。
その時、おばあさんの家のドアが、大きな音をたてて開きました。
あんまり大きな音がしたので、セルフィは手に持っていたりんごを落としてしまいました。
「キロスばあさん無事かっ!?」
ドアのむこうには銃をかまえた大男が立っていました。セルフィもよく知っている猟師のサイファーです。スコールと同じような額に傷のある猟師です。額の傷はクマと格闘してついたのだそうです。見た人の話だと、相手はクマではなく犬だったという話もありますが、セルフィにはどちらでもよい話でした。
「見つけたぜオオカミ、観念しろ!」
サイファーはアーヴァインにむけて銃をかまえました。
「サイファー、だめーっ!」
セルフィは思わずアーヴァインの前に立ちはだかっていました。
「どけ、セルフィ! そいつはオオカミだぞ!」
気の荒いサイファーはセルフィの言うことなんか、聞いてはくれません。サイファーはセルフィ家の近くに住んでいて、いつもはセルフィのことをかわいがってくれますが、こんな時は他の人の言うことは全く聞かないのです。
サイファーは、今にも引き金をひきそうです。それでもセルフィはアーヴァインの前からどきませんでした。アーヴァインは悪いオオカミではありません。殺してしまうのは、とてもかわいそうだと思ったのです。
「サイファー、銃を降ろしてくれないかな」
落ち着いた声は、おばあさんでした。
サイファーはおばあさんの低い声は聞こえたのか、しぶしぶといった感じで銃を降ろしました。
「まったくどこから聞いたのかな? 説明してくれないか」
おばあさんの声はまだ低いままでした。これは怒っている時の声だとセルフィは思いました。
「吟遊詩人のラグナが、ここにオオカミが入っていくのを見たって」
「やっぱりラグナくんか」
おばあさんはまるでラグナのことを、よく知っているような口ぶりでした。
「それは誤解だ。このオオカミは私を助けてくれたんだよ。まったく、あの早とちりの性格は一生直らないのかね」
おばあさんは大袈裟にためいきをつきました。
「なんだそりゃ。じゃあ、コイツは、悪さはしてないのか?」
「そうだと言っているではないか、もの覚えが悪いなキミは」
サイファーはピクッと目をつり上げ、おばあさんをキッとにらみましたが、おばあさんはもっとに鋭い目でにらみ返しました。黒い髪に褐色の肌のおばあさんがにらむと、とても迫力があります。しばらくは火花が見えそうなにらみ合いをしていましたが、サイファーが根負けすると、「悪かったな」とぶっきらぼうに呟いて、おばあさんの家を出ていきました。
サイファーが出ていくと、おばあさんの家はまた静かになりました。
「いろいろありがとうございました。僕はもう出ていきます」
じっとなにかを考えているようだったアーヴァインが、急にお辞儀をしてそう言うと、ドアの方へむかって歩き出しました。
「どこへ行くんだ?」
おばあさんはもう怒っていませんでしたが、声は男の人のように低いままでした。
「ここにいると迷惑がかかります、人のいない森へ行きます」
おばあさんは少し間をおいて「それならこの子を家まで送ってやってくれないか。夜の森は危ない」とアーヴァインに頼みました。
セルフィが窓から外を見ると、すっかり暗くなっていました。
「はい、いいですよ」
アーヴァインは笑ってひきうけました。
「おばあちゃんまた来るね」
セルフィはおばあさんの頬にお別れのキスをして、ドアのところで待っているアーヴァインにかけ寄りました。
※-※-※
「真っ暗だから怖くない? 怖いなら、僕の手をにぎっているといいよ」
セルフィは差し出されたアーヴァインの手をにぎって、森の道を歩きました。
ほとんど真っ暗な森の中は、とても怖いのです。もしアーヴァインがいなければ、セルフィはおばあさんの家に泊めてもらうつもりでした。
そんな暗い道をアーヴァインは、迷いもせずすたすたと進みます。
アーヴァインは背が高く足もセルフィよりずいぶん長いのですが、セルフィは急いで歩く必要はありませんでした。アーヴァインはセルフィの歩く早さに合わせてくれているようでした。そしてとても温かい手をしていました。なのでセルフィはお父さんと手をつないでいる時のように、安心して歩くことができました。
「シッポさわったらダメ?」
歩くとゆらゆらと揺れるアーヴァインのシッポに、セルフィはちょっとさわってみたくなりました。
「いいよ」
「ありがと」
セルフィはそうっとアーヴァインのシッポにさわってみました。はじめてさわったオオカミのシッポは、ウサギよりも硬い毛をしていました。それでもふさふさとした感触はきらいではありません。今度は大きな耳にもさわってみたいと思いましたが、耳はとても高いところにあるので言いませんでした。
「アーヴァインはどこの森から来たの?」
「う〜ん、ここからずいぶん遠い森だよ」
「たくさんの森を通って来たの?」
「そうだね、もう覚えてないくらい、たくさんかな」
セルフィはどんな森を通ったのか聞こうと思いアーヴァインを見上げました。でも、聞けませんでした。少しの間だけ月の光が差しこんで照らされたアーヴァインの瞳が、とてもさびしそうに見えたのです。
セルフィは思い出しました。アーヴァインが生まれた森を離れたのは、仲間はずれになったからだということを。それから、たくさんの森を通ってきたアーヴァインは、今もひとりです。ずっとひとりで、森から森へと旅をしてきたのです。セルフィはアーヴァインに、とてもつらいことを聞いてしまったのだと思いました。
「ごめんね、アーヴァイン」
「ん? なにか言った?」
セルフィをのぞきこんできたアーヴァインは、もうさびしそうな目をしていませんでしたので、セルフィは言い直すことはしませんでした。
それからは手をつないで、だまって歩きました。
「あ、あそこがあたしの家」
いつのまにか森を抜け、小さな丘を横切りセルフィの家の近くまで来ていました。
窓からこぼれる黄色の明かりがとても暖かそうです。
「ただいま」
セルフィは家のドアを開けるとき、いつもより小さな声で言いました。
「おかえりなさい、セルフィ」
おかあさんはセルフィを迎えに出てくると、セルフィとその後ろを見てクスクスと笑っていました。セルフィにはどうしておかあさんが笑っているのか、よくわかりませんでした。家に帰ってくるのが、おかあさんに言いつけられた時間よりずいぶん遅くなってしまったので、もしかしたらしかられるかもしれないと思っていたのです。でも、おかあさんにしかられずにすんで、ちょっとホッとしました。
「おかあさん、このオオカミさんがお家まで送ってくれたの」
セルフィはアーヴァインのことをおかあさんに話しました。
「まあ、あなたがアーヴァインさんなのね」
おかあさんはもうアーヴァインのことを知っていました。セルフィはまた不思議に思いました。
「おかあさん、お願いがあるんだけど」
森の中を歩きながら考えていたことを、セルフィは言ってみようと思いました。
「なあに?」
「アーヴァインね、ひとりぼっちなのね。とってもやさしいオオカミなんだよ。でもひとりでいると、鉄砲でうたれちゃう。ここで一緒に住んじゃだめ?」
「セルフィ、何を言ってるの。僕は、ダメだよ」
アーヴァインはとてもおどろきました。
この女の子は突然なにを言い出すのだろうかと思いました。人間がそんなこと許してくれるはずはないのです。今までもずっとそうでした。オオカミである自分を、こんな風に言ってくれた人間はひとりもいません。セルフィのおかあさんも、きっと怒り出すにちがいないのです。
「そうねえ。セルフィがそうしたいなら、いいわよ」
ところがセルフィのおかあさんは、セルフィの言うことを怒りませんでした。
アーヴァインはまたおどろきました。
セルフィはちょっと変わった女の子だと思っていましたが、セルフィのおかあさんも変わった人のようです。こんなお願いをとても簡単に許してくれたのですから。そう言えば、セルフィのおばあさんはもっと変わっていて、オオカミであるアーヴァインに、動けないからおぶってくれと強引に言ってくるような人でした。それを考えると、セルフィがなぜこんなことを言い出したのか、アーヴァインはわかるような気がしました。
「おばあさんの手紙に書いてあったとおりね」
セルフィのおかあさんは、またクスクスと笑いました。
「おばあちゃんのお手紙?」
「そうよ。セルフィが帰って来るだいぶ前にフクロウが届けてくれたわ。セルフィがお願いしたらきいてやってくれって。とても親切なオオカミさんなんですってね」
セルフィのおかあさんは、アーヴァインの方を見てほほえんでいました。
「アーヴァイン、もうひとりぼっちじゃないよ。よかったね」
アーヴァインは、キツネにつままれたような顔をしていましたが、セルフィに手を引かれて家の中に入って、何を言われたのかようやく気がつきました。
「僕が一緒でもいいの?」
「うん、一緒がいい。その方が楽しいもん」
セルフィはアーヴァインの手をにぎったまま、にこにこと笑ってそう言いました。
数日後、セルフィの家にアーヴァインがいるのを見つけたサイファーは、ものすごくイヤそうな顔をしましたが、もう銃でうとうとしたりはしませんでした。
ひとりぼっちだったオオカミは、新しい家族となかよくくらしました。