CutE !... S

「アービン、おねがいっ!」
 両手を合わせ、ほんっとうに、すっごく、切実そうにお願いされて断れるワケはないんだよ、僕は。
 セフィは、例によってぜんっぜん意図してないんだろうけど、宝石みたいな瞳で下から見上げられる顔に、僕がどれだけ弱いか。本当に、自分でも情けない位、弱いんだよね、コレ。悲しいかな、大好きなんだよ、この時のセフィの顔。
「オッケーだよ、セフィの頼みだもん」
 だから、これ以上はないと言うくらいの笑顔で、軽くオッケーの返事をしてしまいました、ハイ。




 程良く糊のきいた白いワイシャツ、身体に添ったラインの黒のベスト、同じく黒の細身のスラックス、押さえられた光沢の革靴、そしてちょっと幅がある黒のリボンタイを白い小さなブローチで留めて、仕上げに丈が長いタブリエをキュッと締めると、妙に気分もピシッとするから不思議だ。髪も今日は、ワックスを使ったりして整えてからいつものように結んだ。
「意外とイケるかも」
 アーヴァインは、鏡に写った自分の姿をチェックして、まんざらでもない出来に一人悦に入った。
 これなら多分セフィも満足してくれる筈だ、そして頑張って、後は僕の……。そう思った時、インターフォンが鳴った。多分セルフィが迎えに来てくれたんだろうとモニターを見れば、ドアの外にちょこんと立っている可愛らしい姿が見えた。
「アービン、準備出来た〜?」
 いつものようにのんびりとした口調で入って来たセルフィは、きちんと着替えをしていたアーヴァインを見て顔を綻ばせた。
「うわーー、やっぱりアービンは何着ても似合うねー」
「そうかな」
 アーヴァインは、セルフィからの賛辞が嬉しくて、大いに照れた。
「じゃ、行こうか〜」
「セフィは? 着替えないの?」
「え? あたしは裏方だもん、このまんまだよ〜」
「え〜〜〜〜〜」
 アーヴァインは大いにがっかりした。
 確かに、半袖のポロシャツと、チノクロスのショートパンツに、可愛い感じのリストバンドという出で立ちは、ちょっとスポーティでいかにも裏方っぽくて、それもまた似合っていて可愛いと思うけど。話が違うじゃないかっ!!
「あれ? ちゃんと言ったよ、今回はあたし総合責任者だって、だから完全裏方だよ〜」
 そうだったのか。自分が聞き逃していただけなのか。何で聞き逃したのかは分かる。セフィにこの話をされた時、セフィがユニフォームを着た姿を想像して、一人燃え上がっていた。はーーっきり憶えてますとも。
 がっくりと項垂れたアーヴァインを、セルフィはぐいぐい引っ張って、ガーデンの入り口へと向かった。

 ガーデンの門の前には一台のマイクロバスが、エンジンを点けたまま止まっていた。のろのろとしか歩かないアーヴァインを無理矢理バスに押し込んで、セルフィは運転手に出発して下さい、と告げた。
 ゆっくりと、バスが動き出す。アーヴァインが渋々座席に座ったのを確認すると、セルフィはマイクを取った。
「みなさんご苦労様でーす。今日一日頑張りましょーーー! お客さんが多ければ、多いほどみんなへのギャラが増えるよーー!」
 その言葉に、マイクロバスに乗っている者全員が「おーーーっ!」と応えた。




 今日はバラムの街のお祭り。
 ガーデンからも、日頃お世話になっている商店街の皆さんへの、ささやかな感謝という事で、オープンカフェを出店する事になっていた。数回目の参加らしいが、結構評判が良いらしく、ウェイトレスとウェイターの希望者は多かった。生徒達は訓練と勉強漬けの日々で、ガーデン関係者以外の人と触れ合う機会は少ない。なのでここぞとばかりに皆張り切る。これでもかという位張り切る。そしてちゃんと彼氏や彼女が出来たという結果が出た例があるので、また人気が高くなる、という具合だった。そこへ今年は、責任者のセルフィが、よりソロバン勘定を重視して、今まで培った人脈を最大限に活かし、ガーデンでも屈指の人気のメンツを揃えた。どこかで、脅したという噂もあったが、それは噂に過ぎなかった。
「うーーん良い天気! 今日は過去最高の売り上げを目指すよーーー! さあ、準備に取りかかってやー!」
 誰よりも早くマイクロバスから降りたセルフィは、ガシッと腰に手を当て、高らかに宣言した。

「もう、アービンちゃんと歩くー。今日の売り上げの良し悪しは、アービンの働きもすっごい影響するんだからね、しっかり頼むよーー!」
 相変わらず、不満げにノロノロと作業をしているアーヴァインに、セルフィは発破をかけた。
「何がそんなに気にいらへんの?」
 あまりにも、落ち込み振りが酷いので、流石にセルフィも気になった。
「セフィもてっきりウェイトレスするんだと思ってたのに……楽しみにしてたのに」
 恨めしげな眼を向けて、アーヴァインはぼそっと言った。
「だーかーらー、それは……」
 聞き逃したアーヴァインが悪いんだと、もう一度説明しようと思ったら、セルフィを呼ぶ声が聞こえた。
「セルフィ、大変だよ! 女の子が一人体調不良で、ウェイトレスの人数が一人足りない!」
 現場担当者の男子がセルフィの所へ、息を切らせてやって来た。
「そうなん!? うーん、じゃ設営担当の子で誰か出来そうな子はいてない?」
「それがさー、体型の近い子が居ないんだよね、どうしようかセルフィ」
「セルフィがやったらどうなんだ?」
 いつの間にかスコールが横に立っていた。彼もウェイターのユニフォームをビシッと着ている。流石バラムガーデンのカリスマ、もう何を着せても、実に彼らしく着こなす。リーダーとして手腕を発揮している姿も格好良いが、給仕スタイルというのも、かなりイケているらしいという事は一目瞭然だった。少し離れた所から注がれる、女の子の集団のひそひそ声と視線が、彼が動く度にざわめき揺れる。
 セルフィは、その様子を俊敏に感じ取り、スコールを引っ張り出す事に成功した自分を、エライ! と褒め称えた。
「いいかな、セルフィ。お願いしても、セルフィなら体型が近いし、そうしてくれると助かる」
「オッケー、オッケー」
 一人悦に入っていたセルフィには、男子生徒の声は届いていなかった。
「良かった! じゃ、ユニフォームその子から貰って来るよ」
「え?! 何!?」
「宜しくなセルフィ」
 フッと笑い、セルフィの頭をポンポンと撫でて、スコールが去って行った。そして残ったアーヴァインが、キラキラとした瞳でセルフィを見ている。
「あたし、今何て言った?」
「セフィもウェイトレスやるって言ったよ〜ん」
 もう、頭の回りにハートマークが乱舞している様が目に見えるような声音だった。
「え〜〜〜 うそだーー」
「そういう事だ、後の事は副責任者の俺がやっておく。お嬢は気兼ねなくウェイトレスやってこい。その方が更に売り上げが上がる事間違いなしだ」
 腕組みをして、ニヤッと不敵顔のサイファーがいつの間にか傍に立っていた。いつもなら頼もしい事この上ない台詞だが、今日ばかりはその頼もしさをセルフィは恨めしく思った。
「分かったよ〜、ウェイトレスやるよ。けど、サイファー! キスティスに言い寄る男がいても、あたし助けてあげないからねっ!」
 セルフィは、ビシィッとサイファーの鼻先に人差し指を突き立てた。セルフィの言葉に一瞬、ぐっと喉を詰まらせたが「リストに追加するまでだ」と、一笑に付してサイファーは持ち場へ戻って行った。
「セルフィ、そろそろ準備終わるぞ〜」
 設営責任者のゼルの、元気な声が聞こえた。
「ほら、セフィ早く着替えないと、お客さん来ちゃうよ〜」
「分かったよ!」
 ぐっと拳を握って、アーヴァインを睨んでから、さっきの男子生徒がこちらに向かっているのを見て、セルフィは歩き出した。




「う〜ん、何かすかすかする〜」
 薄く柔らかい素材のオフホワイトのブラウス。ギャザーの取られた胸元と半袖パフスリーブの袖口はゴムできゅっと締められている。胸の直ぐ下から、身体にぴったりとしたハイウエストの、裾が少し広がったえんじ色のミニスカート。エプロンは、胸当てのない小さな円形タイプ、後ろで結ぶと紐の幅が広いので、リボンのようにも見える。後は好みに合わせて二種類のスタイルが用意されていた。一種類はストッキングと黒のパンプス。もう一種類は、白のニーハイソックスとちょっとかかとのある黒のストラップシューズ、爪先が丸いデザインで可愛らしい。
 セルフィに渡されたのは、後者の方だった。ニーハイソックスと靴は別にいいが、問題はブラウスの胸元が意外と開いていた事と、ウエストにぴったりとしたスカートのハイウエストの部分が、その胸を妙に強調する事。普段こんな服を着ることは余りないので、落ち着かないというか、気恥ずかしいというか……。男性ウケが良いからと、自分でこのデザインを選んだ事をセルフィは本当に後悔した。
 チラッと鏡で見てみると、更に驚いた。豊かで困るという程のものではないが、それなりにあるように見えるのは、喜ぶべきか悲しむべきか……。
「う〜ん Cってこんなもん?」
 ちょっと前まではBだった。更にもうちょっと前はAがちょっとキツイかなという位だった。それがいつの間にか、Bがきつくなっていた。今頃成長期なのかと不思議に思ったが、人に相談するような事でもないので、試しにCにしてみたら、若干余裕はあったけどBよりはしっくりした。

「セルフィーー! カワイイーー!」
「リノア!」
 リノアがセルフィを後ろから、ぎゅう〜っと抱き締めていた。
「セルフィ、似合うねそういう格好。カワイイよー、食べちゃいたい! おおっ胸もやわらか〜い」
「ちょっ リーノーア〜」
 抱きついたまま、リノアはセルフィの胸を手でぎゅむ〜と触った。
「アレ? セルフィ、胸大きくなった?」
「うーん うん、ちょっとだけ」
「そっか〜 愛されてるね、セルフィ」
「なんで?」
「何でもない、さ、開店だよ〜。ウェイトレスさんはトレイを持って持ち場へゴー!」
 リノアはにこにこ顔で、セルフィにトレイを持たせ、丸いテーブルと椅子の並ぶ方へ、トンッと背中を押した。
「厨房の事はまかせてねー」
 その声を後ろに聞きながら、セルフィは新しい持ち場へと向かった。

「セフィ〜」
『でた……』
 すかさず気の抜けるような甘ったるい声が聞こえた。その主に背を向けて、小さく息を吐く。
「セフィ、可愛いっ! やっぱり良く似合ってるよ〜」
「あ、ありがと」
 にこにことした笑顔で臆面もなく言うアーヴァインの言葉に、セルフィはちょっと頬が熱くなった。褒められて嬉しくない、なんて事はない、例えアーヴァインの目には、セルフィ三割り増しフィルターが掛かっているとしても、やっぱり褒められると嬉しい。
「あら、セルフィもウェイトレスなの、可愛いわね〜。アーヴァイン、気をつけなさいよ」
 女性らしい見事な曲線を描くウェイトレスとなったキスティスが、トレイを持ってセルフィの横に並んだ。セルフィが着ると可愛らしい印象のスタイルも、ストッキングとパンプスという組み合わせになるだけで、セクシーにも見えるのだという事を、キスティスは身を持って表わしていた。
「なんで?」
 アーヴァインはセルフィの頭越しにキスティスに聞いた。キスティスはセルフィに気付かれないよう、視線だけを動かしてアーヴァインに答えた。キスティスの視線を辿った先には、なにやら動きの妖しげな濃い〜男の集団が見えた。アーヴァインは、セルフィのウェイトレス姿にすっかり舞い上がっていたが、ウェイトレスをやるという事は、ああいう連中を相手に接客をする事だというのをすっかり忘れていた。
『セフィに近寄らせてなるものか!』
 鼻息も荒く、セルフィ護衛作戦をぐっと握った拳に誓う。
「そろそろ、開店か」
 トレイを持ったスコールがアーヴァインの横に並んで立った。
 すると、少し離れた所の植え込みが、ざわめきザザッと揺れた。
「それでは、ガーデンカフェオープンでーす」
 可愛らしい女の子の声で、忙しい一日が幕を開けた。



「何、この殺人的忙しさ!」
「ちょっと、アイスカフォオレまだ出来てないの〜!?」
「注文間に合わないよ〜」
「誰か、レタス持って来てーー」
「文句言ってないでキリキリ働けー!」
 裏方はもう戦場だった。
 余りの忙しさに、普段厳しい訓練を積んだ強者も、油断すると倒れかける程だった。それでも一人も欠ける事なく皆自分の仕事を必死でこなした。それはひとえに鬼の副責任者の、無言の熱い愛情のお陰だった。倒れかける者が出ればすかさず助け起こし、その恐ろしい程の鋭さと冷徹な瞳で一睨みすれば、皆素晴らしい勢いで体力が回復した。その様子を目の当たりにした者は、あまりの強力な効果に、サイファーは魔女ならぬ魔男(まだん)なのではないかと囁き合った。
 表の方も、似た様な有り様だった。
 客足は一時たりとも絶える事なく、むしろ時間を追う毎に行列が長くなった。急遽列整理に回ったゼルが、言うことを聞かない客に、何度もキレかかっていた。
 カフェのウェイトレスもウェイターも休む暇など一切無かった。皆注文を取っては運び、取っては運びの繰り返し。また、わざわざスコールを指名する女性客が多かったのは言うまでもないが、アーヴァインも似た様な状況だった。セルフィの護衛をする所ではない。客をさばくのだけで精一杯。セルフィもキスティスも客に向ける笑顔を絶やす事なく、実に見事に立ち回った。だが、アーヴァインは、仕事よりもセルフィの事で頭がいっぱいで、油断すると手を握られていたり、シャツやタブリエを引っ張られていたりと、閉店時間の頃にはボロ雑巾のようだった。
「なんだコレ、まだモンスター相手にバトルってる方がマシだ」
 最後の客が帰った後、誰かが言った言葉に参加者一同激しく頷いた。そして何人かが、その場にぶっ倒れた。それでも何とか疲れた身体に鞭打ち、全員で片付けを行いマイクロバスに乗り込むと、途端に皆泥のように睡眠を貪った、セルフィ一人を除いては。
 セルフィは一人電卓を叩いていた、今日の売り上げと諸経費を引いて、各人へのギャラを計算する。みんな本当によく頑張った。せめて解散前に、ギャラの金額を伝えれば、少しは労いになるんじゃないだろうか、そんな思いで電卓を叩いていた。計算を終えて、その額に驚いた。身を粉にして働いた甲斐があった。SeeDの給料とまではいかないが、二、三泊の旅行なら有に行けそうだった。
 ガーデンに戻り、みんなにその事を報告すると、それまで疲労で淀んでいた目が、一気にキラキラと輝き、これから遊びに繰り出そうという者までいた。
「みんなゲンキンやな〜」
 そう思いながら、セルフィも妙に疲れが何処かへ飛んだような感じがした。
「お疲れ〜」
 皆とは別れ、セルフィは一人、今日の報告をする為にシドの所へ向かった。

「そうですか、大盛況だったんですね。私も行かれなかったのが残念です。来年は是非、スタッフで参加したいものです」
 シドは、いつものように優しい笑顔でそう言ってくれた。
 学園長室を退室して、寮へ向かっている時セルフィは、はたとある事に気が付いた。さっきまであった筈の自分のバッグがない。マイクロバスから降りるまでは確かにあった。とすると、降りる時に誰かが間違えて持って行ってしまったんだ。そんなにマズイものは入っていないが、自室のカードキーがバッグの中にはあった。朝着ていた服のポケットの中にそのまま入れっ放しになっていた。
 寮の管理室に行ってみたが、生憎とマスターキーは破損していて、新しいのを作成中だという事だった。何てタイミングの悪い。仕方がない、取り敢えず今日は、リノアかキスティスの部屋にお世話になろうと、セルフィは二人の部屋へ足を運んだ。
「ど〜して〜」
 更についてない事に、二人共不在。唯一持っていた携帯電話で、彼女たちに連絡を取る事は出来たが、何故不在なのか理由を考えた時、電話を掛けるのはやめといた方がいいとセルフィは思った。
「となると……」
 はあ、大きく溜息が漏れた。
 早くお風呂に入って眠りたかったのに……。セルフィは唯一残った、最も泊まれる可能性の高い所へ向かった。最初から、此処に来れば良かったんだろうけど、なんだかそれも照れくさいというか、なんというか……。
 セルフィは部屋の前で深呼吸をして、インターフォンを押した。けれど、応答は無かった。
「もう寝たかな……」
 残念なようなホッとしたような、残念なような、複雑な気分だった。
 ガーデンに帰ってから、もう小一時間程経っている。とっくにシャワーを終えて眠っていても不思議ではない。もう一度押して出て来なかったら、カドワキ先生にでも頼もう、そう思った時シュンッとドアが開いた。
「セフィ、いらっしゃい。今日は来ないかな〜と思ってた」
 首にタオルを掛けて、髪から雫を零しながら、アーヴァインが立っていた。
「そのつもりだったんだけど、カードキーが無くて自分の部屋に入れなくて。で……」
「で?」
「で、泊めてくれないかな〜って」
 笑ったつもりだったけど、思いっきり引きつり笑いになってしまったのが、自分でも分かった。
「どうぞ〜」
 にこにこと嬉しげに、アーヴァインはセルフィの腕を引っ張って招き入れた。



※-※-※



 ゴーという音と共に、優しい指が髪をわさわさと揺らす。
「シャツ着なくてもいいのに」
「いーやだよっ」
 アーヴァインにドライヤーで髪を乾かされながら、セルフィは声を上げた。下着は上下ともランドリーに突っ込んだ。シャツがないとひっじょーーに困る。
「すぐ脱ぐのに〜」
「アービン!」
 まずい、余計な事を言ってしまった。
「自分だって着てるじゃないの〜」
「これはセフィが着ろって言ったんでしょ、僕は別によかったのに」
「う゛〜〜」
 そう言うとセルフィの上は大人しく髪を乾かされていた。
「ハイ、おしまい」
「つぎ、アービンね」
 セルフィはアーヴァインを椅子に座らせて、ドライヤーを受け取り、彼の髪を乾かし始めた。
 セルフィはアーヴァインの髪に触れるのが好きだった。くせっ毛で柔らかくて、自分よりも長くて弄り甲斐があった。
「セフィ、三つ編みとかポニーテールは今日はなしだよ」
「え〜」
「今度ね」
 不満そうなセルフィの声に、やっぱりかと、アーヴァインは苦笑した。
「のど乾かない?」
 肩の上に顎を乗せ、セルフィのちょっと鼻に掛かった声がした。
「あ〜 そうだね」




『きゃーー、セフィ、君はまたかいっ!』
 風呂上がりで、喉が渇いたというセルフィの為に、アーヴァインがミネラルウォーターを持ってキッチンから戻って来ると、それが欲しいと言った当の本人は、ソファにパタンと倒れるようにして目を閉じていた。どうしてこう直ぐに眠ってしまうのか、本能に忠実なのが実に羨ましくもあり恨めしい。しかも今日は、自分のシャツを着て寝転がっているのがまた……。
 ひとつ大きな溜息をついて、疲れているであろうセルフィを、寝かしておく事はせず彼女に話しかけた。
「セフィ、水いらないの?」
「う〜ん、いる」
「じゃ、起きて」
 セルフィは寝ぼけ眼でのろりと起きあがると、アーヴァインからグラスを受け取りコクコクと飲み干した。そして空になったグラスをぐいんとアーヴァインに差し出す。アーヴァインがグラスを受け取っても、セルフィはまだ腕を伸ばしたままだった。それどろかもう片方もアーヴァインに向けて伸ばした。
「アービン、お願いします」
 また目を閉じてそう言った顔は、仄かに口元が微笑んでいた。
 アーヴァインはその意図がよく分からなかった。でも、この腕をどうしたいかは分かっていた。
「かしこまりました、姫」




 次の日、アーヴァインの部屋の中で、セルフィが自分のバッグを見つけて、アーヴァインが大目玉をくらったのは、また別の話。


またですが、R用の話を切って、こっちへも持ってきました。丁度良い具合に前半は、表向きだったので。
この話は、Rの方でリクエストを頂いて書いた作品です。
ビバ、魔男サイファー!
リノアとキスティスはD以上だと思います!キリッ

本編に入れ損ねてたので、補足。
セルフィのバッグをアーヴァインが持っていたのは、わざとではなく、セルフィが忘れていったのを、『アーヴァインが預かった』のですが……。それを、ちょっと利用してしまったのは事実なので、アーヴァインはセルフィにきっちり叱られましたv
(2008.03.18)

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