僕は、いつものように溜息をついた。
確かに今日は、小春日和でぽかぽかとしていて、この昼下がりは昼寝にもってこいだと思います。
うん、思うよ〜。でもさ、それは“いま”じゃなくてもいいんじゃないかな〜。僕は、ちゃ〜んと大人しくセフィのこと待ってたんだよ。仕事のジャマをしないように、けなげにも自分の部屋で待ってたんだよ。
だから「アービンお待たせ〜」ってセフィが僕の部屋に飛び込んできた時はほんとうに嬉しくて、つい思いっきりじゃれついてくすぐったがられたりしたよ。
そして、セフィのために用意したカップケーキと、これまたセフィが飲みたいと言ってたお茶を用意してキッチンから戻ってみれば……例によって例の如く、セフィはソファでこてんと眠ってました。
おしまい。
いやいやいやいいや、おしまいじゃなくて。それじゃあんまり僕が可哀相だって。
僕はセフィの可愛い寝顔に、もう一度溜息をつく。
そりゃ知ってるよ。セフィ、ここんとこ忙しくて、ちょっと睡眠不足だったよね。だから僕もセフィにまとわりつくのは自粛してたんだよ。
「セフィ知ってる?」
ソファで気持ちよさそうに眠っているセフィに問いかけてみたけれど、返事は返って来ない。当たり前か。
僕はお茶を諦めて、トレイを脇のテーブルに置くと、ブランケットを持ってこようと立ち上がった。その時、セフィが小さくくしゃみをした。暖房こそ入れてないけれど、この部屋の中は暖かい。このままソファで寝ても風邪をひいたりすることはない。
「よいしょっと」
それでも僕は、セフィをベッドへ運ぶことを選んだ。我ながら過保護すぎると思うけど、いいんだよ。ソファで寝ると時々身体がギシギシになるし、ちゃんと眠るならベッドが一番だ。
「おやすみね、セフィ」
セフィをベッドに寝かせ上掛けをかけてあげる。そうするといい体勢を探るかのように身じろぎをした。動かされてひょっとしたら起きてくれるかなと、ちょっと期待したけれど全くそんな気配はない。
このまま部屋を出ていくのもなんか癪だな〜。
僕はベッドの上に腕をついて、セフィの寝顔を観察することにした。
セフィは起きていても寝ていても可愛いです。
眠っている時はちょっと神秘的でドキドキします。睫はくるんと綺麗な半円のカーブを描いて、目を閉じていても好奇心のアンテナみたいだ。太くはないけれど意志の強そうな眉、小さめですっと通った鼻もそうだ。そんな中で柔らかい唇だけが、愛らしさに加えて色っぽさを振りまく。ついそれに触れたくなる。
そう思っている男は僕だけじゃない。でも触れていいのは僕だけだ。
僕はセフィに手を伸ばした。唇に触れたいのを我慢して、そっと指先で頬に触れる。――――柔らかい。
セフィの肌は、触れると気持ちがいい。自分よりも肌理が細かく、色も白い。肌の色が薄い分、その奥の血が透けてピンク色に染まりやすい。そんなこと言うと思いっきり嫌がられるので、言わないけど。というか言えない。「いつそんなのを見たん?」と聞かれたら、答えに困る。
本当は、――――本当は、答えを言って照れるセフィを見てみたいけど。ずっと困らせてみたいとか思ってるけど、言えない、出来ないんだよね、僕って。ははははは……。
僕は、三度目の溜息を吐いてセフィから手を離し、隣にごろんと寝転がった。
隣に僕がいようが、じっと見つめていようが、おかまいなしにセフィは眠り続けている。
ふと、セフィがふわっと微笑って、唇が何かを呟いた。
「――――、――」
え、え!? 今、僕の名前呼んだ?? 呼んだよね。ねっ、ねっ、聞き間違いじゃないよね。
うわー、うわー、もう一回呼んでくれないかな。ねー、セフィってば。
僕の夢を見ているのなら、起きて。僕はここにいるから。実物がここにいるから。
「セフィ、起きて」
僕はセフィにキスをした。
起こしてしまった後、叱られるのか、許してくれるのか、全然わからないけど。
そのキラッキラな瞳と笑顔を僕に見せてよ。
だから、僕はセフィにキスをする――――。
2009.10.12〜
アービンわんこに自重はムリです。
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