可愛いって言われたんだよね、小さい頃。
ふわっとウェーブの掛かった髪が可愛いわね、って僕たちを慈しんでくれた女性(ひと)が。
それと、もっと重要なのは、大好きな女の子が、僕の髪が好きだって言ってくれた。
『ふわふわでやわやわだ〜』
嬉しそうに言ってくれたのが、すごく嬉しかった。でもその子とは直ぐに離ればなれになっちゃって……。
それから僕も、ガルバディアに行く事になって。そこでもまた、ふわんとした髪が可愛いね、って言ってくれた人がいた。ホント、それも嬉しかった。でも、やっぱり一番嬉しかったのは、あの子が言ってくれた言葉だった。
だから、あの子との思い出が消えるのが怖くて、髪を切ってしまうと思い出まで消えて無くなりそうで、どうしても髪を切るのがイヤだと駄々をこねた。
今思うと、困ったような顔をした養母(かあ)さんに、すごく悪い事をしたような気がして、それ以来わがままはあんまり言わなくなった、かな。
「分かったから、これで結んでおきなさい」
と、僕の髪を括ってくれたのは養母さんだった。それ以来かな、この長さで固定しちゃったのは。ごくたま〜に「髪の長い男なんて変なヤツ」とか言われたけど、そういう時は養母さんが「関係ない!」って逆に怒ってくれたりして、嬉しかった。
養母さん大好きだった。
ガルバディアガーデンに入ってからは、この髪型が妙に女の子受けが良かった。変な気分だった。
「似合うよ」
と言って貰えたのは嬉しかったけど、なんていうのか、そういうつもりは無かったから。あれかな、テンガロンハットとの相性が良かった、ってトコかな。で、いつの間にか、テンガロンハットと長髪がトレードマークになった。
“自分を創り出す”っていう意味では役に立ったと思うけどね。結構それで、本心を誤魔化す事が出来たっていうか、目線をずらせる事が出来たっていうか。この辺は、解って貰えなくていいや。僕だけが知っていれば良いことだから。
奇跡的に、『ふわふわでやわやわだ〜』って言ってくれた子に再会したけど、その子そんな事以前に自分の事も綺麗さっぱり忘れていて、あまりにもショックで、お星様になりたい、とか思ったな〜。自分でも情けない位、今でもだけど小心者だと思う。
そして、その子の事が、やっぱりもの凄く好きだと自覚した。
再会出来たんだから、僕の当初の願いは叶ったという事になる。だから、もう髪を伸ばしてる必要も無かったんだけどね。今度は、想いが通じるまでの願掛けにしよう、とか思っちゃって――――。
この願いばかりは、もうホント絶対無理なんじゃないかと何度思ったか。あの子に会えない年月の方が遙かに長かったのに、あまりの鈍さに無謀な願いなんじゃないかと、何度も打ちのめされたよ。
そして――――。
こうやって、僕だけが見ることの出来るあの子の領域を手に入れたけど、相変わらず長髪のまま。
だってさ〜、僕に甘えるとき、大抵髪を引っ張ってくるんだよ、あの子。これって、かなり――――だよね、そう思わない?
絶対、切るの勿体ないって!
表向き髪を切らない理由は、ウェーブが気に入ってるから切らないって事にしてあるけど、真実はそういったトコ。もちろんあの子も、ウェーブが気に入ってるから切らないんだと思ってるけどね。
――アービンの髪、ふわふわでやわやわだ〜――
2008.04.27〜
アーヴァイン好きのあなたに10のお題 より 002 ウェーブ
|