「アレ、放って来たけどいいのか…」
「じゃあ、ゼルはあそこに入れた?」
「うーん、それ言われるとなー」
丸いテーブルに肘をついて、ゼルはバツが悪そうに少し頭を掻いた。
空気を読むのは苦手だけど、鈍いという訳ではないんだ。
何故ゼルが三つ編みちゃんとお付き合い出来る事になったのか、リノアは不思議に思っていたが、何となくその理由が分かった気がした。
『まぁ、それなりに優しい所はあるし。手先は器用だしね』
手先が器用なのは、人付き合いにはあまり関係ないと思われるが、そういう細かい所はリノアもまた無頓着だった。
「もう安心みたいだし、私達は後からゆっくり会いに行けばいいわ」
香ばしい香りの立ち上るコーヒーカップに口を付けながら、キスティスはいつものように落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
エスタに着く前は、まだアーヴァインの容態に変化無しとの情報が最新で、助かるのか助からないのか、不安な思いのまま医療センターに到着した一行だった。そんな気持ちを抱えて到着したアーヴァインの病室で、飛び込んできた光景は……。
少々呆れるというか、タイミングが悪すぎたというか、ゼルすら何も突っ込めなかった位だった。
「だよね〜、今は二人きりにしとていてあげたいよね〜」
温かいココアに口を付ける事もせず、リノアは組んだ手の上に顎を乗せ、にこにこと言うよりにやにやと何か妄想に耽っている風だった。
「あいつら俺たちに気が付いてたんだろうか」
誰に言うでもなく、ぼそりとゼルが呟いた。
「気が付いてない! に一票!」
「私も、リノアに同じく」
「……」
「……」
「……」
暫し、少し離れた所に置いてある自動販売機の稼働音と、ゼルがミルラルウォーターをごくんと飲み込む音だけが、三人の居る空間を流れた。
「ここにいたのか」
「スコール、ドクターとの話は終わったの?」
「ああ」
リノアの隣に腰を降ろしながら、スコールは話を始めた。
ドクターの話によると、アーヴァインは危険な状態は脱したとの事だった。副作用等の症状はまだ現れていないが、懸念が去った訳ではなく今後も慎重に経過を見る必要がある。
だが、このまま順調にいけば、一ヶ月程度でバラムへ移る事が出来るだろうとの事だった。
「何はともあれ良かったわ」
「全くだぜ、でないとまたリノアが暴れてたんじゃねーかと思うと、ホント良かった」
「ゼル!! 友達を心配して何が悪いのよーー!」
「悪くはないが、自分の事も大事にして貰わないと、こっちが……」
「スコーールーー!」
言いかけた途中でいきなりリノアに抱きつかれ、続きは深い溜息に飲み込まれてしまった。
「そろそろ、アーヴァインの所に行かない?」
キスティスの言葉に、仲間達は漸く何のために此処に来たのかを思い出した。
初出 2007.11.06
「いくつ季節を過ぎても…11」のスコール達視点の話でした。アーヴァインが目を覚ました直ぐ後、彼らも到着してました。アーヴァインとセルフィは、ちっとも気が付いてません。
|