ロリポップは腕の中

 薄暗くなりかけていた通路にパッと照明が灯って明るくなった。その中を急ぎ足で歩きながら、セルフィは受信したばかりのケータイメールを開いた。
「セルフィ先輩!」
 メールを開くとほぼ同時に自分を呼ぶ声が聞こえる。声の方に視線を向けると、SeeD候補生の制服を着た少年がセルフィの方に駆け寄って来ているのが見えた。
「誰だっけ」
 顔は見たことがあったが、すぐには名前が出てこない。
「よかった、ここで会えて。訊きたいことがあったんですよぉ〜」
「……ジョシュア、だったかな〜?」
 甘えた感じの喋り方とはちぐはぐな薄いブルーの鋭い瞳を間近で見て、セルフィはやっと名前を思い出した。
「もしかして、忘れてたんですか? クヤシイなぁ」
 ちょっと長めの薄茶の髪をさらりと掻き上げてジョシュアは残念そうに笑っていた。
「ま、それはいいや。この前教えてもらった実技で、どうしてもコツが分らないところがあってちょっとお訊きしたいんですが、いいですかぁ〜? できたら、夕食でも食べながら」
 ほんのちょっと前とは打って変わって、にこにことジョシュアはセルフィを見ている。ゼルよりもすこし高い位置にあるペールブルーの瞳と一瞬交錯し、セルフィはすぐに視線を外した。
「あ、ごめん。この前はただのアシスタントで指導の手伝いをしただけだから、そういうのは担当教官に聞いてくれるかな」
「う〜ん、それは分ってるんですが、俺はセルフィ先輩の指導の方が分かり易かったんですよねぇ〜。すこしだけでいいんだけど、ダメですか〜?」
「悪いけど、今急いでるんだよね。エスタから来てるラグナロクの技術者さん達、あと2時間で帰っちゃうんだ。だから、ごめんね」
「じゃあ、その後で」
 その後でとか言われても困る。その後の時間には、私的だけれど大切な用事があるのだ。この少年の熱心さにはすこし悪いかなとも思うけれど、本当に彼の担当教官でもなければ、誰かみたいにお人好しでもない。
「ごめんね、ホント急いでるの」
 ジョシュアの薄いブルーの瞳はじっとセルフィを見据えていて、妙に背中がむずむずする。何故だろうと思ったら、最初の立ち位置からいつの間にか距離を詰められていることに気がついた。それに、行く手を遮るように目の前に立たれ、なかなか引き下がってくれそうにない雰囲気を感じ、それだけ言うとセルフィは彼の横をすり抜けるようにしてその場を後にした。
 あの場からある程度離れて、ふと後ろを振り返る。ジョシュアが付いて来ていやしないかと思ったのだ。その姿も気配もなく、安堵する、と共に、なんて自意識過剰なんだろうと苦笑してしまった。そんなことあるはずがない。キスティスならいざ知らず、自分に好意を寄せる物好きな男の子がいるなんて。
「アービンみたいな視線なんやもん、勘違いするとこやった」
 背中がむずむずした理由がちょっと解った。アーヴァインのある種の視線を思わせるものがあったのだ。けれどペールブルーの瞳の奥にちらと見えた鋭い光はアーヴァインとは違って、セルフィにとっては心地良いものではなかった。だからジョシュアから離れたい、そう思った。
「あ、アービンのメール」
 格納庫へと足を向けながら、アーヴァインからのメールをまだ読んでいなかったことを思い出す。
「8時ってことはあと2時間位で帰ってくるねんな、りょーかい、っと」
 帰ってきたら電話してと、簡単な返信メールを送ると、セルフィは格納庫の奥に見え始めた真紅の機体に向かって駆けた。

 大好きな飛空艇ラグナロク。
 その機体にすこしでも関わっていたくて、定期メンテナンスの為にエスタから来ている技術者さんに教えを請うチャンスを得た。こんな機会逃してなるものか。それと今日は、この前アーヴァインとの夕食を守れなかった穴埋めの約束がある。それをまたすっぽかすと、次はとても厄介なことになる。
 だから、悪いけど、今は候補生の男の子に割ける時間はないのだ。
 セルフィはそう言い聞かせて、ラグナロクのタラップを駆け上がった。




「後は、片付けておきます」
「一人だと時間がかかるよ」
「大丈夫です、もう外装パネルだけですから」
 すまなそうな顔をしたエスタの技術者に、セルフィは笑顔で答えた。
「それに、もう予定の時間も過ぎてます」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「ありがとうございました。お気をつけて〜」
 乗降口へと向かう技術者に手を振って別れを告げ、セルフィはまた作業の続きに戻った。
 ソフトウェアの更新と消耗部品の交換が終了したのは、予定の時間をすこし過ぎた頃だった。技術者さんが気を遣ってセルフィにも細かく教えながら作業をしてくれたので、時間がかかったのだ。整備担当者ではないけれど、ラグナロクが好きなセルフィにとってはとても有意義な時間だったが、教える側は面倒なことだっただろう。後は、外した外装パネルを元に戻すだけだ。確かにビス止めの箇所が多くて時間はかかるが、単純な作業でセルフィには苦なことでも何でもなかった。
「お腹空いたな〜」
 一人になって夜も8時を過ぎていることに気がつく。夕食はアーヴァインが帰って来たら一緒に食べようと思っていたのでまだだった。
「何かないかな〜」
 ポケットをごそごそすると何かが手に引っ掛かった。
「あ、ロリポップだ。ラッキー」
 ポケットの中には、さくらんぼ味のロリポップが一つ。飴だからお腹の足しにはならないかもだけれど、その甘さで充分空腹を癒せる。セルフィは包み紙を開いてパクッと口に含んだ。
「ん、れんわ、ら」
 携帯電話が鳴った。クルクルとドライバーを回していた手を止めて、ポケットから携帯電話を取り出す。
「アービン、お帰り〜。――今ラグナロク。もうすぐ終わるよ〜。――わ、ホントに〜? ありがと。ねっ、こっち来る、来る〜? 場所はね〜、乗降口上がって左の通路に入って、また左の奥のちっこい部屋。――ん、じゃ、待ってるね。……あ、ちゃんとアービンのことも待ってるよ〜」
 セルフィはアーヴァインの機嫌を損ねないように言葉を付け加えてから電話を切った。
「あぶない、あぶない」
 携帯電話をスカートのポケットにしまい、作業で火照った身体を冷ますためにSeeD服の上着を脱いで息を吐く。
 バラムの街に出掛けていたアーヴァインは、気を利かせてセルフィにデザート類を買ってきてくれたらしい。さすが自分のことをよく解ってくれているとセルフィは嬉しくなった。それを告げて電話を切ろうとした間際、思い出したのだ。デザートに“だけ”気を取られてアーヴァインのことをないがしろにした時、後からこっ恥ずかしい内容の質問攻めにされたことを。
 どうしてああも甘ったるくて恥ずかしい言葉をスラスラと言うのか。ある時キスティスとリノアがいるところで愚痴をこぼしたら、リノアもキスティスさえも異口同音に「大抵の女の子は嬉しいものだ」と逆に言い返された。その後「セルフィ相手だから、特にね」とどこか苦みの含んだ笑みを向けられたのはちょっと釈然としなかった。
 セルフィだとて嬉しいという気持ちはある。けれどそういう時、嬉しいという思いはすぐに羞恥に取って代わって、そのうちアーヴァインの声を聞いているだけで頭がクラクラし始めるのだ。大体そういう時の声もヤバイ。柔らかでいて、ふわっと無防備な身体の奥に流れ込んでくるような――――。
「思い出したら、また熱くなった」
 セルフィはぽわ〜となった顔にパタパタと手で扇いで風を送った後ドライバーを手に取り、「よし」と気を取り直し外装パネルの取り付けの続きを始めた。
 ビスを何個か留めた頃、硬質の床に響く足音が聞こえてきた。
「ウワサをすればなんとやら」
 そう思うとすぐ「セフィ〜、いる〜?」と陽気な声がした。
「いるよ〜」
 セルフィが何でもない声で軽く返事をすると、シュンとドアが開いて予想通りアーヴァインが入って来る。
「あ、ドア開けといて」
「んん? ……わかった」
「作業しててちょっと暑くなってん」
 何故? と問いかけるような顔をしたアーヴァインにセルフィはドライバーを振って答えた。
「カップケーキ持ってきたよ、休憩がてら……と思ったんだけど、後にする?」
 唇の端から覗いているロリポップの小さなスティックがに気がついたのだろう、アーヴァインの語尾は遠慮しているかのように小さくなった。
「あ、コレもう終わりだから、食べる、食べる。お腹空いてたんだ、ありがとね〜」
 残りの作業もすこしで、それが終わってからにしようかと思ったけれど、アーヴァインの持っている可愛らしい紙袋が横目に見えて、セルフィはつい誘惑に負けてしまった。
「うわ〜、ちっちゃくてかわいい〜。これならポロポロ落とさずにすむし、ん〜、おいし〜」
 アーヴァインが取り出してくれたカップケーキはセルフィが知っているものより小さなもので、一口でポンと口に入れられるサイズなのがありがたかった。
「ありがとね、アービン。あれ、コート着てるんだ」
 カップケーキを飲み込んでから、セルフィは初めてアーヴァインをまともに見た。
 以前はトレードマークのように着ていたロングコート。バラムに来てからは目にする機会がめっきり減った。と言っても今アーヴァインが着ているのは、薄手の春用のコートだ。それでも膝下丈のコートは以前のアーヴァインを思い起こさせ、セルフィはちょっと懐かしく思った。
 そしてよく似合っている。
「うん、今日は風が強くて冷たかったんだ」
「そっか。外はそんなだったんだ」
 一日ガーデンの中にいて外の天気なんか全然分からなかったな〜とセルフィは2個目のカップケーキに手を伸ばした。
「あと、大きなケーキも買っておいたよ」
 ふっと微笑んでアーヴァインはセルフィのほっぺたに付いたカップケーキの屑を指でつまんだ。
「持ってきてないん?」
 撫でられたほっぺたをもう付いていないか指で確認しながらセルフィは、並んで座っている隣のアーヴァインを見た。
「アイスケーキだから、僕の部屋に置いてきたよ」
「え!?」
 てことは――。
 相手が一枚上手だったと、相変わらずにこにこ笑顔のアーヴァインにセルフィは片笑いをした。食べたければ彼の部屋まで来い、ってことだ。
 親切にもデザートを買って来てくれて喜んだら、そこにはちっさな謀(はかりごと)が巧みに仕込まれていたとか。
 なんか、ちょっと、クヤシイ。
「じゃ、後で貰って帰るね」
「ええ〜、それはないよセフィ〜」
 黙ってそれに乗るのも悔しくて、セルフィはちょっとだけイジワルをした。案の定アーヴァインはあからさまにがっかりする。そこがアーヴァインのカワイイところなのだ。謀を巡らすにしては情に流されやすい。
「さっさとパネル取り付けてしまおっと」
 まだ不満顔のアーヴァインにくるんと背を向けて、セルフィはまた作業に戻った。
 セルフィがビスを締める音だけが、大きくはない機械室に響く。アーヴァインはセルフィが留めているパネルがグラつかないよう固定して、彼女の作業を手伝う。最後の1枚もビス留めが終わり工具をしまいかけた時、新たな靴音が二人の耳に届いた。
「誰か来たのかな」
 いち早く気がついたらしいアーヴァインが、開けられたドアの向こうに視線を向ける。セルフィは特に気にも留めることなく工具箱を片付けた。と、不意に足音と一緒に自分を呼ぶ声を聞き取る。
「セフィを探してるみたいだよ」
「誰だろう」
 セルフィがここにいることを知っている人物は少ない。けれど声に心当たりがない。セルフィはその声の主が誰なのか懸命に考えた。
「男子みたいだね」
『男子……? もしかして、あの声――ジョシュア?』
 声がごく近くなってやっと思い当たる人物に行き当たった。
『なんでわざわざこんなトコまでくるん。しかもアービンがいてる時に……』
 なんて間が悪いのか。というより、しつこい。
 また先刻のようなやり取りを繰り返すのかと思うと、それだけで疲れる。それに今度はアーヴァインがいる。
 ん、? アーヴァインが――――?
「アービン、コートの中にかくまって!」
「えっ!?」
 セルフィは咄嗟にそう言って、何を言われたのか分かっていないアーヴァインの腕を引っ張ってドアに背を向けるように立たせると、自らアーヴァインのコートの中に飛び込んだ。
「めんどくさい相手やねん。上手くごまかして」
 小声でそう告げると、少しでも上手く隠れられるようにアーヴァインにぴたっとくっつく。
「セフィ!? あ、わかったよ」
 アーヴァインは慌てた様子でそれだけ言った。
 やがてジョシュアだと思われる足音が二人のごく近くで止まる。

「セルフィ先輩がこっちにいるって聞いたんですけど」
 はっきりと耳に届いた声に、やっぱりジョシュアだと確信するとセルフィは身を固くしてアーヴァインが上手く誤魔化してくれますようにと祈った。
「あ〜、残念。セフィいたけど入れ違いで出て行ったよ」
 数舜前とは全く違う落ち着いた声がくぐもってセルフィの耳にも届く。
「え、そうなんですかぁ〜。まだここいにいると思ったんだけどな〜」
「来る途中で会わなかった?」
「いいえ」
「そっか、残念だったね」
「そうですか。……じゃあ、ここにいても仕方ないですね。…………失礼します」
 アーヴァインは上手く誤魔化してくれた。その後、靴音が遠ざかり始めてセルフィは胸を撫で下ろした。
「と、やっぱりこっちに」
 遠ざかりかけていた足音が止まる。と、アーヴァインの身体がが微かにビクッとしてセルフィは思わず彼の服をぎゅっと握った。まさか、ジョシュアが何かに気がついて戻って来ているのか。そう言えば、上半身はすっぽり隠れているはずだけれど、足が見えているかも知れない。そのことを示唆するように、ドキドキと耳許で鳴るアーヴァインの鼓動は自分のもののようだ。
「……いえ……なんでもありません」
 躊躇いがちな声が聞こえた後、今度こそジョシュアの足音は遠くなり、やがて消えた。
 セルフィはようやく緊張が解けたとばかりに身体の力が抜けて、はたと気がついた。ものすごくアーヴァインに密着していることに。しかもアーヴァインのインナーは柔らかな薄めの生地で、自分も上着を脱いで薄着の状態だった。腕と言わず密着している部分すべてから、アーヴァインの体温が直に触れているかのように感じる。その上、ぴたっとくっつけている手には、呼吸の度に僅かに上下する肌の起伏まで分かる。
 それとコートの中に満ちるアーヴァインの匂い。それは確かに好き匂いだ。何でもない時なら落ち着きや安心感を憶える。だが、こういう場合は全く逆の効果をもたらす。
『これはマズ〜イ』
 ジョシュアが去っても一向に収まらない自分の動悸の意味を理解する前に、本能で離れなければとセルフィは思い、身体を後ろに退こうとした。が、いつの間にかアーヴァインの腕が抱きかかえていたらしく身動きが取れない。
 そりゃそうか、自分をコートの中に隠してくれているんだから。いやいや、納得している場合じゃない。
「アービンさっきの子帰ったんやろ、もう離してくれていいよ〜」
 動揺しているのを悟られないように、冷静な声を作る。
「さあ〜、どーしよーかな〜」
 ドキドキと大きな振動が伝わってくる彼の心臓とは裏腹に、その声音には余裕すら感じられた。何をどうするというのか、セルフィの胸の中に秘めやかで無視できない懸念が湧き上がる。
 というより、アーヴァインが離してくれないと、セルフィの感情としてもマズイと経験と本能が告げる。
「離してよ〜。ね〜ってば」
 密着した狭い空間で酸欠みたいに頭がクラクラしてきた。それは単に空気が薄いせいでだけはなく、どっちかと言うとアーヴァインの体温と匂いがいけないのだ。このままだと、じきに自分を別の感情が支配するようになる。だからここから早く出ないと――――。
「いやだって言ったら?」
『あ〜、もうっ、マズイ、すっごくマズイ』
 悪戯っぽく変わったアーヴァインの声にセルフィはますます焦った。
「セフィの方から飛び込んでくるなんてさ〜。こんなこと滅多にないし、離したくないんだけど」
 必死で気がつかないようにしていた感情を、アーヴァインの言葉はあっさり引き出しに掛かる。
『あたしのアホ〜!!』
 見事に自分で掘った墓穴の中で、セルフィは自分を呪った。
 本当にそうだ。後先考えず、自分からアーヴァインのコートの中に飛び込んだ。切羽詰まっていたとはいえ、もっと他に方法はあった、と思う。多分。なのに、よりによってアーヴァインの…………。最も安全で最も危険な場所へ自ら、とか。
 もう観念するしかないのかなと、セルフィは彼の服をまたぎゅっと握った。
「――セフィ」
 セルフィが覚悟を決めた時、拘束していた腕の力ががふっと緩んで視界が明るくなった。頭上からは、優しく柔らかな声がする。ゆっくりと声がした方に顔を上げると、壁の小さな照明のお陰で暗いところから顔を出しても眩しくはなく、熱のこもった頬には新鮮な空気が心地よくて、そしてアーヴァインの顔がよく見えた。彼は声と同じように優しく微笑っていて、セルフィはそれに安心感のようなものを憶え、近づいて来るアーヴァインの顔に自然と目を閉じた。
「セフィ……僕があげたカップケーキと違う果物の美味しそうな匂いがする」
 唇が触れるより先に、艶やかで囁くような声がセルフィの唇を撫でた。
『あ……さっき食べたさくらんぼ味のロリポップ……』
 アーヴァインからもたらされる甘やかな細波に自分から飲み込まれかけていたセルフィの意識が、ふっと岸へ引き戻される。
 アーヴァインは吐息でセルフィの唇に触れる位置で止まったまま、なかなか触れて来ない。
 あんなにセルフィの理性を溶かしておきながら。
 柔らかで熱い感触を期待していた唇は、もう、もどかしさすら感じているのに。
 アーヴァインの掌の上でいいように踊らされているかのような自分が恥ずかしくて涙が出て来そうだとセルフィが思った時、再びアーヴァインの声がした。
「セフィが僕のさくらんぼ……かな」
『っ!』
 最後の音はセルフィの待ち望んだ熱い唇と共に彼女の内側から聞こえた。

「…ん……っ」
 セルフィの背中が冷たさを感じた。口づけを交わしているうちに壁際に押しつけられていたらしい。
「アー……んくっ……アービン、あかん……っ!」
 アーヴァインの唇が首筋から下へ向かう気配を見せて、セルフィは消失しかけていた理性を必死で引き止めた。
「イヤ?」
 こんな時にだけ、彼はこんな風にイジワルな訊き方をする。そんな時、セルフィは大抵負けてしまう。だからといって、このまま黙っているワケにはいかない。こんなトコロでは――。
「そうじゃなくて、ここラグナロク」
「ん〜、それなら、アイスケーキ食べに来る?」
 優しげに微笑んでいるけれど、射抜くようにセルフィを捉えた瞳は揺らぐことなく、囚われた彼女もまたその瞳から逃れる気は最初から、ない。
「わかった。アービンとこ行く」
 はあ、と白旗の溜息を吐いて、セルフィがアーヴァインの顔を見ると、彼は嬉しそうに笑った。まるで欲しいおもちゃを買って貰った子供みたいに。
 セルフィは悔しく思うと同時に、笑顔のアーヴァインにとても惹かれた。惚れた弱みというか、こういうアーヴァインもとても愛しい。
「電源落として寮にもどろ」
 セルフィの脱いだ上着を肩にかけてくれたアーヴァインにセルフィの方から、「繋ごう」と手を差し伸べる。
「あ、アービンの買ってきてくれたアイスケーキってミス・モーグリの?」
「うん、そうだよ。セフィ、好きでしょ」
 セルフィの腰に腕を回し外へと促しながらアーヴァインの声は弾んでいた。
「そっか〜、ならリノアも呼んでいい? リノアも大好きなんだよ〜」
 セルフィは自分と同じように甘い物好きの友人のことを思い浮かべながら、照明のスイッチをオフにする。
「はははは、おもしろいこと言うねぇ、セフィ〜」
「れれっ」
 部屋の中の明かりが小さな非常灯一つになったと同時、セルフィの腰をホールドしたまま、アーヴァインの足がぴたっと止まった。
『――――し、しまった!!』
 アーヴァインの笑顔が引きつり笑いになっているのを見て、セルフィは自分の失言に気がつく。
 どうしてこう思いついた先からポンポン口にしてしまうのか、と猛省しても後の祭り。
「ア、アービン、どうしてドアロックかけるのかな〜?」
「さあ、どうしてだろうねえ〜」
 機械室から出るどころか、ドアのロックをかけ自分を見下ろすアーヴァインの含んだ笑顔に、セルフィは今日一番の覚悟をした。


アーヴァインの腕の中のロリポップ(セルフィ)は、このまま美味しくイタダキマスされてしまうのか!? 大好きな女の子がぴたってくっついて、さくらんぼ色のほっぺで見上げてくれば、そりゃアーの理性も吹っ飛ぶよね!
対アービンの墓穴掘りは、セルフィのデフォ装備です。キリッ しかも今回は盛大に2回もやってしまってます。うわぁ〜い。たまらんカワイイので、セルフィはいつもアーの前で墓穴掘ってればいいよ!

この話はみぐさんと互いに同じモチーフ『アーヴァインのコートの中のセルフィ』を使って話を書こう!ということになって生まれた話です。お互いに「こんなシチュで」と少し内容のリクエストもしました。
みぐさんのお話もいずれどこかで見られるようになると思いますので、その時には私からもお知らせさせて頂きます〜。(^-^)
ゲーム中で着ているアーヴァインのコートってやたらデカくて、「アレはきっと寒そうな恰好のセルフィを懐に抱き込む為に違いない」と、ずっと思っているよ、私。
※ この話はRの『Shangri-La』より前の時間軸です。
(2010.04.05)

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