AM 01:24

 眠れない。
 セルフィはベッドの上で、ころんと寝返りをうった。もう一時間以上こうやって寝返りをうってばかりいて、眠りにつくことが出来ずにいる。
 心配事があるとか、わくわくすることがあって興奮しているとか、そんな理由もない。
 しいて言えば――――、でも“アレ”はちゃんと自分なりの答えが出た。ということは、やっぱり違うか。
「水でも飲も」
 セルフィはベッドから降りてキッチンへと向かった。
「あちゃ〜、そうだった明日買ってこようと思ってたんだった」
 冷蔵庫を開けてから、ジュースもミネラルウォーターも切らしていたのを思い出した。がっかりとした気分でベッドに戻ろうとキッチンを出ると、暗い室内の窓のカーテンがぼんやりと浮かび上がって見えた。ガーデンの頂きにある環が淡い光をゆっくりと点滅させているせいだろう。セルフィはその明かりになんとなく誘われたような気がした。
「今から自販機に買いに行ってこよ」
 どうせこのままベッドに入っても、眠れそうにない。それならいっそ一度すっぱり起きてしまった方がいい。
「んっ」
 机の上に置いてあったサイフを取り上げた時、そこにちょこんと飾っている小さなテディ・ベアの青紫の瞳と目が合った。
「アービンもいてないしね〜」
 今、外任務中の同じ瞳の色の青年のことを思い出す。
「アービンがいれば、起こして付き合ってもらえたかな〜」
 手の平の上のテディ・ベアに問いかけてみた。
「冗談、冗談」
 窓の外で弱くなった光りの加減で、テディ・ベアが困った顔になったように見え、セルフィは頭を撫でてから自室を後にした。


 日付が変わったばかりのガーデンの中は昼間の賑やかさが嘘のような静けさだった。
 音をたてないように気遣いながら歩いても、足音が響いて聞こえる。任務で夜遅く帰って来た時なんかは全く気にもならないのに、まるでいけないことをしているのを、無言で咎められているような気分だ。だが、同時にそれがスリリングでもあり、ワクワクする。自分もみんなもあまり知らないガーデンの夜の姿。闇の神秘に興味を惹かれる。セルフィは常夜灯の小さな明かりの点いた通路を、そんなことを思いながら歩いていた。
「うっ、ない……」
 寮の談話室に置いてある自販機までやって来たが、そこには夜の薄闇の中、無情にも売り切れを示す赤いランプが点滅していた。かろうじて購入出来るものは、甘ったるいジュース類しか残っていない。
 ここにないとなれば食堂まで行くしかない。もう、どうせなら食堂まで行ってしまえと、セルフィは自室には戻らず食堂へ足を向けた。


「ぷはー」
 さすがに食堂に設置してある自販機は種類も豊富で、目当てのイオン水もここでは売り切れていなかった。ようやくありつけた一口は、美味しさも格別だ。
「ここまで来たら一周して帰ろっかな」
 セルフィはもう一口飲んで、ペットボトルを持ったままガーデンのホールを散歩がてら歩くことにした。途中、巡回の警備員の姿を遠くに見つけて、鉢合わせにならないよう案内板のあるところで右に曲がりゲートの方へと進路を変える。
 建物から出ると照明も減り今までより一層暗く、夜を感じる。涼やかな風も少し吹いていた。やがてゲートの近くまで来ると、そろそろ引き返すために身体を反転させようとした時、カードリーダーの辺りからこちらへ歩いて来る人影が見えた。
「誰だろ」
 珍しいことだ。任務帰りならあり得るが、その場合は車で駐車場へ入ることが多く、正面ゲートから入ってくることはあまりない。特にこんな時間だと。
「サイファー?」
 近づいて来た姿は、セルフィのよく知る人物だった。
「んあ? お嬢? なにやってんだ、こんな時間に」
「眠れなくて散歩〜。サイファーこそ、こんな時間にどこで何してたのかな〜?」
「うまい茶が手に入ったんで渡しに行ってたんだよ」
「だれに〜?」
 女の子とかだったら言いつけてやろうと、セルフィは思いっきり含んだ笑みで覗き込むようにサイファーを見上げた。
「守衛のじーさんに」
「え、外に出てたんじゃなかったの?」
 サイファーはカードリーダーの辺りから歩いて来たので、てっきりバラムの街で夜遊びでもしていたのだと思っていたが、全く予想外の言葉が飛び出た。
「やっぱりな、そんな風に思ってたのか。ときどき守衛のじーさんのボケ防止のために話をしたり茶を飲んだりするんだよ」
 セルフィはそう言われてもまだピンとこなかった。サイファーとおじいさん。その組み合わせは今まで見たことがない。
「年寄りの話ってのは、侮れないんだぜ。だてに人生経験が多いわけじゃない。くだらない話の中に思わぬヒントが見つかったりするもんだ。特にあのじーさんは、俺がガキの頃からずっとあそこにいて、俺たちのことをよく知っている。日頃世話になっている礼に、じーさん好みの茶を手に入れたんで持って行ったとこだ」
「そっか〜、旧知の仲なんだ。ていうかおじいちゃんと孫ってカンジ?」
「孫かどうかはわからねーが、セルフィからそう見えるんなら、それもアリかもな」
 まんざらでもなかったのか、サイファーは少し照れくさそうに笑った。
「相談とかもする?」
「他愛のないことだが、たまにな」
「ふう〜ん」
「なんだその信じてなさそうな顔は。俺だって悩むことくらいあるんだぞ」
「あ、ごめん。そういう意味じゃなかったんだけどね」
 セルフィは守衛のおじいさんのような相談の出来る大人が傍にいるサイファーを、ちょっと羨ましいな〜と思った。と同時に、彼には育ての親がいないことも思い出した。サイファーはそんなことちっとも気にしてはいないんだろうけど、セルフィはちょっと複雑な心境になり言い淀んだのだ。
「なにか悩みでもあるのか?」
「え? 悩み? …………う〜ん」
 言い淀んだセルフィをサイファーは別の意味に受け取ったらしかった。だが、サイファーにそう言われて、それが眠れない原因ではないとは思ったけれど、ちょっとだけ心の奥に引っ掛かっていたことが表面へと浮かんできていた。
「俺でいいならいくらでも聞いてやるぜ」
 普段の声よりもずっと優しく聞こえたのは、聞き間違いではない。

「あたしのね、一番大事なことってなんだと思う?」
 お願いする前にサイファーに促され、近くにあったベンチに並んで座ってからセルフィは口を開いた。
「アーヴァインだろうが」
 見事なまでの即答。
「ちがっ――わないけど、ちがう〜!」
 ニヤリと笑うサイファーに、大した悩みではないと思っていた自分の心の中が、ちゃんとした文法に則れないくらい、こんがらがっていることに気がついて、またそれが悔しくて、セルフィはサイファーを睨んだ。
「あたし個人じゃなくてね、SeeDセルフィ・ティルミットとして大事なことは何かな、って思ってたんだよね」
「答えが分からないのか?」
「ううん、ちゃんとある。SeeDとして大事なのは、SeeDたらんとすること、だと思う。それが最優先で、それ以外のことは二の次。あたしはSeeDになるために、バラムガーデンに来たんだから」
「正論じゃないか。なんで悩む」
 サイファーはベンチの背に両腕を引っかけるようにもたれて、月のない星空を見上げていた。
「ひょっとしたら、それ以外をないがしろにしている口実なのかな〜、と最近思った」
 セルフィもベンチにもたれて同じように瞬く星々を見上げた。
「SeeDはハンパな努力でなれるもんじゃねーし、続けられるもんでもねーだろ。アレもコレもと自分のキャパ超えて無理するより、SeeDであることの努力をするのが当然だな、少なくとも俺はそうする。だから、俺はSeeDになれないワケよ。他に面白そうなことが多すぎる」
 セルフィの方に向いて、ニッと笑った悪戯っぽい少年のような顔を、セルフィは大人だなと思った。
「サイファーって優しいよね」
「ああん?」
「優しいね、サイファーは」
 アーヴァインのストレートな優しさとは違う、ちょっと湾曲した優しさ。普段の言動は厳しく見えがちでそれに隠れて気がつきにくいけど、彼は思い遣りも優しさも持ち合わせている。今のだって、自分のことを言っているようで、セルフィのことを肯定してくれているのがちゃんと分かった。

―― 何かを成し遂げるためには、何かを犠牲にしなければならない時もある。 ――

 かつてトラビアガーデンを離れる時、尊敬する教授から贈られた餞の言葉。
 教授の言葉通り、SeeDになってからそれを強く実感した。一瞬の判断の遅れが、気の緩みが、自分の、仲間の、依頼主の命取りになる。プライベートでさえ任務がらみで、アーヴァインに二度と逢えないと思うような死ぬよりつらい目に遭いかけたことがある。
 自分が身を置く場所はそんな世界だ。ガーデンが世界に誇る傭兵のエリート。血の滲むような努力をしても、SeeDになれるのは候補生の中のほんの一握り。そういった存在の自分は本来なら、プライベートも全て“SeeD”であるべきではないかとまで思ったこともある。
 けれど、まだまだ未熟でそこまで割り切れていない。何かつらい思いをするとつい挫けそうになる。些細な出来事が心を鋭く刺し貫くことがある。それを和らげてくれるのが、サイファーを含む仲間たちで、中でも……。
「この前の掲示板の一件か?」
「なんで!?」
 一言も触れなかったのに、なぜそこなのかとセルフィは思った。
「アレ意外とセルフィには堪えてるんじゃないかなと思ったんだが、違うのか?」
「バレバレか〜」
 全く自分の周りはどうして揃いも揃ってムダに勘がいいのか。というより自分が分かり易いのだろうか。
 その最たる者がアーヴァインだけれど、さすがに悩みの主たる原因でもある彼は聞きづらいので、今サイファーに訊いてみたのだった。
「それなら、悩む以前だろ? あんな“恐ろしくこっ恥ずかしいこと”をされれば――」
「ぎゃーーー!! それ以上言わんといてっ!!」
 深夜にも拘わらずセルフィは思いっきり声を張り上げてしまった。この静けさではカードリーダーの辺りまで聞こえてしまったことだろう。そのこととサイファーの言った内容に、セルフィは途端に居たたまれない恥ずかしさに襲われた。


 ガーデン中を戦々恐々とした状況に落とし入れた例の悪質な掲示板の一件が片付いてから、一週間ほど経った日のことだった。
 セルフィは、キスティス、リノア、サイファーと一緒に食堂で昼食を摂ることになった。アーヴァインは少し遅れるということだったので先に食事をしていると、10分くらい遅れてアーヴァインがやって来た。やって来たと言っても、セルフィたちは彼が来たことに気づかず、アーヴァインがセルフィの名前を呼んだのでやっと分かった。が、その呼び方が尋常ではなかったのだ。
 昼食時の食堂は人が多く賑やかだ。この時間、ガーデンの人間が最も多く集まるのと、食事というものは会話をしながら摂る者が多い。喧噪とも言えるような中、アーヴァインは厨房にいても聞こえるんじゃないかというようなバカでかい声で、セルフィの名前を呼びあろうことか「愛してるよー!」と言い放ったのだ。
 あまりに突拍子もない出来事に、セルフィは食べていたグラタンのマカロニが鼻から飛び出すんじゃないかと思うくらいぶったまげた。気がつけばものすごい勢いでアーヴァインに駆け寄り、まだ「マイハニー」だの「マイプレシャス」だのべらべら喋り続けているアーヴァインのほっぺたを、両手でみ゛ーと思いっきり皮が伸びる限界まで引っ張っていた。さらにセルフィが鬼の様な形相で睨みつけているのにも拘わらず、アーヴァインは嬉しそうにニヘラ〜と笑っていて、またカーッとなってセルフィは、疾風の如くアーヴァインを食堂から連れ出した。


「あんまりバカなんで、一瞬殴ってやろうかと思ったな、アレは」
 サイファーは顎に手を当ててくつくつと思い出し笑いをしていた。
「もう、思い出させんといてよ」
 セルフィにとっては思い出したくない、恥ずかしくてたまらない出来事なのに、そんなことお構いなしとばかりに隣で延々笑い続けるサイファーが憎らしかった。
「けど、あれはアイツなりにお嬢を守ろうとしたんだぞ。それは分かってやれ」
「うん、分かってる」
 それはセルフィもちゃんと理解していた。ただ、あんな恥ずかしいことをしでかすとは夢にも思っていなかった。
 結果として、大勢の前でのあのこっ恥ずかしい宣言は色んな意味で効果的だった。特にアーヴァインとセルフィ双方にヨコシマな好意を寄せる者を萎えさせるのには。
 そしてこれでセルフィが嫌がっても、バラムガーデンでは“公認”として見られる。日頃から自分のポジションに危機感を抱いているアーヴァインにとっては一石二鳥以上に得るものが多いことが、セルフィ以外の仲間にはよく分かった。
「構内放送でやられるよりはマシだろ」
「それは、最大級にイヤ!」
 食堂での一件を見ては、やりかねないのがセルフィは恐ろしかった。
「アーヴァインにとっては、あれが精一杯の譲歩だ。気持ちとしては、書き込んだヤツ一人一人締め上げたかったはずだ」
「うん」
 あの宣言は本当に恥ずかしかった。お陰で二週間ほど食堂に行くことが出来なかった。けれど、ちょっと嬉しかったのも事実だった。セルフィにだけ心地の良い言葉で終わらせずに、ああやってみんなの前で行動で示してくれたことが。
「ありがとね、サイファー。さっきは、後押ししてくれて」
「SeeDにとって大事なことってヤツか? あれは俺の本心だぞ。ついでにアーヴァインも同じだと思うぞ」
「うん、そうだね」
 だからこそ嬉しいのだ。自分ひとりなら間違いではないかと自信が持てないけれど、他にも同じ意見の人がいるのだと思うと、それだけで心強い。
「あ、車が通った。誰か帰って来たんかな」
「ん? 今頃か」
 正門を横切り駐車場の方へ入っていくガーデン車両が一台見えた。
「お……」
 サイファーの表情がパッと変わった。
「知ってるの?」
 至極当たり前な質問をしたセルフィを、サイファーはニヤリとした笑顔で見下ろした。
「ウワサの彼氏が帰って来たんだろうよ」
「え!? アービンが帰って来るのは明日の朝だよ」
 セルフィは自分の情報とサイファーの情報とに食い違いがあるのが納得いかなかった。恋人なのだから、自分の情報の方が正確だという妙な自信からつい反論してしまった。
「知らないのも無理ないか。連絡があったのは、勤務時間の終わったお嬢がキスティスの職務室を出ていった後だからな〜」
「む〜」
 だが、残念ながらサイファーの情報の方が、セルフィの情報よりも新しいのは本当らしかった。のと、ついでに思い出した。寮の自室に戻ってすぐ、携帯電話を充電器に挿したまま触っていなかったことを。
「ホントにアービンなん?」
「ああ、間違いないぜ。明日の昼飯賭けてもいいぞ」
「分かったよ。教えてくれてありがとね。あたし迎えに行くから、じゃあね」
「それがいい」
 これ以上サイファーに突っかかっても、いいようにからかわれるだけだ。ヒラヒラと手を振るサイファーを尻目にセルフィは駐車場へと向かった。



「ん゛〜、どうしよ」
 駐車場へと続く曲がり角から顔だけ出して、セルフィは通路の奥を見て唸った。
 アーヴァインを迎えに行こうと思って来たものの、任務帰りの彼は一人ではないだろう。もっと早い時間ならまだマシだけれど、こんな深夜ではアーヴァインを迎えに来たのを知られるのは、ちょっと恥ずかしい。アーヴァインに言わせると「いまさら〜?」なんだろうけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「あ、来た」
 こつこつと通路を歩く足音と、少ない明かりの中に人影が見えた。セルフィはぐぐっと目の下まで壁に隠れて様子を窺った。
「アービンだけ?」
 幸運にも一緒に行ったはずのSeeDはもう寮へ帰ってしまったのか、歩いて来る人影は一つで、アーヴァインだけのようだった。
「おかえり〜」
 そうと分かると、セルフィはアーヴァインに小走りに駆け寄った。
「わっ、えっ!? セフィ、どうして??」
「んふふー、超能力」
 肩に掛けていたバッグがズルッと落ちるのにも気づかないくらいアーヴァインは驚いていた。
「ただいま、セフィ〜」
「わわっ! …んっ」
 アーヴァインはセルフィをぎゅう〜と抱きしめたかと思ったら、キスをしてきた。

「ア、アービン」
 なかなか解放されず、アーヴァインの胸をトントンと軽く叩いて離して欲しいと意思表示をすると、意外にも彼はあっさりとセルフィの願いに応えてくれた。
「ん〜?」
「いつまでこうしてるん?」
「ん〜」
 キスこそしていないものの、壁に倒れ込むようにしてセルフィを抱きしめたままアーヴァインは動こうとしない。
「あのね、警備員さん今巡回中やから、はよ動かんと見られるんやけど」
 いつまでも動きそうにないアーヴァインに、セルフィはちょっとはったりをかましてみた。
「ん〜」
 さっきと同じ何とも気のない返事しか返って来ない。そんなことをしているうちに、本当に足音が聞こえて来た。このままでは見つかってしまう。やましい気持ちはないが、ある意味これはやましいことの最中だ。そんなところを人に見られるのは途方もなく恥ずかしい。
「アービン、んんっ」
 セルフィを更に壁に押しつけるようにしてアーヴァインは再び唇を重ねて来た。
「大丈夫、“コレ”で僕らは見えないから」
 肩につんつんと何かが触れて、横に大きな観葉植物があるのをセルフィは思い出した。
「…けど……」
 言いたいことだけ言うとセルフィに喋る隙は与えず、アーヴァインはまたキスを繰り返している。
 息苦しかったりするワケではないけれど、警備員さんの足音はとっくに消えてしまったけれど、いつまでもここにいるワケにもいかない。そう思った時、アーヴァインがふっと離れ、はあ、と息を吐いたのが分かった。
「アービン、疲れてる?」
 こんなところでいつまでもキスをしてきたりする、いつもの彼らしくないのがセルフィは気になった。
「ん、ちょっとね〜」
 やっぱり、と思う。任務帰りのアーヴァインにしては覇気のない声だ。
「寮に帰ろ」
「セフィに話したいことたくさんあるんだ。膝枕もオマケしてくれる?」
「うん、今日は特別ね」
「ありがとう、セフィ」
 アーヴァインは嬉しそうに笑うとセルフィの頬にもう一度軽くキスをした。
 食堂で堂々と恥ずかしいことをやってのけた人物とは思えないような、普段の陽気な彼とはずいぶん雰囲気が違う。セルフィしか知らないアーヴァインの一面。滅多にあることではないけれど、こんな時はアーヴァインのしたいようにさせて、彼の話をじっくりと聞く。そうするとアーヴァインはいつの間にかセルフィの手を握って眠りにつく。小さい頃のようにあどけない穏やかな顔をして。その特権がセルフィは何より大切で愛おしかった。

 セルフィとアーヴァインが寮に戻り、軽い空気音と共にドアが閉まると、ガーデンは再び静寂な宵闇に包まれた。


ただ二人、寄り添うようにして眠る。そんな日もあります。何だかんだ言いながらも、セルフィはアーに甘い。おまけに、かなりアーのこと好きだ……な。
にしても、アーのやることはいちいち恥ずかしい。というか「そうだ、海に行こう!」辺りで思っていたアーの野望の一つが叶ってしまった……。

※サイファーと守衛のおじいさんが知り合いという設定は「Pianissimo Life」さまの設定です。管理人の木立さまに了解を得て今回使用させて頂きました。

作中に出てきた、セルフィが『死ぬよりつらい目に遭いかけた』というくだりは、Rの「絶対唯一君独尊」の後半の事件のことです。
(2009.08.26)

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