Photogenic...

「あ〜 これ欲しいな〜、でもな〜軍資金が……」
 セルフィはキーボードに手を置いたまま、がっくりと項垂れた。この前、振り込まれた給料をザクザクと使ってしまい、早くも小遣いはピンチ。でも、ディスプレィの向こうで、ほ〜らほら今買わないとどっかにいっちゃうよ〜と声が聞こえる。でも、お金がない、ないものはない。仕方がない、コレ以上見ていても目の毒になるだけだ。セルフィは端末の電源を落として、席を立った。
「美味しいものでも食べにいこ〜」
 食堂のデザート類は意外と侮れない、特に行方知れずだったおばちゃんの息子が食堂に入ってからは、本当に充実している。彼は実に精力的に色んな物にチャレンジする。たま〜に、とんでもないメニューもあったりするけど、それもまたびっくり箱みたいで楽しい。ありがたい事に、リクエストも気前よく受けてくれたりする。女の子限定だけど。
「セルフィ、一人か?」
 今日はどれにするか、メニューを眺めていたら、ふいに横からスコールに声を掛けられた。
「うん、一人だよ〜、なに?」
「ちょっと武器改造の材料集めのバトルに行くんだが、メンバーに入ってくれないか?」
「いいよ〜ん。いらないアイテムを貰っていいなら」
「ああ、構わない。じゃ、後でな」
 やった、いらないアイテムを売れば、お小遣いピンチから抜け出せる!
「おばちゃん、チョコパフェと苺のヨーグルトとフルーツタルト2個とアイスティー!」
 既に臨時収入を手にした気分で、セルフィは注文をしていた。



「お疲れ、取り敢えず一休みしてくれ、出発は2時間後だ」
「了解〜」
 貰ったいらないアイテムを早速売って、満足な額とまでは行かなかったが、次の給料日まで贅沢しなけれ十分に足りる位はお金が出来た。セルフィはほくほく気分で、ホテルの部屋のドアを開けた。
「うあっ!」
 いきなり変な叫び声が聞こえて、驚いた。何事かと、まだニヤケている顔を声の方へ向けたら、今回のもう一人メンバーのアーヴァインが着替えをしていた。といっても、Tシャツを脱ぎかけていただけなんだけど……。流石にマズイと思い「ごめ〜ん」とセルフィがドアを閉めかけた時、チャーーンスと彼女に囁きかけるものがあった。
「ちょっと止まってアービン」
「なに、なに!?」
 セルフィの強い口調に訳も分からず、アーヴァインはTシャツを半分脱ぎかけたまま固まった。
「カッコイイ!!」
「何が〜?」
 平静を装い返事をしたが、大好きな少女の言葉にアーヴァインの繊細な心臓はドッキドキ。
「背中の筋肉!」
 なんだ僕の事じゃないのか……。少しはセルフィに気に入って貰えたのかと思ったけれど、ぬか喜びだったらしい、残念な事に、本当に残念な事に……。
「アービンて意外とバランスのいい筋肉してるよね、お腹とか六つに割れてるし」
 いつの間にか、アーヴァインの前に廻り、セルフィは彼の腹筋をツンツンと指で突いていた。
「あたしも憧れるな〜、六つに割れた腹筋。触ると分かる位にはあるんだけど、力を入れないとパッと見は分からないんだよね」
 今度はTシャツの裾をめくり、ぷにっと自分の肌を摘んで言うセルフィの姿を、アーヴァインはぼ〜っと見つめた。その姿に、うっかりすっかりうっとり花畑が見えかけた所で、ハッと我に返った。
「せ、セフィ、女の子はセフィ位が可愛いと思うよ」
「そうかな〜」
 まだ自分の肉をつまみながら言うセルフィに『ムキムキよりぷにぷにのセフィが好き』とアーヴァインは心の中で呟く。
「あ、写真撮らせてくれない〜?」
 その申し出にかな〜りぶったまげたが、セルフィが自分に興味を持ってくれるなら、一肌脱ぐ位何でもない! とアーヴァインは即座に答えた。
「い、いいよ」
 セルフィはにこにこと嬉しそうに、シャッターを切っているし、写真を撮られるのは少し恥ずかしいが、好感度アップの為と、アーヴァインはセルフィのポーズ要求に誠心誠意応えた。
 セルフィが、「ありがとう」と、とても嬉しそうに、アーヴァインにお礼を言って部屋を出て行く際の「アービンの取り分は一割ねv」という言葉に何か良からぬモノを感じたが、自分の写真をセルフィが欲しがったといういうだけで、その真意などどーでもいい位、この時のアーヴァインは幸せだった。

2008.01.19〜
アービンはいつでも振り回される。

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ウェーブ

 可愛いって言われたんだよね、小さい頃。
 ふわっとウェーブの掛かった髪が可愛いわね、って僕たちを慈しんでくれた女性(ひと)が。
 それと、もっと重要なのは、大好きな女の子が、僕の髪が好きだって言ってくれた。
『ふわふわでやわやわだ〜』
 嬉しそうに言ってくれたのが、すごく嬉しかった。でもその子とは直ぐに離ればなれになっちゃって……。
 それから僕も、ガルバディアに行く事になって。そこでもまた、ふわんとした髪が可愛いね、って言ってくれた人がいた。ホント、それも嬉しかった。でも、やっぱり一番嬉しかったのは、あの子が言ってくれた言葉だった。
 だから、あの子との思い出が消えるのが怖くて、髪を切ってしまうと思い出まで消えて無くなりそうで、どうしても髪を切るのがイヤだと駄々をこねた。
 今思うと、困ったような顔をした養母(かあ)さんに、すごく悪い事をしたような気がして、それ以来わがままはあんまり言わなくなった、かな。
「分かったから、これで結んでおきなさい」
 と、僕の髪を括ってくれたのは養母さんだった。それ以来かな、この長さで固定しちゃったのは。ごくたま〜に「髪の長い男なんて変なヤツ」とか言われたけど、そういう時は養母さんが「関係ない!」って逆に怒ってくれたりして、嬉しかった。
 養母さん大好きだった。

 ガルバディアガーデンに入ってからは、この髪型が妙に女の子受けが良かった。変な気分だった。
「似合うよ」
 と言って貰えたのは嬉しかったけど、なんていうのか、そういうつもりは無かったから。あれかな、テンガロンハットとの相性が良かった、ってトコかな。で、いつの間にか、テンガロンハットと長髪がトレードマークになった。
 “自分を創り出す”っていう意味では役に立ったと思うけどね。結構それで、本心を誤魔化す事が出来たっていうか、目線をずらせる事が出来たっていうか。この辺は、解って貰えなくていいや。僕だけが知っていれば良いことだから。

 奇跡的に、『ふわふわでやわやわだ〜』って言ってくれた子に再会したけど、その子そんな事以前に自分の事も綺麗さっぱり忘れていて、あまりにもショックで、お星様になりたい、とか思ったな〜。自分でも情けない位、今でもだけど小心者だと思う。
 そして、その子の事が、やっぱりもの凄く好きだと自覚した。
 再会出来たんだから、僕の当初の願いは叶ったという事になる。だから、もう髪を伸ばしてる必要も無かったんだけどね。今度は、想いが通じるまでの願掛けにしよう、とか思っちゃって――――。
 この願いばかりは、もうホント絶対無理なんじゃないかと何度思ったか。あの子に会えない年月の方が遙かに長かったのに、あまりの鈍さに無謀な願いなんじゃないかと、何度も打ちのめされたよ。

 そして――――。
 こうやって、僕だけが見ることの出来るあの子の領域を手に入れたけど、相変わらず長髪のまま。
 だってさ〜、僕に甘えるとき、大抵髪を引っ張ってくるんだよ、あの子。これって、かなり――――だよね、そう思わない?
 絶対、切るの勿体ないって!

 表向き髪を切らない理由は、ウェーブが気に入ってるから切らないって事にしてあるけど、真実はそういったトコ。もちろんあの子も、ウェーブが気に入ってるから切らないんだと思ってるけどね。


――アービンの髪、ふわふわでやわやわだ〜――

2008.04.27〜
アーヴァイン好きのあなたに10のお題 より 002 ウェーブ

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桜 桃

「おいしいね〜」
 セフィは僕に向かって一度そう言って、後はひたすらパクパクと口を動かした。といっても言葉を発する事はなく、専らさくらんぼを食べる事に費やされた。

 確かにこのさくらんぼは美味しい。
 たまたま任務に行った先がさくらんぼの美味しい所で、たまたまお土産にどうぞと、感謝の心と共に貰った。何しろ摘み立てだしね、そりゃ美味しいって。
 そして僕は当然のようにセフィを誘ったよ。予想に違わず、瞳をキラキラ輝かせ思いっきり感謝の眼差しで見上げられた。
 嬉しいですよ、と〜っても。それが純粋に僕に向けられたものならばね。
 どう見ても、セフィの視線は僕の腕の中にあるカゴに釘付けなのが悔しいです。
 とはいえ、セフィの笑顔が見られて幸せなのが僕なんだよね……我ながら末期だと思う。

 セフィがさくらんぼを頬張っている間、どうせ会話なんて楽しむことは出来ないと半ばあきらめの境地で、僕は読書を決め込んだ。
 数ページめくってはさくらんぼを一つ摘む。
 視線はずっと本に落したままだったけれど、摘むたびに、その感触でさくらんぼが見る間に減っているのは分かった。何個目かのさくらんぼに手を出した頃、本の内容がとても面白くなってつい手が止まってしまった。読んでいた内容が一段落ついた所で、さくらんぼを摘んでいた事を思い出し、僕はおもむろに口に運んだ。

 ――が。

 妙に視線を感じて、ふいにそっちの方を見ると、じ〜っと僕を見ているセフィと目があった。
 けど、確かに自分を視ている視線の意味に、僕はちょっと違和感を感じた。
 全く――。
 本当に……。
 どうして、そんな可愛い表情(かお)してこっちを見るかな。
 そして、顔には「さくらんぼが欲しいです」とばーんと書いてあるのが見えた。

『コレがホシイ?』

 唇でさくらんぼを挟んだまま、僕は指でセフィに問いかけた。
 セフィは、一瞬ためらってこくんと頷いた。
 やっぱりか――。
 でも、今日はこれを大人しくセフィの口に放り込んであげる事はしないよ。欲しかったら自分で取りに来てくれるかな。
 僕は暗に笑顔で仄めかしてじっとしていた。セフィにも僕の意図は伝わったのか、明らかな不満顔が見えた。それでも僕が動かないと分かると、諦めたようなタメイキと共に視線が下がった。

 あちゃ〜、諦めちゃったか、作戦失敗。

 僕がそう思った時、またセフィが僕の方を見た。ちょっと頬が赤い。次の瞬間、セフィの甘くて柔らかい唇が僕の唇を捉えていた。情けない事に、僕はあまりに予想外の事に呆けてしまって、気が付いた時にはセフィはさくらんぼと共に離れていた。


「僕のさくらんぼ〜」
「あ、ゴメン。いいのかと思って食べちゃった」
 セフィは“そっち”のさくらんぼだと思ったらしい、当然と言えば当然だけど――。でも僕が言ったさくらんぼは別なんだよね。


「いいよ、ちゃんともらうから……」
「え?!」
 何のことか分からずきょとんとしているセフィのさくらんぼみたいな唇を、僕はイタダキマスした。

2008.07.03〜
さくらんぼって、妙にエロちっくです。(と、コメントを頂きました。私もそう思います!)

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